早河シリーズ最終幕【人形劇】
「警部、早河さん。これを見てください」

 真紀が早河と上野警部に見せた二枚の用紙はパソコンのページをプリントアウトしたものだ。

「こちらが黒崎の自殺した同級生の三浦英司です。芸能活動をしていた彼のファンサイトから写真を見つけました。こっちが赤坂ロイヤルホテルにいた男です」

 早河と上野は二枚の紙面を見比べて困惑する。自殺した三浦英司とロイヤルホテルにいた三浦英司、同じ顔が二つ並んでいた。

『貴嶋、どういうことだ? 15年前に自殺した三浦と同じ顔の男がなぜ存在している?』
『さぁ。どうしてだろうね?』
『赤坂ロイヤルホテル2702号室。この部屋に“三浦英司”は泊まっていた。浅丘美月がいた3003号室からも2702号室と同じ指紋や毛髪が採取できた。だが、今回逮捕したカオス関係者や前科者リストのDNAと照合しても誰とも一致しない』

憎たらしくほくそ笑む貴嶋に詰め寄っても貴嶋は余裕の態度を変えない。

『試しに佐藤瞬のDNAとも照合してみたが、一致しなかった』
『正体が見えない相手を追いかけるのは大変だねぇ』

 貴嶋の言い様はまるで他人事だ。“三浦英司”が貴嶋の切り札であることは間違いない。

そして三浦は寺沢莉央にとっても切り札だったのだ。協力関係を結んだ莉央も、三浦の存在は早河達にはひた隠しにしていた。

『寺沢莉央が俺達に渡したUSBにはカオスの機密情報が入っていた。いくら彼女がクイーンであったとしても、あれだけ詳細で膨大な情報をひとりで集めたとは考えにくい。寺沢莉央には協力者がいたはずだ。その協力者が三浦英司じゃないのか?』
『莉央が私に隠れてこそこそと何かをしていたことは知っている。だがそんなことまで私は把握していないよ。莉央に聞こうにも、彼女はすでに天に召された』

莉央を偲んでいるのか、貴嶋の瞳に一瞬だけ悲しみの色が宿った。

『お前って意外と惚れた女には甘かったんだな。普段のお前なら裏切りに気付いた時点で裏切った相手を始末すると思うが、寺沢莉央にはそうしなかった』
『……自分でも驚いているよ。愛した女に失脚させられるのも悪くはないがね』

 早河の夢に何度も現れたのっぺらぼうのマリオネット。
顔のないマリオネットの名は、貴嶋佑聖。

 貴嶋の物語は辰巳佑吾のプロデュース通りに進んでいた。
辰巳の操る糸の先で、貴嶋はこの国の支配者として君臨する。それが14年前から定められた筋書きだ。

その筋書きを崩した存在が早河仁と寺沢莉央。

 特に寺沢莉央の存在はプロデューサー辰巳佑吾最大のイレギュラーだったのだろう。
貴嶋が莉央と出会った時から、辰巳の計画の破綻は決まっていたのかもしれない。
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