早河シリーズ短編集【masquerade】
 好きになると好きな人以外の男はジャガイモだ。
どれだけ格好よくても、彼氏以外はジャガイモにヘノヘノモヘジを落書きしたみたいな印象しかない。

そんなダイキは今はジャガイモ以下、むしろジャガイモに申し訳ない。
ジャガイモは浮気はしないし、ジャガイモは裏切らない。美味しいジャガイモは正義だ。
肉じゃが、カレー、屋台のフライドポテト、どんな料理でもジャガイモは旨い。

 話を聞かない泉に堪えかねて、朋美は泉の両肩に手を添えた。

「泉。あんた最近枯れてるでしょ?」
「失礼ね。これでもスキンケアはちゃんとやってます」
「お肌じゃなくてheart! 心よ心! それとbody! ちなみに聞くけど元カレと別れる前、どれくらいエッチしてなかった?」

 朋美に小声で尋ねられて泉は初めて狼狽えた。
最後にダイキとデートをした秋の夜は栗ご飯を食べて解散だったから、色っぽい思い出はない。

泉は最後にダイキの部屋に泊まった日を必死で思い出す。確か部屋には冷房がついていた。

「えーっと……夏……? に……したっきり……」
「さて問題です。今は何月?」
「……12月」
「ごめん泉。友達としてハッキリ言うけど、それは浮気されても仕方ないわ。夏以降、恋人の営みがなかったのね。遠距離でもないのにそれは、ちょっと元カレも可哀想に思えてくるよ」

 何とも言えない虚無感に襲われる。結局、男はそうなのか。恋人の営みがないと他の女に走るのか。
食べかけのフレンチクルーラーをティッシュの上に置いて泉は顔を伏せた。

「だって研究と論文で忙しかったんだもん! 休みがあるならダイキに会うより寝ていたかったの! エッチするより寝たかったんだよぉ!」
「だから枯れてるって言ってるの。ね、枯れた心と身体に潤いを取り戻すために忘年会行こうよ。イケメン見ながらお酒飲んで嫌なこと忘れてリフレッシュするの。いい? 絶対参加だからね?」

 朋美の勢いに押し負けて泉は渋々、忘年会への参加を承諾した。
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