早河シリーズ短編集【masquerade】
8月22日(Sat)
夏の暑い日差しを浴びたひまわりの黄色が眩しく映る。ひまわりの花で思い出す風景は、3年前の静岡のペンションの庭。
美月の叔父が経営するあのペンションの庭にも綺麗なひまわりが咲き誇っていた。
『そろそろ、俺を外に連れ出してまで話したかった要件を教えていただけませんか?』
佐藤は白いワンピースの女性の背中に話しかける。洒落た麦わら帽子を被った寺沢莉央が振り向いた。
「あなたとデートがしたかったって理由じゃダメ?」
彼女の小さな顔にはその麦わら帽子は少し大きい気がする。莉央はデジタルカメラを構えてひまわりの写真を撮っていた。
『デートなら相手は俺でなくてもいいでしょう。キングでもスパイダーでも……』
「キングやスパイダーじゃ意味がないから相手にあなたを選んだのよ。私と二人で出掛けるのが不満?」
デジカメをカゴバッグに入れて莉央は佐藤の前を歩く。両側をひまわりに囲まれた、ひまわり畑の経路を行く莉央の艶やかな髪が風になびいた。
『不満ではありませんよ。デートの運転手ならいくらでも務めます。ただ……』
「こんな場所まで連れてきたからには、何かある。そう思ってる?」
『あなたは人の多い場所を好まれません。このような場所をわざわざ選ばれたことには意味がありますよね?』
見頃を迎えたひまわり畑には大勢の人々が訪れている。人の出入りはちょっとしたテーマパーク並みだ。
「木の葉を隠すなら森の中ってファントムが言ってたの」
『大勢の人間の群れに紛れていれば見つかりにくいと?』
「下手に人のいない場所を選べば目立つじゃない? 誰もこんな所に殺人犯が二人紛れ込んでいるとは思ってもないわよ」
カップルや家族連れとすれ違っても誰もがひまわりに夢中になって、佐藤と莉央の存在に気にも留めない。二人はまさに森に紛れ込んだ二枚の木の葉だ。
「近頃のキングをどう思う?」
周りには莉央よりも背の高いひまわりが並ぶ。ひまわりに埋もれる彼女は童話の親指姫のよう。
『どう、とは?』
「率直な意見を聞かせて。あなたは何があっても最後までキングに従える?」
彼女の猫に似た瞳から笑みは消え、真っ直ぐな視線が突き刺さる。佐藤は胸元にかけていたサングラスを手に取り、莉央の視線を遮断するように目元をサングラスで覆った。
『俺はキングに居場所を与えられました。クイーンも同じなのでは?』
「そうね。あの人がいたから私は今まで生きていられた。キングが私の居場所に変わりはない」
伏せた長い睫毛が莉央の顔に影を落とす。会わなかった3年の間に彼女はまた美しくなった。
夏の暑い日差しを浴びたひまわりの黄色が眩しく映る。ひまわりの花で思い出す風景は、3年前の静岡のペンションの庭。
美月の叔父が経営するあのペンションの庭にも綺麗なひまわりが咲き誇っていた。
『そろそろ、俺を外に連れ出してまで話したかった要件を教えていただけませんか?』
佐藤は白いワンピースの女性の背中に話しかける。洒落た麦わら帽子を被った寺沢莉央が振り向いた。
「あなたとデートがしたかったって理由じゃダメ?」
彼女の小さな顔にはその麦わら帽子は少し大きい気がする。莉央はデジタルカメラを構えてひまわりの写真を撮っていた。
『デートなら相手は俺でなくてもいいでしょう。キングでもスパイダーでも……』
「キングやスパイダーじゃ意味がないから相手にあなたを選んだのよ。私と二人で出掛けるのが不満?」
デジカメをカゴバッグに入れて莉央は佐藤の前を歩く。両側をひまわりに囲まれた、ひまわり畑の経路を行く莉央の艶やかな髪が風になびいた。
『不満ではありませんよ。デートの運転手ならいくらでも務めます。ただ……』
「こんな場所まで連れてきたからには、何かある。そう思ってる?」
『あなたは人の多い場所を好まれません。このような場所をわざわざ選ばれたことには意味がありますよね?』
見頃を迎えたひまわり畑には大勢の人々が訪れている。人の出入りはちょっとしたテーマパーク並みだ。
「木の葉を隠すなら森の中ってファントムが言ってたの」
『大勢の人間の群れに紛れていれば見つかりにくいと?』
「下手に人のいない場所を選べば目立つじゃない? 誰もこんな所に殺人犯が二人紛れ込んでいるとは思ってもないわよ」
カップルや家族連れとすれ違っても誰もがひまわりに夢中になって、佐藤と莉央の存在に気にも留めない。二人はまさに森に紛れ込んだ二枚の木の葉だ。
「近頃のキングをどう思う?」
周りには莉央よりも背の高いひまわりが並ぶ。ひまわりに埋もれる彼女は童話の親指姫のよう。
『どう、とは?』
「率直な意見を聞かせて。あなたは何があっても最後までキングに従える?」
彼女の猫に似た瞳から笑みは消え、真っ直ぐな視線が突き刺さる。佐藤は胸元にかけていたサングラスを手に取り、莉央の視線を遮断するように目元をサングラスで覆った。
『俺はキングに居場所を与えられました。クイーンも同じなのでは?』
「そうね。あの人がいたから私は今まで生きていられた。キングが私の居場所に変わりはない」
伏せた長い睫毛が莉央の顔に影を落とす。会わなかった3年の間に彼女はまた美しくなった。