早河シリーズ最終幕【人形劇】
サイレンを鳴らした小山真紀の車が目黒区緑が丘の住宅街に停車した。すぐ近くの道路脇に矢野の車が駐まっている。
サイレンの音に何事かと驚く近隣住民が玄関や窓から顔を覗かせてこちらの様子を窺っていた。
真紀が車を降りて君塚邸の敷地に入ると、慌てた様子で玄関から出てきた男と鉢合わせした。男は真紀を見ると懐から警察手帳を出した。
『警視庁警備部の林田です。一課の方ですよね』
「捜査一課の小山です。警備部がどうしてここに?」
『たまたまここを通りかかった時にこの家から不審な物音が聞こえたんです』
「その服についた血は? 鼻血も出てるようだけど大丈夫ですか?」
真紀は林田を一瞥して玄関に入った。林田も真紀の後に続いて玄関に入り、扉を閉める。
『ああ……ここに来る前にチンピラの喧嘩の仲裁に入りましてね、その時にちょっと』
「そうですか。……で、一輝はどこ?」
扉の鍵を施錠しようとした林田の右手首に手錠を嵌めた彼女は、片側の手錠を玄関の手すりに繋いだ。
手すりに繋がれた林田は拘束された腕をガタガタと動かして真紀を睨みつける。
『おいっ! なんだこれはっ!』
「女だからって油断した? 自分ひとりで仕留められると思った? あいにく、捜査一課にいる女はそんな柔《やわ》な女じゃないの。ごめんなさいね」
林田の胸ぐらを掴み、腹部に膝蹴りを喰らわせる。呻いた林田の膝が崩れ落ちた。
「さっきまであんたと一輝が話をしていたことは知ってるの。言いなさい。一輝はどこ?」
『……お前……』
「もし私が刑事じゃなかったら、今頃あんたを殺していたかもね」
林田刑事を玄関に放って真紀は開け放たれたリビングを覗く。ここには誰もいない。
彼女は階段を駆け上がった。息を切らせて二階に上がった真紀は頭から血を流して倒れている矢野を見て絶句する。
「一輝っ! ねぇ……一輝!」
矢野の身体をゆっくり抱き起こして血が流れる頭を自分の膝の上に乗せ、呼吸がしやすくなるようにシャツの襟元を緩めてやる。
『……真紀……』
「遅くなってごめんね。救急車呼んだから……しっかりしてっ!」
頭部の出血部分にハンカチを当てて止血を行う。真紀の目は潤んでいた。
『あいつは……』
「ぶん殴って玄関に手錠で繋いで放置」
『ははっ。やぁっぱり真紀は……強いなぁ。俺の電話……聞いてた?』
「ちゃんと聞いてたよ。あの林田って刑事が君塚を殺したのね」
矢野が通話状態にしてコートのポケットに忍ばせた携帯は真紀の携帯と繋がっていた。
サイレンの音に何事かと驚く近隣住民が玄関や窓から顔を覗かせてこちらの様子を窺っていた。
真紀が車を降りて君塚邸の敷地に入ると、慌てた様子で玄関から出てきた男と鉢合わせした。男は真紀を見ると懐から警察手帳を出した。
『警視庁警備部の林田です。一課の方ですよね』
「捜査一課の小山です。警備部がどうしてここに?」
『たまたまここを通りかかった時にこの家から不審な物音が聞こえたんです』
「その服についた血は? 鼻血も出てるようだけど大丈夫ですか?」
真紀は林田を一瞥して玄関に入った。林田も真紀の後に続いて玄関に入り、扉を閉める。
『ああ……ここに来る前にチンピラの喧嘩の仲裁に入りましてね、その時にちょっと』
「そうですか。……で、一輝はどこ?」
扉の鍵を施錠しようとした林田の右手首に手錠を嵌めた彼女は、片側の手錠を玄関の手すりに繋いだ。
手すりに繋がれた林田は拘束された腕をガタガタと動かして真紀を睨みつける。
『おいっ! なんだこれはっ!』
「女だからって油断した? 自分ひとりで仕留められると思った? あいにく、捜査一課にいる女はそんな柔《やわ》な女じゃないの。ごめんなさいね」
林田の胸ぐらを掴み、腹部に膝蹴りを喰らわせる。呻いた林田の膝が崩れ落ちた。
「さっきまであんたと一輝が話をしていたことは知ってるの。言いなさい。一輝はどこ?」
『……お前……』
「もし私が刑事じゃなかったら、今頃あんたを殺していたかもね」
林田刑事を玄関に放って真紀は開け放たれたリビングを覗く。ここには誰もいない。
彼女は階段を駆け上がった。息を切らせて二階に上がった真紀は頭から血を流して倒れている矢野を見て絶句する。
「一輝っ! ねぇ……一輝!」
矢野の身体をゆっくり抱き起こして血が流れる頭を自分の膝の上に乗せ、呼吸がしやすくなるようにシャツの襟元を緩めてやる。
『……真紀……』
「遅くなってごめんね。救急車呼んだから……しっかりしてっ!」
頭部の出血部分にハンカチを当てて止血を行う。真紀の目は潤んでいた。
『あいつは……』
「ぶん殴って玄関に手錠で繋いで放置」
『ははっ。やぁっぱり真紀は……強いなぁ。俺の電話……聞いてた?』
「ちゃんと聞いてたよ。あの林田って刑事が君塚を殺したのね」
矢野が通話状態にしてコートのポケットに忍ばせた携帯は真紀の携帯と繋がっていた。