早河シリーズ最終幕【人形劇】
何故、明鏡大学だったのか。答えはひとつしかない。
「私があの大学の学生だから……?」
『ご名答。さすがだね』
「三浦先生が大学に来たのは私を見張るため?」
『見張ると言うには語弊があるね。美月の日常を知るために派遣したんだよ』
(見張りと同じ意味じゃない! って言うかそれ監視だよっ)
ほどよい甘さのガトーショコラのおかげで怒りの声を上げはしなかったが美月は貴嶋の行いに憤慨していた。
『今夜はここに泊まってもらうよ』
「やっぱりそうなんだ。キングがこのまま私を帰すはずないと思ってた」
ここに泊まれと命じられても冷静でいられる自分はすっかり貴嶋のやり口に慣れてしまったようだ。
貴嶋はまだ肝心なことを語っていない。大学を爆破してまで美月を連れて来た理由、ここに留まらせる理由。
重要なことはさらりとかわして、はぐらかす。彼の常套《じょうとう》手段だ。
「私をどうするつもり?」
『静岡で初めて会った時と同じ質問だね。あの時と同じさ。君に危害は加えない。美月は私の大切な子だからね』
聞き流すにはあまりにも意味深な言葉だった。美月は眉を寄せる。今日はしかめっ面しかしていない気がした。
「キングは私のことどう思っているの?」
『愛しているよ。大切に想っている。君のことが可愛くてたまらない私の気持ちは美月には伝わらないだろうね』
間髪を入れずに囁かれた“愛している”が心に重たく響く。貴嶋から向けられる狂気染みた好意はどこかで予感していた。
実際に言葉にされると言い様のない奇妙な心地になる。
「でも恋人いるんでしょ?」
忘れられない女性の名前が脳裏に浮かぶ。
寺沢莉央。犯罪組織カオスのクイーンであり、彼女は貴嶋の恋人だと聞いている。
『私に関する情報も少しは知っているようだね。確かに恋人はいるよ。彼女は私が最も愛している女性だ』
「まさか二股? 浮気する気?」
『ははっ。やはり君は面白いなぁ。じゃあ試しに美月と浮気してみようかな? デートのお誘いなら私はいつでも歓迎するよ』
美月は押し黙った。
最も愛している女がいると言っておきながら、浮気をしようと誘ってくる。平然とそんな台詞を吐く彼と目を合わせられなかった。
レストランを出てエレベーターで三十階に降りる。エレベーターホールから広がる長い廊下に並ぶ焦げ茶色の扉に見覚えがあった。
貴嶋は奥から三番目の扉にカードキーを差し込んだ。ロックが解除される音の後に彼は扉を開ける。
『ここが美月の部屋。2年前と同じスイートルームだよ』
毛足の長いカーペット、大きなソファー、奥のベッドルームに並ぶベッドも2年前と同じだった。
美月のバッグがソファーに置かれていた。美月のバッグを持っていたのは三浦だ。彼が先に部屋に来て荷物を置いたのかもしれない。
『女性に必要なアメニティは一通り揃えてあるから不自由はないだろうが、必要な物があれば遠慮なく言いなさい』
「携帯は返してくれないのね」
『外部と連絡を取られてしまうと不都合だからね』
貴嶋の余裕な態度が気に入らない。これでは軟禁も同然だ。
彼が部屋を出ていくと美月はソファーに寝そべって溜息をついた。
(私はこれからどうなっちゃうの……)
「私があの大学の学生だから……?」
『ご名答。さすがだね』
「三浦先生が大学に来たのは私を見張るため?」
『見張ると言うには語弊があるね。美月の日常を知るために派遣したんだよ』
(見張りと同じ意味じゃない! って言うかそれ監視だよっ)
ほどよい甘さのガトーショコラのおかげで怒りの声を上げはしなかったが美月は貴嶋の行いに憤慨していた。
『今夜はここに泊まってもらうよ』
「やっぱりそうなんだ。キングがこのまま私を帰すはずないと思ってた」
ここに泊まれと命じられても冷静でいられる自分はすっかり貴嶋のやり口に慣れてしまったようだ。
貴嶋はまだ肝心なことを語っていない。大学を爆破してまで美月を連れて来た理由、ここに留まらせる理由。
重要なことはさらりとかわして、はぐらかす。彼の常套《じょうとう》手段だ。
「私をどうするつもり?」
『静岡で初めて会った時と同じ質問だね。あの時と同じさ。君に危害は加えない。美月は私の大切な子だからね』
聞き流すにはあまりにも意味深な言葉だった。美月は眉を寄せる。今日はしかめっ面しかしていない気がした。
「キングは私のことどう思っているの?」
『愛しているよ。大切に想っている。君のことが可愛くてたまらない私の気持ちは美月には伝わらないだろうね』
間髪を入れずに囁かれた“愛している”が心に重たく響く。貴嶋から向けられる狂気染みた好意はどこかで予感していた。
実際に言葉にされると言い様のない奇妙な心地になる。
「でも恋人いるんでしょ?」
忘れられない女性の名前が脳裏に浮かぶ。
寺沢莉央。犯罪組織カオスのクイーンであり、彼女は貴嶋の恋人だと聞いている。
『私に関する情報も少しは知っているようだね。確かに恋人はいるよ。彼女は私が最も愛している女性だ』
「まさか二股? 浮気する気?」
『ははっ。やはり君は面白いなぁ。じゃあ試しに美月と浮気してみようかな? デートのお誘いなら私はいつでも歓迎するよ』
美月は押し黙った。
最も愛している女がいると言っておきながら、浮気をしようと誘ってくる。平然とそんな台詞を吐く彼と目を合わせられなかった。
レストランを出てエレベーターで三十階に降りる。エレベーターホールから広がる長い廊下に並ぶ焦げ茶色の扉に見覚えがあった。
貴嶋は奥から三番目の扉にカードキーを差し込んだ。ロックが解除される音の後に彼は扉を開ける。
『ここが美月の部屋。2年前と同じスイートルームだよ』
毛足の長いカーペット、大きなソファー、奥のベッドルームに並ぶベッドも2年前と同じだった。
美月のバッグがソファーに置かれていた。美月のバッグを持っていたのは三浦だ。彼が先に部屋に来て荷物を置いたのかもしれない。
『女性に必要なアメニティは一通り揃えてあるから不自由はないだろうが、必要な物があれば遠慮なく言いなさい』
「携帯は返してくれないのね」
『外部と連絡を取られてしまうと不都合だからね』
貴嶋の余裕な態度が気に入らない。これでは軟禁も同然だ。
彼が部屋を出ていくと美月はソファーに寝そべって溜息をついた。
(私はこれからどうなっちゃうの……)