早河シリーズ短編集【masquerade】
7月5日(Sun)
莉央との夕暮れの再会以降、茜色の光に照らされて小さくなる彼女の後ろ姿が頭から離れない。
莉央が背負う暗闇の正体が知りたい。彼女が何故人を殺したのか知りたい。
身近に莉央をよく知る人物がいた。幼なじみの加藤麻衣子は莉央の高校時代の友人。莉央の過去について知っているかもしれない。
昨日から実家に戻ってきている麻衣子を木村家に招いたはいいが、同じく実家に帰っている姉の菜摘が鬱陶しく麻衣子にくっついて離れない。今も隼人の部屋で麻衣子と菜摘は仲良く談笑している。
もう少し空気を読んでくれる姉なら助かるのに……と、隼人は苛つきと諦めの溜息を漏らした。
『あのさぁ姉貴。俺は麻衣子と大事な話があるんだ。だから出ていってほしいんだけど』
「えー? お姉ちゃんがいる前じゃできない話ー?」
菜摘が拗ねた顔で抵抗しても隼人には効かない。
『姉ならもっと空気読め』
「隼人のケチー。もう傷の消毒してやらないからねっ」
『別にいい。最初から姉貴に頼んでないし、自分でできる』
まだ抗議の声をあげる菜摘を部屋から追い出して隼人はやれやれとベッドに倒れ込んだ。姉と弟のバトルの一部始終を見ていた麻衣子が笑っている。
「隼人と菜摘ちゃん、相変わらず仲良いね」
『あれで仲良いとかあり得ないだろ』
菜摘のおかげで精神的に疲れていたが、まだ麻衣子を呼び出した本題が片付いていない。彼は傷口に負担にならないようにゆっくり身体を起こした。
『寺沢莉央の話を聞かせてほしい」
「莉央の何が聞きたいの?」
それまで笑っていた麻衣子の表情が今にも泣き出しそうな悲しみの顔に変わる。
『麻衣子が知ってるあいつのこと、全部……お前の友達だった寺沢莉央がどんな人間だったかとか』
「それを聞いてどうするの?」
『わからない。でも知って……自分の中で納得したいだけの身勝手な理由だ』
麻衣子は二度首を縦に振り、覚悟を決めた顔で隼人に向き直る。彼女は冷えた麦茶のグラスを両手で持ち上げて麦茶を一口飲むと、話を始めた。
「私が莉央と友達になったのは高校1年の時。隼人、なぎさに会ったでしょ?」
『ああ。寺沢莉央は香道さんと麻衣子の友達だって聞いた』
「うん。最初に莉央と仲良くなったのは、なぎさなの。クラスに馴染めなかった莉央になぎさが話しかけて仲良くなったんだ。莉央は凄く大人びていて綺麗な子だったから、私もクラスの皆も気後れして話しかけられなかったのよ。そこを突破したのがなぎさで、なぎさと莉央が仲良くなったのをきっかけに私達も莉央と友達になった。クラスの皆、莉央のことが大好きだったと思う」
隼人と麻衣子は幼なじみとは言っても互いの交遊関係を把握しているわけではない。
莉央との夕暮れの再会以降、茜色の光に照らされて小さくなる彼女の後ろ姿が頭から離れない。
莉央が背負う暗闇の正体が知りたい。彼女が何故人を殺したのか知りたい。
身近に莉央をよく知る人物がいた。幼なじみの加藤麻衣子は莉央の高校時代の友人。莉央の過去について知っているかもしれない。
昨日から実家に戻ってきている麻衣子を木村家に招いたはいいが、同じく実家に帰っている姉の菜摘が鬱陶しく麻衣子にくっついて離れない。今も隼人の部屋で麻衣子と菜摘は仲良く談笑している。
もう少し空気を読んでくれる姉なら助かるのに……と、隼人は苛つきと諦めの溜息を漏らした。
『あのさぁ姉貴。俺は麻衣子と大事な話があるんだ。だから出ていってほしいんだけど』
「えー? お姉ちゃんがいる前じゃできない話ー?」
菜摘が拗ねた顔で抵抗しても隼人には効かない。
『姉ならもっと空気読め』
「隼人のケチー。もう傷の消毒してやらないからねっ」
『別にいい。最初から姉貴に頼んでないし、自分でできる』
まだ抗議の声をあげる菜摘を部屋から追い出して隼人はやれやれとベッドに倒れ込んだ。姉と弟のバトルの一部始終を見ていた麻衣子が笑っている。
「隼人と菜摘ちゃん、相変わらず仲良いね」
『あれで仲良いとかあり得ないだろ』
菜摘のおかげで精神的に疲れていたが、まだ麻衣子を呼び出した本題が片付いていない。彼は傷口に負担にならないようにゆっくり身体を起こした。
『寺沢莉央の話を聞かせてほしい」
「莉央の何が聞きたいの?」
それまで笑っていた麻衣子の表情が今にも泣き出しそうな悲しみの顔に変わる。
『麻衣子が知ってるあいつのこと、全部……お前の友達だった寺沢莉央がどんな人間だったかとか』
「それを聞いてどうするの?」
『わからない。でも知って……自分の中で納得したいだけの身勝手な理由だ』
麻衣子は二度首を縦に振り、覚悟を決めた顔で隼人に向き直る。彼女は冷えた麦茶のグラスを両手で持ち上げて麦茶を一口飲むと、話を始めた。
「私が莉央と友達になったのは高校1年の時。隼人、なぎさに会ったでしょ?」
『ああ。寺沢莉央は香道さんと麻衣子の友達だって聞いた』
「うん。最初に莉央と仲良くなったのは、なぎさなの。クラスに馴染めなかった莉央になぎさが話しかけて仲良くなったんだ。莉央は凄く大人びていて綺麗な子だったから、私もクラスの皆も気後れして話しかけられなかったのよ。そこを突破したのがなぎさで、なぎさと莉央が仲良くなったのをきっかけに私達も莉央と友達になった。クラスの皆、莉央のことが大好きだったと思う」
隼人と麻衣子は幼なじみとは言っても互いの交遊関係を把握しているわけではない。