早河シリーズ最終幕【人形劇】
 今なら三浦のこともカオスのことも聞けるチャンスかもしれない。

「キングの側近って言われてもピンと来ない。三浦先生も犯罪者なの?」
『随分と三浦先生のことを気にするね。三浦先生に恋でもしてしまったかい?』

 恋……その単語に美月が一瞬の動揺を見せる。彼女の動揺を見逃すはずがない貴嶋はフォークを置いてナプキンで口元を拭った。

「三浦先生のことは嫌いじゃないけど好きでもないってさっき言ったよ。私が三浦先生に恋するなんてありえない」
『そう思いたがっているだけじゃないか?』
「……何が言いたいの?」
『三浦先生は物腰が“彼”と似ているよね』

貴嶋の言う“彼”が誰か、美月にはすぐにわかってしまう。食べる手を止めていた美月はフォークに巻き付けたトマトクリームのパスタを口に入れてまた水を飲んだ。

「全然似てないよ。佐藤さんはもっと優しかったもん」
『三浦先生は優しくなかった?』

 美月のパスタはトマトクリームだが貴嶋がメインとして注文したパスタはオイルパスタ。彼の皿の中身はほとんどなくなっていた。
そのうちウェイターが皿を下げに来るだろう。

「三浦先生は冷たい感じがする。でも冷たいのに……なんか……」

 大学の図書館で三浦に抱き締められた先月の出来事を思い出して彼女は口を閉ざした。
あの時の三浦の体温、美月を見つめる眼差しに佐藤瞬と同じものを感じた。いや、あの時の三浦英司は佐藤瞬そのものに思えた。

「もしかして……三浦先生は佐藤さんの兄弟……ってことはないよね?」

貴嶋は目を丸くして肩を震わせて笑った。

『相変わらず、君は面白い発想の持ち主だね。そうか、兄弟ねぇ』
「笑ってないで教えてよ! 三浦先生と佐藤さんは関わりがあるの?」
『残念ながら二人に関わりはないよ。佐藤に兄弟はいない。発想としてはとても面白いけれどね』

 ウェイターが貴嶋と美月の皿を下げて代わりにデザートを置いた。デザートはイチゴと生クリームでデコレーションされたガトーショコラだ。

『これで美月が知りたいことは答え終えたかな?』
「待ってよ。まだ……。どうして大学に爆弾を? 何が目的? なんでキングの側近の三浦先生が大学の先生をしているの?」
『こらこら。質問はひとつずつね。明鏡大学に爆弾を仕掛けた目的、三浦先生を教師として潜り込ませた理由、私の目的、すべての質問の答えはひとつになる。わからない?』

綺麗な二等辺三角形のガトーショコラの頂点にフォークを入れた美月はあることに気付く。三角形、三つの点で結ばれた図形、三つの質問の答えはひとつに繋がる。
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