早河シリーズ最終幕【人形劇】
給湯室にある12月のカレンダーには28日の月曜日の欄に仕事納めの文字が赤ペンで記されていた。誰かが書き込んだものだろう。
もうすぐ今年が終わる。歳を重ねるにつれて、時間の速度が速くなっていく。
子供の頃は1ヶ月を長く感じたのに、大人になると1ヶ月が過ぎるのは一瞬だ。
(あれから半年か)
恋人の浅丘美月と共に巻き込まれた明鏡大学准教授殺人事件とそれに伴って隼人の身に起きた出来事から半年が経つ。半年前に負傷した腹部の傷はすっかり完治しているが、傷痕は残っていた。
寺沢莉央にもあの夕暮れの別れ以来、会ってはいない。彼女とは二度と会うことはないのかもしれない。
給湯室を出ると何やらフロアが騒々しい。
『とにかくデータを一時保存しろ! 全員だ! 今すぐ作業途中のものも含めてバックアップしろ!』
部長の怒声がフロア中に響き渡る。何が起きたのか近くにいた同僚に事情を尋ねると、一部の社員のパソコンにバグが発生してデータが消えてしまったようだ。
隼人も慌てて自分のデスクに戻り、パソコンに触れる。異変はすぐに現れた。
操作をした覚えもないのにパソコン内のデータが意味不明な数字と英語の羅列に書き換えられていく。どのキーを押してもその現象は止まらず、最後はerrorの文字が現れた。
『これハッキングですよ! ハッキングされてます!』
「エラーになってバックアップとれません!」
困惑と悲鳴の声が四方八方から聞こえた。突如発生した非常事態に隼人も動揺している。
ハッキングで思い出すのはまたしても半年前の明鏡大学の殺人事件。
あの殺人事件の被害者だった准教授の携帯電話のデータがハッキングによって改竄《かいざん》された。ハッキングをしたのは隼人の大学の後輩であり、3年前の竹本晴也が殺されたあの場所にも居合わせた青木渡。
青木は犯罪組織カオスに所属していた。
(これもカオスの仕業じゃねぇよな?)
騒然となるフロアでは部長や次長が内線で重役と話をしている。他の社員達は呆然として動きを止めていた。
『うちの会社がハッキングされたって、やっぱり今日は厄日? 東京中でこんな立て続けに事件が起きるって異常だろ』
中田の独り言に隼人も同感だった。受刑者の脱獄、元議員の射殺、大手企業を狙ったハッキング……今日の昼前だけで東京で事件が多発している。
いくら常に事件が起きている大都会でもこの事態は異常に思えた。
そこから数分後に何かが爆発した破裂音が轟いて人々の混乱をさらに煽る。
『今の音なんだ?』
「なんか焦げ臭くない?」
『火事かっ?』
天井に設置されたスピーカーから社内放送が流れた。
{緊急事態が発生しました。六階備品庫及び、十二階会議室から煙が上がっています。全社員すみやかに非常階段から避難してください。エレベーターは使わないように。避難した社員達は芝公園野球場に集まってください。安全確認がとれるまで社に戻らず、芝公園で待機、これは訓練ではありません}
「煙っ?」
『やっぱり火事だ!』
「六階の備品庫って真下じゃない!」
経営戦略部のフロアはハッキング騒ぎどころではなくなっていた。
もうすぐ今年が終わる。歳を重ねるにつれて、時間の速度が速くなっていく。
子供の頃は1ヶ月を長く感じたのに、大人になると1ヶ月が過ぎるのは一瞬だ。
(あれから半年か)
恋人の浅丘美月と共に巻き込まれた明鏡大学准教授殺人事件とそれに伴って隼人の身に起きた出来事から半年が経つ。半年前に負傷した腹部の傷はすっかり完治しているが、傷痕は残っていた。
寺沢莉央にもあの夕暮れの別れ以来、会ってはいない。彼女とは二度と会うことはないのかもしれない。
給湯室を出ると何やらフロアが騒々しい。
『とにかくデータを一時保存しろ! 全員だ! 今すぐ作業途中のものも含めてバックアップしろ!』
部長の怒声がフロア中に響き渡る。何が起きたのか近くにいた同僚に事情を尋ねると、一部の社員のパソコンにバグが発生してデータが消えてしまったようだ。
隼人も慌てて自分のデスクに戻り、パソコンに触れる。異変はすぐに現れた。
操作をした覚えもないのにパソコン内のデータが意味不明な数字と英語の羅列に書き換えられていく。どのキーを押してもその現象は止まらず、最後はerrorの文字が現れた。
『これハッキングですよ! ハッキングされてます!』
「エラーになってバックアップとれません!」
困惑と悲鳴の声が四方八方から聞こえた。突如発生した非常事態に隼人も動揺している。
ハッキングで思い出すのはまたしても半年前の明鏡大学の殺人事件。
あの殺人事件の被害者だった准教授の携帯電話のデータがハッキングによって改竄《かいざん》された。ハッキングをしたのは隼人の大学の後輩であり、3年前の竹本晴也が殺されたあの場所にも居合わせた青木渡。
青木は犯罪組織カオスに所属していた。
(これもカオスの仕業じゃねぇよな?)
騒然となるフロアでは部長や次長が内線で重役と話をしている。他の社員達は呆然として動きを止めていた。
『うちの会社がハッキングされたって、やっぱり今日は厄日? 東京中でこんな立て続けに事件が起きるって異常だろ』
中田の独り言に隼人も同感だった。受刑者の脱獄、元議員の射殺、大手企業を狙ったハッキング……今日の昼前だけで東京で事件が多発している。
いくら常に事件が起きている大都会でもこの事態は異常に思えた。
そこから数分後に何かが爆発した破裂音が轟いて人々の混乱をさらに煽る。
『今の音なんだ?』
「なんか焦げ臭くない?」
『火事かっ?』
天井に設置されたスピーカーから社内放送が流れた。
{緊急事態が発生しました。六階備品庫及び、十二階会議室から煙が上がっています。全社員すみやかに非常階段から避難してください。エレベーターは使わないように。避難した社員達は芝公園野球場に集まってください。安全確認がとれるまで社に戻らず、芝公園で待機、これは訓練ではありません}
「煙っ?」
『やっぱり火事だ!』
「六階の備品庫って真下じゃない!」
経営戦略部のフロアはハッキング騒ぎどころではなくなっていた。