早河シリーズ最終幕【人形劇】
渋谷区神宮前二丁目に所在する私立聖蘭学園の3年生の教室。
黒板にチョークが当たる音、紙をめくる音、隣の席の生徒が隠れてメールのやりとりをしている音、たまに聞こえる内緒話、授業中の教室は様々な音で溢れている。
(ハァ……眠いなぁ)
高山有紗は黒板に書かれた英文をノートに書き写しながら小さくあくびをした。昨夜は夜更かしして漫画を読んでいたのでとても眠い。
(まだ10時だよぉ。お昼休みまであと2時間もある)
襲ってくる眠気に耐え、何度かまばたきをしてシャープペンシルを握る。続きの英文を書こうとした時に力が入って芯を折ってしまった。
(ああ、もう。ついてない)
書きかけの不格好なaの字を消しゴムで消して、ペンケースからシャープペンシルの替え芯を取り出す。新しい芯を入れてようやく綺麗なaの字が書けたと満足した有紗の耳に非常ベルの音が届いた。
「火事?」
「えっ嘘……どうしたの?」
「何かあったの?」
「みんな落ち着いて! 放送が入ると思いますから静かに!」
校舎中に鳴り響く非常ベルの音に戸惑う教師や生徒達がざわついている。
「この音、うるさぁい。早く止まらないかな」
「うん、聴いてると頭痛くなるよねー」
有紗の前の席の生徒が顔をしかめて耳を両手で塞いだ。非常ベルはまだ鳴り響いていて、甲高い音に耐えきれずに有紗も耳を塞ぐ。
ベルの音に紛れて何か聞こえた。廊下を走る足音と共に教室の扉が勢いよく開いて隣のクラス担任の男性教師が慌てた様子で入ってきた。
『橘《たちばな》先生っ! 今すぐ生徒達を非常階段から避難させてください!』
「何かあったんですか?」
『詳しいことはわかりません。とにかく非常ベルが鳴って、その後で表にいるマスコミが騒ぎ始めたんです。男にいきなりナイフで切りつけられたって』
「切りつけられた?」
どよめく教室内に校内放送のチャイムが流れた。
{緊急事態が発生しました。何者かが本館に侵入した疑いがあります。本館にいる全生徒は貴重品を持って担当教師の指示に従って非常階段から体育館に避難してください。これは訓練ではありません。別館で授業中の生徒はそのまま別館の教室で待機、別館にいる先生方は大至急、別館の正面入り口と渡り廊下の入り口の施錠をお願い致します}
「侵入者?」
「マスコミが切りつけられたってそいつがやったの?」
「って言うか、なんでマスコミが学校に来てるの?」
「えー。訳がわからない」
事の重大さを理解しきれていない生徒達は悠長に携帯電話を見てメールをしたり、お菓子を食べている生徒もいる。
有紗も、昔の自分ならば彼女達と同じように危機感もなくこの時間を過ごしていたかもしれない。しかし今の有紗には不確かな予感があった。
これは嫌な予感だ。
黒板にチョークが当たる音、紙をめくる音、隣の席の生徒が隠れてメールのやりとりをしている音、たまに聞こえる内緒話、授業中の教室は様々な音で溢れている。
(ハァ……眠いなぁ)
高山有紗は黒板に書かれた英文をノートに書き写しながら小さくあくびをした。昨夜は夜更かしして漫画を読んでいたのでとても眠い。
(まだ10時だよぉ。お昼休みまであと2時間もある)
襲ってくる眠気に耐え、何度かまばたきをしてシャープペンシルを握る。続きの英文を書こうとした時に力が入って芯を折ってしまった。
(ああ、もう。ついてない)
書きかけの不格好なaの字を消しゴムで消して、ペンケースからシャープペンシルの替え芯を取り出す。新しい芯を入れてようやく綺麗なaの字が書けたと満足した有紗の耳に非常ベルの音が届いた。
「火事?」
「えっ嘘……どうしたの?」
「何かあったの?」
「みんな落ち着いて! 放送が入ると思いますから静かに!」
校舎中に鳴り響く非常ベルの音に戸惑う教師や生徒達がざわついている。
「この音、うるさぁい。早く止まらないかな」
「うん、聴いてると頭痛くなるよねー」
有紗の前の席の生徒が顔をしかめて耳を両手で塞いだ。非常ベルはまだ鳴り響いていて、甲高い音に耐えきれずに有紗も耳を塞ぐ。
ベルの音に紛れて何か聞こえた。廊下を走る足音と共に教室の扉が勢いよく開いて隣のクラス担任の男性教師が慌てた様子で入ってきた。
『橘《たちばな》先生っ! 今すぐ生徒達を非常階段から避難させてください!』
「何かあったんですか?」
『詳しいことはわかりません。とにかく非常ベルが鳴って、その後で表にいるマスコミが騒ぎ始めたんです。男にいきなりナイフで切りつけられたって』
「切りつけられた?」
どよめく教室内に校内放送のチャイムが流れた。
{緊急事態が発生しました。何者かが本館に侵入した疑いがあります。本館にいる全生徒は貴重品を持って担当教師の指示に従って非常階段から体育館に避難してください。これは訓練ではありません。別館で授業中の生徒はそのまま別館の教室で待機、別館にいる先生方は大至急、別館の正面入り口と渡り廊下の入り口の施錠をお願い致します}
「侵入者?」
「マスコミが切りつけられたってそいつがやったの?」
「って言うか、なんでマスコミが学校に来てるの?」
「えー。訳がわからない」
事の重大さを理解しきれていない生徒達は悠長に携帯電話を見てメールをしたり、お菓子を食べている生徒もいる。
有紗も、昔の自分ならば彼女達と同じように危機感もなくこの時間を過ごしていたかもしれない。しかし今の有紗には不確かな予感があった。
これは嫌な予感だ。