早河シリーズ最終幕【人形劇】
『加藤先生がPTSD研究と犯罪被害者のケアに精力的なのは有紗ちゃんがきっかけですか?』
「PTSD研究に興味を持ったのは大学時代です。大学の時に殺人事件に遭遇したことがあって」
『それは初耳ですね。ではその時に?』
「はい。一緒にいた女の子がASD(急性ストレス障害)の症状が出ていたんです。幸い彼女はPTSDまで悪化はしませんでしたが、彼女の苦しみを間近で見ていたから……きっかけはその時ですね」
話をしていて自然と美月の顔が浮かぶ。美月は一体どこに行ってしまったのか、彼女の安否が気掛かりだ。
それから少し立ち話をして、エントランスに向かう神明を見送る。実のところ、麻衣子は神明が苦手だった。
1月から彼がこの病院に非常勤カウンセラーとして出入りするようになってからは勤務が重なる日は何度か食事に誘われ、夕食を共にしたこともある。
神明とはそれだけの関係だ。恋人でも友達でもない、ただの同僚。外で食事を共にしても同僚以上の関係を求められたこともない。
それだけの関係なのだが、神明と同じ空間にいる時は妙に居心地が悪い。
臨床心理士である神明はさすがに人の心理を読むことに長けている。彼と話をしているとこちらの心の内を見透かされている気がしてならない。
そのわりに神明の内面は一切読めない。何を考えているのかわからない。感情を表には出さず、物腰が穏やかでニコニコしている神明を不気味に感じた。
(神明先生と話している時はよくわからないけど緊張するのよね)
寒気に似た感覚が全身を這う。病院内の暖房は効きすぎていて暑いくらいなのに寒気で身震いするとはおかしなものだ。
有紗は早河と付き添いを交代したなぎさと一緒に最上階のカフェにいる。麻衣子はエレベーターホールに出てエレベーターの呼び出しボタンを押した。
「PTSD研究に興味を持ったのは大学時代です。大学の時に殺人事件に遭遇したことがあって」
『それは初耳ですね。ではその時に?』
「はい。一緒にいた女の子がASD(急性ストレス障害)の症状が出ていたんです。幸い彼女はPTSDまで悪化はしませんでしたが、彼女の苦しみを間近で見ていたから……きっかけはその時ですね」
話をしていて自然と美月の顔が浮かぶ。美月は一体どこに行ってしまったのか、彼女の安否が気掛かりだ。
それから少し立ち話をして、エントランスに向かう神明を見送る。実のところ、麻衣子は神明が苦手だった。
1月から彼がこの病院に非常勤カウンセラーとして出入りするようになってからは勤務が重なる日は何度か食事に誘われ、夕食を共にしたこともある。
神明とはそれだけの関係だ。恋人でも友達でもない、ただの同僚。外で食事を共にしても同僚以上の関係を求められたこともない。
それだけの関係なのだが、神明と同じ空間にいる時は妙に居心地が悪い。
臨床心理士である神明はさすがに人の心理を読むことに長けている。彼と話をしているとこちらの心の内を見透かされている気がしてならない。
そのわりに神明の内面は一切読めない。何を考えているのかわからない。感情を表には出さず、物腰が穏やかでニコニコしている神明を不気味に感じた。
(神明先生と話している時はよくわからないけど緊張するのよね)
寒気に似た感覚が全身を這う。病院内の暖房は効きすぎていて暑いくらいなのに寒気で身震いするとはおかしなものだ。
有紗は早河と付き添いを交代したなぎさと一緒に最上階のカフェにいる。麻衣子はエレベーターホールに出てエレベーターの呼び出しボタンを押した。