早河シリーズ短編集【masquerade】
 隼人は荷物からある物を出してスラックスのポケットに忍ばせてから、窓辺に立つ美月の肩を抱く。興奮気味の美月が満面の笑みを向けた。

『お姫様。お気に召しましたか?』
「うん。とっても綺麗! ……隼人、ありがとう」
『俺からの誕生日プレゼント』
「プレゼントならさっき貰ったのに……まだあったなんて……」

まだこれで終わりじゃない。隼人にはここを予約した3ヶ月前……それ以前から決めていたことがある。

『バルコニー出てみる?』
「うん。出たい!」

 バルコニーに出るとさらに近くに遊園地のおもちゃ箱の輝きを感じる。彼はスラックスのポケットに手を入れて、そこにある物の感触を確かめた。

『もうひとつプレゼントがあるんだ。左手出して』
「左手?」

 きょとんとした顔で美月は素直に左手を差し出した。隼人は彼女の左手に片手を添え、スラックスのポケットから取り出した物を彼女の左手薬指に嵌めた。

美月は呆然と左手薬指に輝く指輪を見つめた。隼人が選んだエンゲージリングは、美月によく似合うクラシカルなソリティアデザイン。
指輪の中央にはダイヤモンドが煌めいている。

『大学卒業したら俺と結婚してください』

 2年前の莉央の死を見届けたあの日から決めていた。莉央に守られたこの命で、美月を一生守っていくと。
胸元に感じる心地良い圧迫感と愛してやまない美月の香りに包まれる。

「は……やと……。ありがと……う」

 隼人に抱き付いた美月が涙声で言葉を紡ぐ。美月の悲しい泣き顔は見たくないが、美月の嬉し泣きの顔はとびきり可愛い。

『泣くほど嬉しかった?』
「だってまさかプロポーズされるなんて思わなかった」
『ホント可愛いなぁ。それで返事は? 俺の奥さんになってくれますか?』

嬉し泣きするくらいだから彼女の返事はわかっている。それでも確かな返事を美月の口から聞きたい。

「……はい」

 照れ笑いする美月を強く抱き締め、甘いキスを何度も交わした。

 二人の出会いや恋人として過ごした歴史には佐藤や莉央、犯罪組織カオスの存在がどうしてもちらついて、悲しい過去がつきまとう。

でも同じ過去を抱える二人だから、二人で痛みを分かち合って半分ずつ背負える。

 君が隣にいてくれるならどこまでも強くなれる。これからもずっと一緒に生きていこう。

世界で一番、誰よりも君を愛している。



story5.Milky way END
→story6.Bay of Love に続く
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