早河シリーズ最終幕【人形劇】
『さて、私も美月に聞きたいことがあってね。2年前にも聞いたことがあるのを覚えているかな。この世に神はいるのか、と』
「覚えてるよ。あの時も今もキングの質問の意味がわからない。どうしてそんなこと聞くの?」
『君の考えが知りたいからさ。この世に神はいると思う?』
こちらを直視して離さない貴嶋の視線が居心地悪い。神話学を語りたいなら大学でギリシャ神話を教えていた三浦に聞けばいいものを、貴嶋はあえて美月に質問してきた。
(神とは何だろ?)
美月が神と聞いて真っ先に浮かぶのは全知全能の神、ゼウス。関連してアダムとイブ、エデンの園に失楽園。教科書で学んだだけのギリシャ神話の神々の名が次々と思い浮かぶ。
そう言えば〈人類最初の女〉はパンドラの箱で有名なパンドラだったのか、天地創造のイブなのか、パンドラが実はイブだった?
そうか、そういうことか。
「……神はいると思う」
『何故?』
「人間がいるから。神……英語ではgod、それって人間が名付けた名前でしょ? 神話も大昔の人が作ったもの」
ギリシャ神話、ローマ神話、日本神話、神統記を書いたヘシオドス、聖典の創世記、神にまつわる文献は人間が作り出したものだ。
『美月は人間が神と呼ばれる存在を創造したと考えたのかな?』
「よくわからないけど、そう思う。神が最初に人間を作ったのかもしれない。でもそれを神と名付けたり、崇めたり、神話にして伝えているのは人間だから……」
『とても興味深いね。君は発想が豊かで着眼点も面白い』
美月の答えに貴嶋は満足だった。
以前に彼は寺沢莉央にも同じ質問をした。
莉央に神はいるのかと尋ねると彼女は「いると思う。人間が存在しているから」と答えた。ここまでの答えは美月と同じ、しかし答えを導き出すアプローチは美月とは正反対だった。
──「人間は神が創ったマリオネットなの。私もキングも地球という名の舞台で神に操られているマリオネットなのよ」──
人間は神のマリオネットだと答えた莉央、人間が神を産み出したと答えた美月。どちらの答えも面白い。
これは人の数だけ答えがある難問だ。
「キングはどう思うの? 神様はいると思う?」
『私はね、神はいないと思っている』
「どうして?」
『もし神がいれば私が父親を殺す瞬間を黙って見ていると思うかい?』
あまりにも穏やかに語られた事実に美月は寒気がした。先ほどの和やかな歓談で忘れかけていたがこの男は犯罪組織のキングだ。
「お父さんを殺したの……? どうして?」
『父親は私が生きていく上で邪魔な存在だったんだ。親を殺してはいけない?』
「いけないに決まってる。親だけじゃない、人を殺すことはいけないことだよ!」
『君の隣の彼にも同じ事を言える? 三浦先生も人を殺しているよ』
美月はハッとして隣を見た。三浦が人を殺していることは本人に聞いている。詳しくは知らないが彼も殺人犯だ。
「覚えてるよ。あの時も今もキングの質問の意味がわからない。どうしてそんなこと聞くの?」
『君の考えが知りたいからさ。この世に神はいると思う?』
こちらを直視して離さない貴嶋の視線が居心地悪い。神話学を語りたいなら大学でギリシャ神話を教えていた三浦に聞けばいいものを、貴嶋はあえて美月に質問してきた。
(神とは何だろ?)
美月が神と聞いて真っ先に浮かぶのは全知全能の神、ゼウス。関連してアダムとイブ、エデンの園に失楽園。教科書で学んだだけのギリシャ神話の神々の名が次々と思い浮かぶ。
そう言えば〈人類最初の女〉はパンドラの箱で有名なパンドラだったのか、天地創造のイブなのか、パンドラが実はイブだった?
そうか、そういうことか。
「……神はいると思う」
『何故?』
「人間がいるから。神……英語ではgod、それって人間が名付けた名前でしょ? 神話も大昔の人が作ったもの」
ギリシャ神話、ローマ神話、日本神話、神統記を書いたヘシオドス、聖典の創世記、神にまつわる文献は人間が作り出したものだ。
『美月は人間が神と呼ばれる存在を創造したと考えたのかな?』
「よくわからないけど、そう思う。神が最初に人間を作ったのかもしれない。でもそれを神と名付けたり、崇めたり、神話にして伝えているのは人間だから……」
『とても興味深いね。君は発想が豊かで着眼点も面白い』
美月の答えに貴嶋は満足だった。
以前に彼は寺沢莉央にも同じ質問をした。
莉央に神はいるのかと尋ねると彼女は「いると思う。人間が存在しているから」と答えた。ここまでの答えは美月と同じ、しかし答えを導き出すアプローチは美月とは正反対だった。
──「人間は神が創ったマリオネットなの。私もキングも地球という名の舞台で神に操られているマリオネットなのよ」──
人間は神のマリオネットだと答えた莉央、人間が神を産み出したと答えた美月。どちらの答えも面白い。
これは人の数だけ答えがある難問だ。
「キングはどう思うの? 神様はいると思う?」
『私はね、神はいないと思っている』
「どうして?」
『もし神がいれば私が父親を殺す瞬間を黙って見ていると思うかい?』
あまりにも穏やかに語られた事実に美月は寒気がした。先ほどの和やかな歓談で忘れかけていたがこの男は犯罪組織のキングだ。
「お父さんを殺したの……? どうして?」
『父親は私が生きていく上で邪魔な存在だったんだ。親を殺してはいけない?』
「いけないに決まってる。親だけじゃない、人を殺すことはいけないことだよ!」
『君の隣の彼にも同じ事を言える? 三浦先生も人を殺しているよ』
美月はハッとして隣を見た。三浦が人を殺していることは本人に聞いている。詳しくは知らないが彼も殺人犯だ。