早河シリーズ最終幕【人形劇】
久しぶりに間近に見る人気俳優はかつて以上にキラキラとした輝きを放っている。
『なぎさちゃん、彼氏の前でそんなこと言っていいの? ヤキモチ妬いちゃうよ?』
「一ノ瀬さんなんで知って……」
フランクな雰囲気も相変わらずだが蓮がなぎさの彼氏と表現した先には早河がいる。玲夏を見るとシルビアのメイクのまま眉を下げて笑っていた。
「ごめんね。蓮には二人のことよく話してるの。だからなぎさちゃんが仁とくっついたことも言っちゃったのよ」
『顔に似合わずお喋りな女だな』
「何か言った? 鈍感探偵さん」
『マリオネットの化粧のまま含み笑いするな。不気味』
「仕方ないでしょ。この後記念撮影するからメイク落とせないの」
早河と玲夏のやりとりもいつも通りだ。蓮との再会と、舞台の感想を伝えて一区切りした時に早河が本題を切り出した。
『で、俺達に話ってなんだ? また何かの依頼?』
「ああ……話があるのは私じゃなくて蓮なのよ」
玲夏が蓮と目を合わせる。蓮は飲んでいたコーヒーのカップをテーブルに置いた。彼の様子からこれまでの楽しい雑談ではないことは早河となぎさにも察しがついた。
『話って言うか、気になることがあったんで早河さんに聞いてもらいたかったんです』
『気になることとは?』
素早くプライベートから仕事の顔になる。なぎさもメモの用意をして蓮の話を待った。
『早河さんは黒崎来人、ご存知ですか?』
『黒崎来人……俳優の?』
『そうです。今日の舞台で玲夏の相手役をしていた俳優です』
なぎさは傍らに置いたパンフレットを開いて出演者一覧ページを早河に見せた。ページ最上部の玲夏の写真の隣に人形遣いのエリック役、黒崎来人の写真と主な経歴が掲載されている。
『この黒崎来人のことで気になることが?』
『ええ、それも早河さん達に関係していることじゃないかと思って』
『俺達に? まさか……』
不安の色を見せるなぎさに蓮は微笑した。彼は話を続ける。
『先月の末にテレビ局で黒崎とすれ違いました。俺と黒崎は現場は違いましたし、元々親しくもないので軽く挨拶しただけでその時は素通りでしたが、妙にコソコソ人目を避けるようなアイツの様子が気になって後を追ったんです』
玲夏や部屋で待機しているマネージャーの沙織は蓮の話の顛末を知っているのか落ち着き払っていた。
『黒崎は人のいない場所を選んで誰かと電話をしていたんです。話の内容は聞き取れませんでしたが、これだけは聞き取れました』
一拍置いて蓮は告げる。
『電話相手に向かって黒崎は“キング”と呼んでいました』
楽屋の空気が瞬時に重苦しいものに変わった。
『なぎさちゃん、彼氏の前でそんなこと言っていいの? ヤキモチ妬いちゃうよ?』
「一ノ瀬さんなんで知って……」
フランクな雰囲気も相変わらずだが蓮がなぎさの彼氏と表現した先には早河がいる。玲夏を見るとシルビアのメイクのまま眉を下げて笑っていた。
「ごめんね。蓮には二人のことよく話してるの。だからなぎさちゃんが仁とくっついたことも言っちゃったのよ」
『顔に似合わずお喋りな女だな』
「何か言った? 鈍感探偵さん」
『マリオネットの化粧のまま含み笑いするな。不気味』
「仕方ないでしょ。この後記念撮影するからメイク落とせないの」
早河と玲夏のやりとりもいつも通りだ。蓮との再会と、舞台の感想を伝えて一区切りした時に早河が本題を切り出した。
『で、俺達に話ってなんだ? また何かの依頼?』
「ああ……話があるのは私じゃなくて蓮なのよ」
玲夏が蓮と目を合わせる。蓮は飲んでいたコーヒーのカップをテーブルに置いた。彼の様子からこれまでの楽しい雑談ではないことは早河となぎさにも察しがついた。
『話って言うか、気になることがあったんで早河さんに聞いてもらいたかったんです』
『気になることとは?』
素早くプライベートから仕事の顔になる。なぎさもメモの用意をして蓮の話を待った。
『早河さんは黒崎来人、ご存知ですか?』
『黒崎来人……俳優の?』
『そうです。今日の舞台で玲夏の相手役をしていた俳優です』
なぎさは傍らに置いたパンフレットを開いて出演者一覧ページを早河に見せた。ページ最上部の玲夏の写真の隣に人形遣いのエリック役、黒崎来人の写真と主な経歴が掲載されている。
『この黒崎来人のことで気になることが?』
『ええ、それも早河さん達に関係していることじゃないかと思って』
『俺達に? まさか……』
不安の色を見せるなぎさに蓮は微笑した。彼は話を続ける。
『先月の末にテレビ局で黒崎とすれ違いました。俺と黒崎は現場は違いましたし、元々親しくもないので軽く挨拶しただけでその時は素通りでしたが、妙にコソコソ人目を避けるようなアイツの様子が気になって後を追ったんです』
玲夏や部屋で待機しているマネージャーの沙織は蓮の話の顛末を知っているのか落ち着き払っていた。
『黒崎は人のいない場所を選んで誰かと電話をしていたんです。話の内容は聞き取れませんでしたが、これだけは聞き取れました』
一拍置いて蓮は告げる。
『電話相手に向かって黒崎は“キング”と呼んでいました』
楽屋の空気が瞬時に重苦しいものに変わった。