早河シリーズ短編集【masquerade】
買い込んだお菓子のグッツを抱えて大学の院生室に戻る。院生室では友人の朋美が発表前の修論に頭を悩ませていた。
忘年会の最中に泉を置いて消えた朋美は、ちゃっかり情報工学科の男子と意気投合して早々に忘年会を抜け出したと後々発覚した。
他の友達も皆、お目当ての男子学生を捕まえたり先に帰ったりしてしまい、ひとり残された泉は男子学生達のターゲットにされるはめとなった。
友達甲斐のない奴らめと、泉は少し拗ねたりもした。
修論と格闘中の朋美が泉が持つ袋に目を留める。泉は黒色の紙袋とピンク色のビニール袋を持っていた。
「その袋なぁーに?」
「デパ地下で美味しそうだったから買ってきた。食べる?」
「食べるっ! ちょうど3時のおやつの小腹が空いたとこなんだぁ」
黒色の袋にはデパ地下のスイーツが入っている。甘いものを補給しなければ論文もやってられない。
デパ地下のスイーツ売り場で泉が購入したのはマドレーヌだ。朋美は嬉々としてマドレーヌを頬張った。
「バレンタインはチョコ作る?」
「今年はチョコは止めるけど何か作ろうとは思ってる」
ラッピンググッツの入るピンク色のビニール袋をデスクの足元に置いて、泉は長く伸びた髪を後ろで束ねた。
去年の今頃はセミロングだった髪が背中まで伸びている。この伸びっぱなしの髪もそろそろ切りに行きたい。
失恋したからって髪を切りたくはならない。ただ、新しい自分に生まれ変わるための最初の一歩が髪を切る行為なだけだ。
女が髪を切るのは、最初の一歩を踏み出す時。
マドレーヌ片手に修論を進めていた泉は同期の男子学生に呼ばれた。
『小野田ー。お客さん来てる』
「誰ー?」
『情報工学科の女の子』
情報工学科と聞いて一瞬心臓がドキッと高鳴る。情報工学科はポストドクターの渡辺が所属する学科だ。
しかし泉は情報工学科の知り合いはいない。そこの女子学生が自分に何の用だろう?
束ねていた髪をほどいて院生室を出た。どこかで見たことのある、茶髪の女子学生が廊下に立っていた。
「修論でお忙しいのにごめんなさい。情報工学科修士1年の高橋鈴華です」
「小野田です。あ、もしかして忘年会にいた?」
鈴華の華やかな顔立ちをどこかで見たことがあると思えば、忘年会で男に囲まれて逆ハーレムを築いていた人物だ。
「はい。小野田さんも忘年会にいらしてましたよね。お話があるので少しお時間よろしいですか?」
鈴華のただならぬ雰囲気に圧倒されて泉は頷くしかなかった。本音は修論を進めたいが、張り詰めた表情の鈴華の要件も気になる。
忘年会の最中に泉を置いて消えた朋美は、ちゃっかり情報工学科の男子と意気投合して早々に忘年会を抜け出したと後々発覚した。
他の友達も皆、お目当ての男子学生を捕まえたり先に帰ったりしてしまい、ひとり残された泉は男子学生達のターゲットにされるはめとなった。
友達甲斐のない奴らめと、泉は少し拗ねたりもした。
修論と格闘中の朋美が泉が持つ袋に目を留める。泉は黒色の紙袋とピンク色のビニール袋を持っていた。
「その袋なぁーに?」
「デパ地下で美味しそうだったから買ってきた。食べる?」
「食べるっ! ちょうど3時のおやつの小腹が空いたとこなんだぁ」
黒色の袋にはデパ地下のスイーツが入っている。甘いものを補給しなければ論文もやってられない。
デパ地下のスイーツ売り場で泉が購入したのはマドレーヌだ。朋美は嬉々としてマドレーヌを頬張った。
「バレンタインはチョコ作る?」
「今年はチョコは止めるけど何か作ろうとは思ってる」
ラッピンググッツの入るピンク色のビニール袋をデスクの足元に置いて、泉は長く伸びた髪を後ろで束ねた。
去年の今頃はセミロングだった髪が背中まで伸びている。この伸びっぱなしの髪もそろそろ切りに行きたい。
失恋したからって髪を切りたくはならない。ただ、新しい自分に生まれ変わるための最初の一歩が髪を切る行為なだけだ。
女が髪を切るのは、最初の一歩を踏み出す時。
マドレーヌ片手に修論を進めていた泉は同期の男子学生に呼ばれた。
『小野田ー。お客さん来てる』
「誰ー?」
『情報工学科の女の子』
情報工学科と聞いて一瞬心臓がドキッと高鳴る。情報工学科はポストドクターの渡辺が所属する学科だ。
しかし泉は情報工学科の知り合いはいない。そこの女子学生が自分に何の用だろう?
束ねていた髪をほどいて院生室を出た。どこかで見たことのある、茶髪の女子学生が廊下に立っていた。
「修論でお忙しいのにごめんなさい。情報工学科修士1年の高橋鈴華です」
「小野田です。あ、もしかして忘年会にいた?」
鈴華の華やかな顔立ちをどこかで見たことがあると思えば、忘年会で男に囲まれて逆ハーレムを築いていた人物だ。
「はい。小野田さんも忘年会にいらしてましたよね。お話があるので少しお時間よろしいですか?」
鈴華のただならぬ雰囲気に圧倒されて泉は頷くしかなかった。本音は修論を進めたいが、張り詰めた表情の鈴華の要件も気になる。