早河シリーズ最終幕【人形劇】
『キング……確かに黒崎はそう言ったんですね?』
『はい。早河さんが追っている組織については、玲夏やうちの社長から聞いて大方のことは知っています。キングは組織のトップの通称ですよね。この世界にそう何人もキングなんて呼び名で呼ばれている人間がいるとも思えませんし、玲夏と相談して早河さんに一応お伝えしておくことにしたんです』

 蓮は玲夏に顔を向けた。雑談をしていた時とは違って玲夏の表情も固い。

『玲夏は黒崎とは個人的な付き合いは?』
「共演者だから稽古や公演の合間に一緒に食事に行く機会はあった。でも個人的な付き合いはほとんどない。沙織が目を光らせてくれてるからね」
「黒崎来人は共演者喰いで有名なんです。彼の素性がどうであれ注意は払っていました」

 玲夏の言葉を沙織が補足する。
なぎさは携帯のネットで黒崎来人の経歴を検索した。彼女は黒崎の来歴ページを読み上げる。

「黒崎来人ってデビューしてすぐにアメリカに留学しちゃいましたよね。当時けっこう騒がれていました。2000年にデビュー、2年後の2002年に俳優修行を目的に渡米、ハリウッドの劇団で経験を積み、2006年に帰国……」
『黒崎がアメリカにいたのは2002年から2006年……貴嶋と寺沢莉央がアメリカにいた時期と一致する』

渡航記録によれば莉央が貴嶋と共に渡米した時期は2002年の9月だ。

「寺沢莉央ってカオスのクイーンよね? なぎさちゃんの友達の……」
「……はい。莉央も2006年までアメリカにいたようです。2006年2月にロサンゼルスの空港から帰国しています」
『ロサンゼルスの空港ね。ちなみに黒崎が留学していたハリウッドがあるのもロサンゼルスだよ』

 蓮の指摘になぎさは驚愕し、早河の表情もいっそう厳しいものになる。

『黒崎が留学中に貴嶋や寺沢莉央と何らかの接触があったとすれば、カオスに引き込まれている可能性はある。早急に詳しく調べてみます』
『お願いします。黒崎もまだこの劇場にいますからね。来週からは俺と玲夏はドラマの録りで黒崎と同じ現場です。早河さんに調べてもらって奴に何もなければそれに越したことはない』

 蓮が心配しているのは自分の身よりも玲夏の身の安全の方だろう。
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