早河シリーズ短編集【masquerade】
3月25日(Sun)
続々と集まる来訪者達で結婚2日目の木村家のリビングは賑やかだった。来訪者の顔ぶれは隼人の弟の翼、翼の婚約者の住谷由佳、隼人の幼なじみの渡辺亮と加藤麻衣子、美月の友人の石川比奈と椎名朝陽。
ケータリングの料理やピザ、由佳の手作りケーキがテーブルに並び、全員に飲み物が行き渡ったのを見計らって隼人が立ち上がった。
『皆、今日は俺と美月のために集まってくれてありがとう。今日はそれだけじゃなく、大学を卒業して新社会人となる美月と比奈ちゃんと朝陽、ポストドクターとなった亮の門出を思う存分飲んで食べて祝おう。乾杯っ!』
隼人の乾杯の挨拶に皆がグラスを合わせて拍手する。工学部の大学院を卒業した渡辺亮は、私立大学のポストドクター(博士研究員)の任に就いて研究者の道を進む。
『美月ちゃんが卒業したら結婚とは聞いてたけど、まじに卒業してすぐ籍入れちゃうとはねー。兄貴そんなに早く美月ちゃんと夫婦になりたかったのかぁ?』
『うるせー。翼、もう酔ってるな?』
ほろ酔い気味の翼が兄に絡む。本来はここに隼人の姉の菜摘《なつみ》も加われば、もっと楽しかったかもしれないと思いつつ、美月は木村兄弟の軽口を微笑ましく眺めた。
菜摘は仕事で大阪に出張中のため、泣く泣く欠席の連絡が入っていた。
「私も結婚はもう少し先だと思ってたよ。美月ちゃんはこれから社会人になるのに……」
『麻衣子、だからこそだよ』
麻衣子の言葉に渡辺が意味深に返す。話を聞いていた比奈が身を乗り出した。
「だからこそってどういうことですか?」
『隼人がどうして結婚をこのタイミングにしたのか知りたい?』
『おい亮っ!』
意地悪く口元を斜めにする渡辺を隼人が小突いた。普段はクールな隼人の態度が妙に慌てている様が、余計に皆の興味を煽る。
「はーい! 渡辺先生、知りたいでーす」
『俺も知りたいでーす!』
『俺も気になる』
「私も! 渡辺先生、教えて教えて」
挙手をした由佳に続いて翼、朝陽、比奈が次々に手を挙げた。美月は事の成り行きに呆然として、横にいる隼人の顔色を窺う。
隼人は額に手を当てて脱力していた。
『ノリのいい生徒達だな。よし教えてあげよう』
家主よりも尊大な態度の渡辺が人差し指を天井に向けて立てた。
『隼人が結婚をこの時期にした理由は、ただひとつ。牽制だ。美月ちゃんが入社する前に結婚しておけば、美月ちゃんの会社の男達にこの子は俺のものだから手を出すなって、言い寄ってくる男を排除できるだろ?』
続々と集まる来訪者達で結婚2日目の木村家のリビングは賑やかだった。来訪者の顔ぶれは隼人の弟の翼、翼の婚約者の住谷由佳、隼人の幼なじみの渡辺亮と加藤麻衣子、美月の友人の石川比奈と椎名朝陽。
ケータリングの料理やピザ、由佳の手作りケーキがテーブルに並び、全員に飲み物が行き渡ったのを見計らって隼人が立ち上がった。
『皆、今日は俺と美月のために集まってくれてありがとう。今日はそれだけじゃなく、大学を卒業して新社会人となる美月と比奈ちゃんと朝陽、ポストドクターとなった亮の門出を思う存分飲んで食べて祝おう。乾杯っ!』
隼人の乾杯の挨拶に皆がグラスを合わせて拍手する。工学部の大学院を卒業した渡辺亮は、私立大学のポストドクター(博士研究員)の任に就いて研究者の道を進む。
『美月ちゃんが卒業したら結婚とは聞いてたけど、まじに卒業してすぐ籍入れちゃうとはねー。兄貴そんなに早く美月ちゃんと夫婦になりたかったのかぁ?』
『うるせー。翼、もう酔ってるな?』
ほろ酔い気味の翼が兄に絡む。本来はここに隼人の姉の菜摘《なつみ》も加われば、もっと楽しかったかもしれないと思いつつ、美月は木村兄弟の軽口を微笑ましく眺めた。
菜摘は仕事で大阪に出張中のため、泣く泣く欠席の連絡が入っていた。
「私も結婚はもう少し先だと思ってたよ。美月ちゃんはこれから社会人になるのに……」
『麻衣子、だからこそだよ』
麻衣子の言葉に渡辺が意味深に返す。話を聞いていた比奈が身を乗り出した。
「だからこそってどういうことですか?」
『隼人がどうして結婚をこのタイミングにしたのか知りたい?』
『おい亮っ!』
意地悪く口元を斜めにする渡辺を隼人が小突いた。普段はクールな隼人の態度が妙に慌てている様が、余計に皆の興味を煽る。
「はーい! 渡辺先生、知りたいでーす」
『俺も知りたいでーす!』
『俺も気になる』
「私も! 渡辺先生、教えて教えて」
挙手をした由佳に続いて翼、朝陽、比奈が次々に手を挙げた。美月は事の成り行きに呆然として、横にいる隼人の顔色を窺う。
隼人は額に手を当てて脱力していた。
『ノリのいい生徒達だな。よし教えてあげよう』
家主よりも尊大な態度の渡辺が人差し指を天井に向けて立てた。
『隼人が結婚をこの時期にした理由は、ただひとつ。牽制だ。美月ちゃんが入社する前に結婚しておけば、美月ちゃんの会社の男達にこの子は俺のものだから手を出すなって、言い寄ってくる男を排除できるだろ?』