早河シリーズ短編集【masquerade】
12月21日(Sat)

 今夜は星城大学情報工学科と建築科の合同忘年会。昼間に大学で仕事を片付けて、渡辺亮は忘年会が開催される恵比寿のダイニングバーに向かった。

忘年会は情報工学科の学部生のバイト先であるダイニングバーを貸し切って行われる。自由参加のため来ていない学生もいるが、貸し切りの店内が星城大学の学生で埋め尽くされる大規模なものとなった。

 酒を飲み、歌い、騒ぐ学生達を遠巻きに眺めて渡辺は自分も歳をとったと実感する。

院生とはそれほど年の差は感じなくても、学部の19歳の1年生とは最大で10歳の差がある。それだけ違えば、話も文化も合わなくなる。

 去年の情報工学科の忘年会も無理やり参加させられた。学生ではないポストドクターや講師陣の参加が渡辺のみの状況は今年も変わらず、なんとも居心地が悪い。

 さらに居心地を悪くさせるのは渡辺を取り囲む大勢の女子学生だった。これではまるでキャバクラだ。

「先生、彼女いないんですか? 私、立候補しちゃおうかなぁ」
「ちょっと抜け駆けー! 私も立候補したいっ!」
「渡辺先生がいるなら情報工学科行けば良かったなぁ」

たまには女の園で酒を飲むのも悪くはない……が。情報工学科と建築科の学部生と院生を含めた女子学生のあまりのうるさい会話に耳を塞ぎたくなる。

 これが本当に理系の集まりかと疑いたくなる。普段は理知的で澄ました学生達も、アルコールのおかげで今夜は異様にはしゃいでいる。
酒が入れば理系も文系も関係ないと言うことだ。

(気味が悪いのは、あの女がこの群れにいないってことだ)

 渡辺を囲む女の園に高橋鈴華の姿がない。高飛車な気質の鈴華は、もともと他の女子学生の輪に加わることはなかった。だが今夜は渡辺に近付きもしない。

鈴華は白井を中心とした男子学生の園に囲まれていた。

(なるほど。あっちは逆ハーレムか……)


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