早河シリーズ最終幕【人形劇】
日付が12月10日に変わる直前、新宿歌舞伎町に銃声が鳴り響く。電飾で輝く歌舞伎町一番街の看板の真下に男が倒れ込む姿がライフルのスコープ越しに見えた。
『おお、真壁の組長も呆気ない死に様だな』
双眼鏡で歌舞伎町の様子を覗く初老の男は和田組元組長であり、現在は相談役の地位にいる西山だ。西山の隣では貴嶋佑聖が風に吹かれていた。
スコーピオンはまだスコープを覗いている。
『キング。組対の石川が来ています』
『石川警部は真壁組に張り付いていたからね。しかし真壁組はすでに内側から崩れている。警察がどれだけ警戒しても内側から崩れているものはどうすることも出来ない』
歌舞伎町を見渡せるビルの屋上で貴嶋は煙草に火をつけた。西山相談役は子どものようにケタケタと笑って双眼鏡から見える騒然とした歌舞伎町を愉しんでいる。
『うちの傘下に入ることに抵抗していた組長が死んだ。これで真壁のシマはうちが貰ったも同然。つまりはキングのシマも同然だな』
『管理はそちらに一任しますよ。私は夜の世界にはあまり興味がないものでね』
紫煙が夜空に流れる。貴嶋の嵌めた金色の腕時計の時刻が午前零時を示した。
ビルの鉄柵に手をかけて彼は東京の街に目を細める。
この巨大なドールハウスの中で右往左往する人間達を操る糸の先には、犯罪組織カオスのキングが君臨していることに気付いている者がどれだけいるだろう。
『あんたは本当に恐ろしい男だ。初めてあんたに会った時は確か辰巳佑吾を殺す前だったな』
『そうでしたね。高校2年の夏……父を殺したあの銃は西山さんに用立ててもらいましたよね。あの時の私はまだしがない高校生、銃を手に入れるにはコネクションが少なかった』
『若い奴が丸腰で事務所に乗り込んで来た時は驚いた。うちの腕っぷしのいい奴をあんたは簡単に倒してしまったな。あれは何年前になるかな?』
『14年前です』
『ほぉ。あれから14年か。早いものだな』
西山相談役も葉巻を咥える。片付けを終えたスコーピオンは貴嶋の後方に控え、北風の吹き荒ぶ屋上で三人の男の影が並んだ。
『あんたは辰巳以上の大物になると踏んでいたが、予想通り辰巳よりも恐ろしい男になった。いや、元々そうだったのかもしれん』
『父の跡を継いだ覚えはありませんからね。今のカオスはすべて私が造り上げたもの』
東京の街を背にして貴嶋は笑う。
哀れなマリオネット達よ、もっと足掻いて愉しませておくれ。
『そう言えば……大学生の女を手に入れて囲っているそうじゃないか。クイーンがいながら欲張りなことをするね』
『ああ……彼女は莉央とはまた別ですよ。私の言うことを聞かない可愛い可愛いお人形さんです』
美月が佐藤と出掛けたことは貴嶋の耳に入っている。思い通りにいかない存在ほど面白い。
『まさに両手に華だな。言うことを聞かないお人形さんをどうするつもりかね? 妾《めかけ》にして子どもでも産ませるつもりか?』
『子孫繁栄は特に考えていませんよ。でもそれもいいかもしれませんね』
この計画が終わった後の未来を思案しながら貴嶋は冷たい夜風を顔に受けていた。
『おお、真壁の組長も呆気ない死に様だな』
双眼鏡で歌舞伎町の様子を覗く初老の男は和田組元組長であり、現在は相談役の地位にいる西山だ。西山の隣では貴嶋佑聖が風に吹かれていた。
スコーピオンはまだスコープを覗いている。
『キング。組対の石川が来ています』
『石川警部は真壁組に張り付いていたからね。しかし真壁組はすでに内側から崩れている。警察がどれだけ警戒しても内側から崩れているものはどうすることも出来ない』
歌舞伎町を見渡せるビルの屋上で貴嶋は煙草に火をつけた。西山相談役は子どものようにケタケタと笑って双眼鏡から見える騒然とした歌舞伎町を愉しんでいる。
『うちの傘下に入ることに抵抗していた組長が死んだ。これで真壁のシマはうちが貰ったも同然。つまりはキングのシマも同然だな』
『管理はそちらに一任しますよ。私は夜の世界にはあまり興味がないものでね』
紫煙が夜空に流れる。貴嶋の嵌めた金色の腕時計の時刻が午前零時を示した。
ビルの鉄柵に手をかけて彼は東京の街に目を細める。
この巨大なドールハウスの中で右往左往する人間達を操る糸の先には、犯罪組織カオスのキングが君臨していることに気付いている者がどれだけいるだろう。
『あんたは本当に恐ろしい男だ。初めてあんたに会った時は確か辰巳佑吾を殺す前だったな』
『そうでしたね。高校2年の夏……父を殺したあの銃は西山さんに用立ててもらいましたよね。あの時の私はまだしがない高校生、銃を手に入れるにはコネクションが少なかった』
『若い奴が丸腰で事務所に乗り込んで来た時は驚いた。うちの腕っぷしのいい奴をあんたは簡単に倒してしまったな。あれは何年前になるかな?』
『14年前です』
『ほぉ。あれから14年か。早いものだな』
西山相談役も葉巻を咥える。片付けを終えたスコーピオンは貴嶋の後方に控え、北風の吹き荒ぶ屋上で三人の男の影が並んだ。
『あんたは辰巳以上の大物になると踏んでいたが、予想通り辰巳よりも恐ろしい男になった。いや、元々そうだったのかもしれん』
『父の跡を継いだ覚えはありませんからね。今のカオスはすべて私が造り上げたもの』
東京の街を背にして貴嶋は笑う。
哀れなマリオネット達よ、もっと足掻いて愉しませておくれ。
『そう言えば……大学生の女を手に入れて囲っているそうじゃないか。クイーンがいながら欲張りなことをするね』
『ああ……彼女は莉央とはまた別ですよ。私の言うことを聞かない可愛い可愛いお人形さんです』
美月が佐藤と出掛けたことは貴嶋の耳に入っている。思い通りにいかない存在ほど面白い。
『まさに両手に華だな。言うことを聞かないお人形さんをどうするつもりかね? 妾《めかけ》にして子どもでも産ませるつもりか?』
『子孫繁栄は特に考えていませんよ。でもそれもいいかもしれませんね』
この計画が終わった後の未来を思案しながら貴嶋は冷たい夜風を顔に受けていた。