早河シリーズ最終幕【人形劇】
エレベーターが赤坂ロイヤルホテル三十階に到着する。本屋の袋を胸元に抱えた浅丘美月はエレベーターを降りた。後ろから三浦英司も降りてくる。
三十階通路の奥から三番目の扉に三浦がカードキーを差し込んだ。
『明日になれば逃げなかったことを後悔するぞ』
「もうすでに後悔してます」
憂鬱な気分で彼女は開けられた扉から部屋に入った。わずか2時間足らずの外出もこれで終わり。本当はここに帰って来たくはなかった。
ここに戻ればまた閉じ込められるとわかってるのに、どうして逃げなかったのか自分でも馬鹿だと思う。
「本、ありがとうございました」
『それくらいどうってことない。欲しい物があればまた買ってきてやる』
新宿の書店で文庫本三冊とファッション誌を購入した。支払いは三浦が済ませてくれた。
『どうして逃げなかった?』
「……約束したから」
部屋の入り口を隔てて向かい合う二人。彼は部屋には入らずに扉に手をかけて美月を見下ろした。
『俺との約束なんか破っても構わないだろ? 逃げなければまたキングの籠の鳥に戻ることになるんだ』
「三浦先生は私に逃げて欲しかったんですか?」
ヒールの高いブーツを履いていても身長差のある彼を美月は見上げた。真っ直ぐで汚れのない瞳に彼の驚いた顔が映り込む。
『俺は……』
そこから先を彼は答えられない。美月は視線をゆっくり下げた。
「三浦先生が……昔好きだった人に似ているんです。顔も口調も似ていないのに似てるって思っちゃったの。だから先生と一緒に居たかった」
下げた視線の先に彼の靴が見える。磨かれた綺麗な革靴。キングも同じような靴を履いていた。
「先生の事が好きとか、そういうのじゃないんです。でも私は先生をあの人の代わりにしていた。ごめんなさい」
『……謝ることじゃない』
やっとの想いで出した言葉も一言で終わってしまう。互いに、互いの知らぬところで心臓が激しく鳴っていた。
『だから逃げなかったのか? 俺と一緒にいるために……』
「馬鹿ですよね。こんなこと考えてる場合じゃないのに。女なんてどうせ好きな人のことしか考えてない、そう思って呆れてますよね」
うつむく美月の髪に触れようと伸ばしかけた手を彼は止める。
三十階通路の奥から三番目の扉に三浦がカードキーを差し込んだ。
『明日になれば逃げなかったことを後悔するぞ』
「もうすでに後悔してます」
憂鬱な気分で彼女は開けられた扉から部屋に入った。わずか2時間足らずの外出もこれで終わり。本当はここに帰って来たくはなかった。
ここに戻ればまた閉じ込められるとわかってるのに、どうして逃げなかったのか自分でも馬鹿だと思う。
「本、ありがとうございました」
『それくらいどうってことない。欲しい物があればまた買ってきてやる』
新宿の書店で文庫本三冊とファッション誌を購入した。支払いは三浦が済ませてくれた。
『どうして逃げなかった?』
「……約束したから」
部屋の入り口を隔てて向かい合う二人。彼は部屋には入らずに扉に手をかけて美月を見下ろした。
『俺との約束なんか破っても構わないだろ? 逃げなければまたキングの籠の鳥に戻ることになるんだ』
「三浦先生は私に逃げて欲しかったんですか?」
ヒールの高いブーツを履いていても身長差のある彼を美月は見上げた。真っ直ぐで汚れのない瞳に彼の驚いた顔が映り込む。
『俺は……』
そこから先を彼は答えられない。美月は視線をゆっくり下げた。
「三浦先生が……昔好きだった人に似ているんです。顔も口調も似ていないのに似てるって思っちゃったの。だから先生と一緒に居たかった」
下げた視線の先に彼の靴が見える。磨かれた綺麗な革靴。キングも同じような靴を履いていた。
「先生の事が好きとか、そういうのじゃないんです。でも私は先生をあの人の代わりにしていた。ごめんなさい」
『……謝ることじゃない』
やっとの想いで出した言葉も一言で終わってしまう。互いに、互いの知らぬところで心臓が激しく鳴っていた。
『だから逃げなかったのか? 俺と一緒にいるために……』
「馬鹿ですよね。こんなこと考えてる場合じゃないのに。女なんてどうせ好きな人のことしか考えてない、そう思って呆れてますよね」
うつむく美月の髪に触れようと伸ばしかけた手を彼は止める。