早河シリーズ短編集【masquerade】
「そんな失恋したばかりのあなたには……ジャジャーン」
朋美がスマートフォンの画面を泉に向けた。泉は朋美のスマホに表示された文字の羅列を目で追う。
スマホには、〈12月21日(土)星城大学工学部 情報工学科&建築科合同忘年会〉の文字。
「なにジャジャーンって……下手な通販番組の効果音みたい。……忘年会?」
「今週の土曜。行くでしょ?」
「パス。今は騒ぐ気分になれない」
「男と別れた時にこそ騒がなくちゃ! 今年は情報工学科との合同忘年会だよ。あっちの参加メンバーがそりゃもう豪華なんだから! ……って泉! 話を聞けぇ!」
朋美の話の途中で泉はドーナツを食べた手をウェットティッシュで拭い、パソコンのキーを打ち始めた。
数行タイプした後に泉はドーナツに手を伸ばす。今度はフレンチクルーラーだ。
「情報工学科ねー。あっちに知り合いいないから豪華メンバーって言われても……。どんな人が来るの?」
「学部生の時にミスター星城になったドクター2年の白井直澄とポスドクの渡辺先生」
「白井先輩はわかるけど、渡辺先生って誰?」
「あんた星城にいてよく今まで渡辺先生を知らずに生きてきたね……ある意味凄い」
朋美に呆れた眼差しを向けられても泉は平然とフレンチクルーラーを食していた。色気より食い気とは、まさに泉のためにある言葉だ。
「だって情報工学科のポスドクでしょ? 他の学科のポスドクなんて知らないのが普通じゃない」
「普通はね。でも渡辺先生は特別。渡辺先生が去年星城に来た時、めちゃくちゃイケメンなポスドクが来たって話題になったのよ。それがさー、渡辺先生って大学時代はちょっとした有名人だったのよ? 啓徳大学の伝説のミスター啓徳四連覇の話はさすがに泉でも聞いたことあるでしょ?」
「あー、それは知ってる。四連覇した人はメンズ雑誌の元読者モデルで、芸能事務所からスカウトが来たんでしょ。結局、芸能人にはならなかったって噂で聞いた」
もう7、8年は前の話だが、星城大学よりも偏差値が少し高い啓徳大学では、今でもミスターコンテストを四連覇した者はいないと聞く。
「渡辺先生も啓徳大出身で、ミスター啓徳を四連覇した人と友達なの。イケメン二人が並ぶとそれはもう、神々しい神の子孫のご降臨って感じでねぇ。高校の時に啓徳大の学祭行って、渡辺先生とその人のツーショット拝んできたけど最高だったわぁ」
「ふーん」
そう言われてもあまり興味が湧かない。ダイキと付き合っていた3年間は他の男はまったく眼中になかった。
朋美がスマートフォンの画面を泉に向けた。泉は朋美のスマホに表示された文字の羅列を目で追う。
スマホには、〈12月21日(土)星城大学工学部 情報工学科&建築科合同忘年会〉の文字。
「なにジャジャーンって……下手な通販番組の効果音みたい。……忘年会?」
「今週の土曜。行くでしょ?」
「パス。今は騒ぐ気分になれない」
「男と別れた時にこそ騒がなくちゃ! 今年は情報工学科との合同忘年会だよ。あっちの参加メンバーがそりゃもう豪華なんだから! ……って泉! 話を聞けぇ!」
朋美の話の途中で泉はドーナツを食べた手をウェットティッシュで拭い、パソコンのキーを打ち始めた。
数行タイプした後に泉はドーナツに手を伸ばす。今度はフレンチクルーラーだ。
「情報工学科ねー。あっちに知り合いいないから豪華メンバーって言われても……。どんな人が来るの?」
「学部生の時にミスター星城になったドクター2年の白井直澄とポスドクの渡辺先生」
「白井先輩はわかるけど、渡辺先生って誰?」
「あんた星城にいてよく今まで渡辺先生を知らずに生きてきたね……ある意味凄い」
朋美に呆れた眼差しを向けられても泉は平然とフレンチクルーラーを食していた。色気より食い気とは、まさに泉のためにある言葉だ。
「だって情報工学科のポスドクでしょ? 他の学科のポスドクなんて知らないのが普通じゃない」
「普通はね。でも渡辺先生は特別。渡辺先生が去年星城に来た時、めちゃくちゃイケメンなポスドクが来たって話題になったのよ。それがさー、渡辺先生って大学時代はちょっとした有名人だったのよ? 啓徳大学の伝説のミスター啓徳四連覇の話はさすがに泉でも聞いたことあるでしょ?」
「あー、それは知ってる。四連覇した人はメンズ雑誌の元読者モデルで、芸能事務所からスカウトが来たんでしょ。結局、芸能人にはならなかったって噂で聞いた」
もう7、8年は前の話だが、星城大学よりも偏差値が少し高い啓徳大学では、今でもミスターコンテストを四連覇した者はいないと聞く。
「渡辺先生も啓徳大出身で、ミスター啓徳を四連覇した人と友達なの。イケメン二人が並ぶとそれはもう、神々しい神の子孫のご降臨って感じでねぇ。高校の時に啓徳大の学祭行って、渡辺先生とその人のツーショット拝んできたけど最高だったわぁ」
「ふーん」
そう言われてもあまり興味が湧かない。ダイキと付き合っていた3年間は他の男はまったく眼中になかった。