早河シリーズ最終幕【人形劇】
「パパの夢は?」
『パパの夢か……それならもう叶ったよ』

 白い息を吐いて顔を上げると人影が見えた。早河の手が真愛の猫耳のニット帽に触れ、彼は真愛の身体を抱き上げる。きゃははっと声をあげる真愛が近付く人影に気付いた。

「あ! ママァー!」

早河の腕の中で真愛が手を振った。早河の妻のなぎさが真愛に手を振り返す。
早河の夢は叶っている。欲しかったものはここにある。

『話できた?』
「うん。きっと莉央が私達を守ってくれる」

 なぎさはマフラーの下にあるネックレスチェーンを通した金色の指輪に触れた。寺沢莉央の形見だ。
今日は莉央の命日であり、貴嶋佑聖の38回目の誕生日。あの日から7年が経過した。

 7年前の2009年12月22日に早河となぎさは婚姻届を提出し、二人は晴れて夫婦になった。2011年の3月には娘の真愛が産まれた。

 早河は後見人の武田健造氏ルートから回る仕事を請け負いながら探偵業を続け、なぎさは真愛を出産した後、以前から社員にと誘われていた二葉書房の文芸編集部に転職した。

犯罪組織カオス壊滅後はあの激動の日々が嘘のように早河達は穏やかな日常を過ごしていた。これからもこの平穏が続くと思っていた。
……2ヶ月前までは。

 2ヶ月前の2016年10月23日。東京拘置所に拘留されていた貴嶋佑聖が脱獄した。

貴嶋は警察庁指定被疑者特別指名手配として全国に指名手配され、ICPOによって国際手配もされた。
しかし脱獄から2ヶ月が経っても貴嶋逮捕の知らせも目撃情報すらない。

「パパ! お腹空いたぁ。ハンバーグ食べたい!」
『わかったわかった。昼飯まだだったな』

早河はなぎさと目を合わせる。なぎさは娘を抱える早河の腕に手を添えた。

 貴嶋との闘いはまだ終わらない。人の心に闇がある限りマリオネットは作れる……。
7年前の貴嶋の言葉通り、今も続々と貴嶋のマリオネットは作られている。

 終わりは新たな始まり。
新たな物語の幕が開かれた時、再び魔王は人類に謎を問いかける。


 ──“運命の赤い糸は、なぜ赤い色をしていると思う?”──



早河シリーズ最終幕 人形劇 ーENDー
→短編集【masquerade】・完結編【魔術師】に続く
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