早河シリーズ短編集【masquerade】
ベッドには生後2ヶ月になる隼人と美月の息子、斗真《とうま》がすやすやと寝息を立てていた。
渡辺が来訪の手土産にスーパーで惣菜を買い込んだ理由も、産後の美月に負担をかけないためだ。
「ちょっと亮! 斗真に近付く前にうがい手洗いしてよね。斗真にバイ菌入ったらどうするの!」
『はいはい。麻衣子は小姑みたいにうるさいな』
「小姑とは失礼ね!」
渡辺と麻衣子の軽口に美月が笑う。この家にはいつも笑顔が溢れている。
麻衣子に命じられた通り、洗面所を借りてうがい手洗いを済ませてから再びベビーベッドを覗いた。
斗真を見たのは産婦人科に見舞いに行った時以来だ。生後数日の新生児の時よりも、2ヶ月の今はだいぶ顔立ちがはっきりしていた。
面差しは父親の隼人に似ている気はする。でも隼人はこんなに愛らしくないと考えて、苦笑いが出た。
斗真が目を開けた。ぱちぱちとまばたきをして、小さな手足をパタパタと動かす姿は天使そのもの。
渡辺が斗真の手のひらに触れると、小さな手が渡辺の人差し指をきゅっと握った。その感覚が温かくてほっとする。
「斗真ご機嫌さんだね。亮お兄ちゃんが遊びに来てくれて嬉しいのかな」
ベビーベッドの傍らで斗真を見守る美月は母親の顔をしている。美月と初めて出会った時、彼女はまだ高校生だった。
その美月が母親になり、彼女が産んだ子どもが目の前にいる。無性に感慨深くて、目の奥が熱く潤んできた。
(涙腺が緩くなったのは歳のせいだな)
名残惜しく斗真の側を離れて、ソファーで美月が淹れてくれたコーヒーを飲みながら麻衣子と談笑を交える。
「亮、またちょっと痩せた? ちゃんと食べてる?」
『研究忙しくてさ。下っ端はこき使われるんだ』
麻衣子とゆっくり話をするのも数ヶ月振りだ。お互い社会人となり、隣近所だった実家を出てからは麻衣子とも隼人とも、昔よりは会う頻度も少なくなった。
幼なじみの木村隼人と加藤麻衣子とは幼稚園から共に人生を歩んでいる。渡辺の人生はこの二人をなくしては語れない。
隼人との関係は幼なじみや親友、本当はそんな言葉では言い表せない。十代の、ある時期には隼人と一切口を利かなくなった期間や殴り合いの喧嘩をしたこともあった。
それでもいつの間にか隼人が隣にいる日常が自然と戻ってくる。何度喧嘩しても気付くと互いに側にいる。
強いて言えば隼人は家族に近い存在だ。
渡辺が来訪の手土産にスーパーで惣菜を買い込んだ理由も、産後の美月に負担をかけないためだ。
「ちょっと亮! 斗真に近付く前にうがい手洗いしてよね。斗真にバイ菌入ったらどうするの!」
『はいはい。麻衣子は小姑みたいにうるさいな』
「小姑とは失礼ね!」
渡辺と麻衣子の軽口に美月が笑う。この家にはいつも笑顔が溢れている。
麻衣子に命じられた通り、洗面所を借りてうがい手洗いを済ませてから再びベビーベッドを覗いた。
斗真を見たのは産婦人科に見舞いに行った時以来だ。生後数日の新生児の時よりも、2ヶ月の今はだいぶ顔立ちがはっきりしていた。
面差しは父親の隼人に似ている気はする。でも隼人はこんなに愛らしくないと考えて、苦笑いが出た。
斗真が目を開けた。ぱちぱちとまばたきをして、小さな手足をパタパタと動かす姿は天使そのもの。
渡辺が斗真の手のひらに触れると、小さな手が渡辺の人差し指をきゅっと握った。その感覚が温かくてほっとする。
「斗真ご機嫌さんだね。亮お兄ちゃんが遊びに来てくれて嬉しいのかな」
ベビーベッドの傍らで斗真を見守る美月は母親の顔をしている。美月と初めて出会った時、彼女はまだ高校生だった。
その美月が母親になり、彼女が産んだ子どもが目の前にいる。無性に感慨深くて、目の奥が熱く潤んできた。
(涙腺が緩くなったのは歳のせいだな)
名残惜しく斗真の側を離れて、ソファーで美月が淹れてくれたコーヒーを飲みながら麻衣子と談笑を交える。
「亮、またちょっと痩せた? ちゃんと食べてる?」
『研究忙しくてさ。下っ端はこき使われるんだ』
麻衣子とゆっくり話をするのも数ヶ月振りだ。お互い社会人となり、隣近所だった実家を出てからは麻衣子とも隼人とも、昔よりは会う頻度も少なくなった。
幼なじみの木村隼人と加藤麻衣子とは幼稚園から共に人生を歩んでいる。渡辺の人生はこの二人をなくしては語れない。
隼人との関係は幼なじみや親友、本当はそんな言葉では言い表せない。十代の、ある時期には隼人と一切口を利かなくなった期間や殴り合いの喧嘩をしたこともあった。
それでもいつの間にか隼人が隣にいる日常が自然と戻ってくる。何度喧嘩しても気付くと互いに側にいる。
強いて言えば隼人は家族に近い存在だ。