早河シリーズ最終幕【人形劇】
 上野の携帯が鳴る。着信は現在入院中の警察庁の阿部警視だ。

『はい、上野です』
{三鷹に向かっているのか? 竹本邦夫がやられたんだろう?}
『ええ。まだカオスとの因果関係は不明ですが……』
{三鷹の狙撃はカオスの線が濃いようだ。悪い知らせが入った。府中刑務所と東京拘置所から受刑者二名が脱獄した}
『脱獄?』

上野は通話設定をスピーカーにして隣でハンドルを握る真紀にも阿部の話を聞かせた。

{府中刑務所から脱獄したのは佐伯洋介、東京拘置所からは沢木乃愛が脱獄した。それぞれ今朝の起床時間にはもう館内のどこにも姿がなかったそうだ。おそらく脱獄を手引きした者がいる}
『佐伯洋介と沢木乃愛……』
{もうわかるだろう。この二人はカオスに関係して犯罪を犯した人間だ}

 元教師の佐伯洋介は昨年に女子高生連続殺人を犯し、6年前には幼なじみの女性を殺害している。
カオスでは通称ドラジェの名前を与えられた佐伯は女子高生売春組織MARIAの元締めでもあった。
(第二幕【金平糖】より)

 元女優の沢木乃愛は半年前に先輩女優の本庄玲夏を殺害する計画を企て、計画に加担した男を別の人間を使って殺させている。
乃愛の通称はクリスティーヌ。
(第四幕【紫陽花】より)

どちらも犯罪組織カオスが二人の計画の手助けを行っていた。

{脱獄した二名はまだ発見されていない。東京、千葉、神奈川、埼玉、関東の主要幹線道路の検問と主要駅に警官を配置して二人を捜している}
『このことを早河には?』
{これから知らせる}
『もしかすると早河になら脱獄した二人の行き先の見当がつくかもしれません。アイツはこの手のことに直感が働く奴です』
{わかった。警部はそのまま三鷹の狙撃の捜査に当たってくれ}

 阿部警視との通話を終える。話を聞いていた真紀は次々と起きる異常事態に困惑していた。

「あの二人が脱獄したなんてどうして……」
『同時期にカオスに関係した受刑者の脱獄と3年前の被害者遺族の射殺……これは謀《はか》られたな』

間もなく三鷹市に到着する。パトカーの赤い光の群れが道路に集まっていて、近隣の小中学校の生徒達が校舎の窓に張り付いて興味深げに様子を窺っていた。
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