早河シリーズ短編集【masquerade】
12月19日(Thu)
渡辺は情報工学科、博士課程2年の白井直澄の研究指導をしていた。
『あとは助教に見てもらって』
『はい。ありがとうございました』
研究データを保存したUSBメモリを白井に返す。白井は部屋を出かけた足を止め、振り返った。
『忘年会の時間と場所、先生のパソコンにメール送っておきました』
『ああ、メール見たよ。明後日だったね。でも去年に引き続き俺も参加していいのか?』
ポストドクターである自分が学部生や院生が集まる忘年会に参加していいものか渡辺は迷っていた。
『構いませんよ。教官参加の打ち上げも多いし、渡辺先生がいると女子の参加率がいいことが去年の忘年会で判明したので』
『女子を集める餌に使われてる気分だな』
『その解釈は間違いではないですね。今年は建築科との合同忘年会です。建築科は可愛い子が多いですよ』
『俺はできれば女には近付きたくないねぇ』
先日の高橋鈴華の顔がよぎる。忘年会には鈴華も参加するだろう。
渡辺を諦めないと宣言したあの日以降、鈴華は研究以外のことでは渡辺に話しかけなくなった。
女の沈黙は逆に恐ろしくもある。
『もったいない。渡辺先生は女子に人気があるんですよ。……そういえば高橋鈴華は最近大人しいですね』
鈴華のことを考えていた矢先に白井の口から出た彼女の名前。これは意図的なもの?
『高橋さんが大人しいって?』
『彼女、渡辺先生にベッタリでしたよね。何かにつけて先生にくっついて……それが今週に入ってから妙に静かになった。先生、高橋さんと何かありました?』
博士課程の白井は26歳、渡辺は29歳。ポストドクターと院生でも年齢差はさほどない。
特に白井は、院生の中でも大人びた雰囲気を持っていてそれは幼なじみの隼人と似ていた。
(どこの世界にも隼人みたいな奴はいるものだな)
白井の相手をしていると稀に隼人と話をしているような錯覚をする時もあった。
『もしも白井くんが高橋さんを引き受けてくれるのなら俺としては助かるね』
『先生を助けるためじゃないですよ。高橋鈴華に個人的に興味があるだけです』
『くれぐれも女の子を傷付けるやり方はしないように。俺が言えるのはそれだけ』
学生の色恋沙汰の巻き添えを食らうのは勘弁だ。
白井は了解の笑みで一礼して部屋を出ていった。白井が鈴華を攻略できた折りには、祝杯として酒でも奢ってやろうと渡辺は考えていた。
渡辺は情報工学科、博士課程2年の白井直澄の研究指導をしていた。
『あとは助教に見てもらって』
『はい。ありがとうございました』
研究データを保存したUSBメモリを白井に返す。白井は部屋を出かけた足を止め、振り返った。
『忘年会の時間と場所、先生のパソコンにメール送っておきました』
『ああ、メール見たよ。明後日だったね。でも去年に引き続き俺も参加していいのか?』
ポストドクターである自分が学部生や院生が集まる忘年会に参加していいものか渡辺は迷っていた。
『構いませんよ。教官参加の打ち上げも多いし、渡辺先生がいると女子の参加率がいいことが去年の忘年会で判明したので』
『女子を集める餌に使われてる気分だな』
『その解釈は間違いではないですね。今年は建築科との合同忘年会です。建築科は可愛い子が多いですよ』
『俺はできれば女には近付きたくないねぇ』
先日の高橋鈴華の顔がよぎる。忘年会には鈴華も参加するだろう。
渡辺を諦めないと宣言したあの日以降、鈴華は研究以外のことでは渡辺に話しかけなくなった。
女の沈黙は逆に恐ろしくもある。
『もったいない。渡辺先生は女子に人気があるんですよ。……そういえば高橋鈴華は最近大人しいですね』
鈴華のことを考えていた矢先に白井の口から出た彼女の名前。これは意図的なもの?
『高橋さんが大人しいって?』
『彼女、渡辺先生にベッタリでしたよね。何かにつけて先生にくっついて……それが今週に入ってから妙に静かになった。先生、高橋さんと何かありました?』
博士課程の白井は26歳、渡辺は29歳。ポストドクターと院生でも年齢差はさほどない。
特に白井は、院生の中でも大人びた雰囲気を持っていてそれは幼なじみの隼人と似ていた。
(どこの世界にも隼人みたいな奴はいるものだな)
白井の相手をしていると稀に隼人と話をしているような錯覚をする時もあった。
『もしも白井くんが高橋さんを引き受けてくれるのなら俺としては助かるね』
『先生を助けるためじゃないですよ。高橋鈴華に個人的に興味があるだけです』
『くれぐれも女の子を傷付けるやり方はしないように。俺が言えるのはそれだけ』
学生の色恋沙汰の巻き添えを食らうのは勘弁だ。
白井は了解の笑みで一礼して部屋を出ていった。白井が鈴華を攻略できた折りには、祝杯として酒でも奢ってやろうと渡辺は考えていた。