早河シリーズ最終幕【人形劇】

{今月11日に行われる日米首脳会談では……}

 テレビでは12月11日に日本で行われる日米首脳会談に関連するニュースが流れていた。今回の首脳会談はアメリカの大統領が変わってから初めての会談になる。

日米首脳会談のニュースが終わった頃、なぎさが作ったポトフの皿がテーブルに並んだ。朝食の時間だ。

『今日の予定は?』
「11時に素行調査の依頼をされた前田さんが報告書を受け取りにみえます。それ以外は特に予定は入っていません」

 なぎさは早河の恋人になってからも、仕事の話をする時は助手としての口調を心がけている。彼女なりの仕事とプライベートの分け方だ。

『じゃあ今日は他の予定を入れないでくれ。前田さんの件が終わった後に出掛けてくる』
「わかりました」

 朝食後に早河がキッチンで食後のコーヒーを淹れている最中、なぎさの携帯電話が着信を告げた。

リビングでコーヒーが出来るのを待っていたなぎさは携帯の着信表示の“お母さん”の文字に無意識に心臓を押さえつけた。

『電話?』
「お母さんから……」
『……早く出た方がいい』
「うん」

彼女は決心して通話ボタンを押した。

「もしもし……」
{なぎさ。おはよう}

母の声に緊張が高まる。

「おはよう……。お母さんどうしたの?」
{今夜こちらに帰って来られる?}
「えっ? 今夜?」
{できれば早河さんにも一緒に来てもらいたいの。お父さんが早河さんにお話があるそうよ}
「話って何の?」
{さぁ……でも急ぎのお話らしいから早河さんのご都合聞いてもらえる?}
「……うん。わかった」

 母との数分の通話を切ったなぎさは溜息をついて携帯をテーブルに置く。コーヒーの薫りを漂わせたマグカップを二つ持った早河がリビングに入って来た。

「お父さんが仁くんに話があるから今夜実家に来てほしいって……」
『わかった』

彼は二つ返事で頷いてなぎさの隣に座る。なぎさは温かいカップを両手で抱えた。

「何の話だろう……」
『お父さんが俺に話って、なぎさのこと以外考えられないけどな』
「やっぱりそうだよね」

熱くて苦味のあるコーヒーを飲むとだんだん頭がクリアになってくる。

『お父さんには俺とのことはまだ?』
「お父さんにもお母さんにも話してない。言うタイミングがなくて」

 なぎさは早河と恋人関係になったことを両親に話していない。早河のプロポーズを受けたことも彼と結婚する意思があることもまだ両親は知らない。

『俺も近いうちになぎさのご両親には挨拶に行くつもりだったよ。あちらから呼んでくれたのなら行きやすい。いずれにしろ緊張するよな』
「別れろって言われたら……どうするの?」
『そうだな。もしそうなった時は……』

早河はなぎさを抱き寄せて彼女の耳元で優しく囁いた。
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