早河シリーズ短編集【masquerade】
「まさか高校生だとは思わなかった。女子社員がショック受けるのも当然よ。私もそのひとりだもの」
『同期にもロリコンだとか散々言われましたけど、俺が女子高生と付き合ってることがそんなに意外ですか?』
雅の最後の言葉は無視して隼人は質問した。恋人の美月とは彼女の両親も公認の交際で、法律に違反もしていない。やましいことが何もないからこそ、堂々としていられる。
「そうね、意外かな。彼女は何年生?」
『今は3年です。高校生とは言っても、来年は大学生ですよ』
「じゃあ、あと2年もすればハタチか。木村くんとは5歳離れてるのね」
『25歳と20歳じゃそれほど驚かれないのに、どうして23の男が18の女と付き合ってるだけでロリコンだとか大騒ぎされるのか、結構心外ですよ』
隼人は書類を持って席を立ち、フロアの片隅のコピー機に足を向けた。
「わかってないな。木村くんだから騒ぎになるの。君の彼女が自分達より年下の、それも十代だからショックなのよ」
『勝手にショック受けてろって言いたいですね。どうでもいいです』
「冷たいのね」
『俺と彼女のことを何も知らない奴らに彼女の年齢がどうこう言われる筋合いありませんからね。主任、あとはこれをコピーして終わりですよね?』
隼人の確認に頷いた雅も席を離れた。椅子のキャスターが動いて足音が響く。
「もうひとつ君の噂があるの知ってる?」
背後で雅の声が聞こえる。もうすぐ21時、美月が好きなドラマが始まる時間だ。
きっと今頃はテレビの前で待機しているであろう美月の姿を想像するだけで、この状況に耐える気力が戻ってくる。
「大学時代の木村隼人は女となれば来るもの拒まず去るもの追わず、特定の彼女は作らないけど何股もかける女泣かせの最低男だったって話。君と同じ大学出身の秘書課の子が言ってたよ。彼女は君より1年先輩だからきっと君が知らない子だけどね」
足音が隼人の真後ろで止まる。背中に感じる息遣いと体温、腰に回された二本の細い腕。
雅の身体は隼人の背中に密着していた。
「話が本当なら君って大学時代は相当な遊び人だったのね」
『その話は特に否定もしませんよ。事実です』
雅に抱き付かれても隼人は動揺もせずにコピーを続ける。手は事務的にコピー作業を繰り返し、頭ではこの状況の打開策を練っていた。
「じゃあ私とはどう?」
『遊びですか? 本気ですか?』
「どちらがいい?」
彼女の声のトーンが甘ったるいものに変わった。隼人は目を閉じて小さく息を吐いた。
『どちらでもお断りします』
腰に回る雅の手に触れて細い腕をほどく。彼は身体を反転させてコピー機に背を向けた。
『どんなにいい女でも彼女以外の女には興味がないので』
「大学時代は来るもの拒まずだったくせに?」
『彼女と出会う前の話です。今は彼女だけを大切にしたいし本気で愛しています。都合がいいとでも馬鹿とでも、なんとでも罵ってください』
笑顔の仮面を張り付けてやんわりと好意をかわす隼人を雅は眉を寄せて睨み付けた。
「気に入らないわね。高校生なんてまだ子どもじゃない」
隼人が堪えきれずに吹き出したことで雅の形相はさらに歪む。
「そこ笑うところ?」
『すいません。主任でもそういうこと言うんだなって思って』
「喧嘩売ってる?」
『まさか。確かに彼女はまだ高校生だから子どもっぽいとこもあります。そんなとこも含めて好きなんです』
「君にそんな顔させる彼女が益々気に入らない」
隼人から視線を外した彼女はすぐ側のデスクにもたれた。話の山場は越えたらしい。
『同期にもロリコンだとか散々言われましたけど、俺が女子高生と付き合ってることがそんなに意外ですか?』
雅の最後の言葉は無視して隼人は質問した。恋人の美月とは彼女の両親も公認の交際で、法律に違反もしていない。やましいことが何もないからこそ、堂々としていられる。
「そうね、意外かな。彼女は何年生?」
『今は3年です。高校生とは言っても、来年は大学生ですよ』
「じゃあ、あと2年もすればハタチか。木村くんとは5歳離れてるのね」
『25歳と20歳じゃそれほど驚かれないのに、どうして23の男が18の女と付き合ってるだけでロリコンだとか大騒ぎされるのか、結構心外ですよ』
隼人は書類を持って席を立ち、フロアの片隅のコピー機に足を向けた。
「わかってないな。木村くんだから騒ぎになるの。君の彼女が自分達より年下の、それも十代だからショックなのよ」
『勝手にショック受けてろって言いたいですね。どうでもいいです』
「冷たいのね」
『俺と彼女のことを何も知らない奴らに彼女の年齢がどうこう言われる筋合いありませんからね。主任、あとはこれをコピーして終わりですよね?』
隼人の確認に頷いた雅も席を離れた。椅子のキャスターが動いて足音が響く。
「もうひとつ君の噂があるの知ってる?」
背後で雅の声が聞こえる。もうすぐ21時、美月が好きなドラマが始まる時間だ。
きっと今頃はテレビの前で待機しているであろう美月の姿を想像するだけで、この状況に耐える気力が戻ってくる。
「大学時代の木村隼人は女となれば来るもの拒まず去るもの追わず、特定の彼女は作らないけど何股もかける女泣かせの最低男だったって話。君と同じ大学出身の秘書課の子が言ってたよ。彼女は君より1年先輩だからきっと君が知らない子だけどね」
足音が隼人の真後ろで止まる。背中に感じる息遣いと体温、腰に回された二本の細い腕。
雅の身体は隼人の背中に密着していた。
「話が本当なら君って大学時代は相当な遊び人だったのね」
『その話は特に否定もしませんよ。事実です』
雅に抱き付かれても隼人は動揺もせずにコピーを続ける。手は事務的にコピー作業を繰り返し、頭ではこの状況の打開策を練っていた。
「じゃあ私とはどう?」
『遊びですか? 本気ですか?』
「どちらがいい?」
彼女の声のトーンが甘ったるいものに変わった。隼人は目を閉じて小さく息を吐いた。
『どちらでもお断りします』
腰に回る雅の手に触れて細い腕をほどく。彼は身体を反転させてコピー機に背を向けた。
『どんなにいい女でも彼女以外の女には興味がないので』
「大学時代は来るもの拒まずだったくせに?」
『彼女と出会う前の話です。今は彼女だけを大切にしたいし本気で愛しています。都合がいいとでも馬鹿とでも、なんとでも罵ってください』
笑顔の仮面を張り付けてやんわりと好意をかわす隼人を雅は眉を寄せて睨み付けた。
「気に入らないわね。高校生なんてまだ子どもじゃない」
隼人が堪えきれずに吹き出したことで雅の形相はさらに歪む。
「そこ笑うところ?」
『すいません。主任でもそういうこと言うんだなって思って』
「喧嘩売ってる?」
『まさか。確かに彼女はまだ高校生だから子どもっぽいとこもあります。そんなとこも含めて好きなんです』
「君にそんな顔させる彼女が益々気に入らない」
隼人から視線を外した彼女はすぐ側のデスクにもたれた。話の山場は越えたらしい。