早河シリーズ短編集【masquerade】
「なーんだ。やっぱりそういうことじゃない。小野田さんは渡辺先生が好きなんですね」
「……え? ……ええっ? なんでそうなるのっ」
「だってそんなに動揺してるのって、渡辺先生と私がキスしたのがショックだったからですよね?」
鈴華の指摘を受けて、泉は心に秘めたかすかな想いの存在に気付く。渡辺と鈴華がキスをした事実に傷付いている自分がいた。
「でも……あのね、渡辺先生とは忘年会で初めて会ったの。あの一度きりで、連絡先も知らないしそれ以上会ってもなくて、だから好きとかそんなんじゃなくて、酔った私を介抱してくれた恩人と言うか……」
聞かれてもないことまで早口でペラペラと喋ってしまう。鈴華はさらに不機嫌に眉間のシワを深くした。
「私に言い訳しないでください。小野田さんの事情なんか私には関係ないですし」
「そ、そうよね。ごめんなさい」
「会ったのが一度だけとか、別に関係ないですよ。人を好きになるのに理由はいりません。その最初の一回で好きになっちゃうことだってあります」
泉に比べて鈴華はずいぶんと落ち着いている。年齢としては年下でも恋愛経験においては、鈴華の方が経験豊富なのだろう。
「最初は写真をバラせばいいって言っていた渡辺先生がどうして私にキスしたのか、理由がわかりますか?」
「えーっと……高橋さんが可愛いから?」
「喧嘩売ってます?」
褒め言葉で言ったつもりでも鈴華には不愉快だったらしい。気難しい猫を相手にしているみたいだった。
「小野田さんのためですよ。写真が教授達に見られると小野田さんも大学側から事情を聞かれるかもしれない。今は修論で大事な時期ですし、先生は小野田さんが追及される事態になるのを避けたかったんじゃないでしょうか。あくまでも私の解釈ですけど」
心の奥が痛い。痛くなって、心の傷口からじんわりと温かなものが込み上げてくる。
「先生は自分の保身のためじゃなくて小野田さんを守るために私の要求を受け入れたの。でも他の女を守るために恋人にしてもらっても嬉しくない。あの時の先生は私とキスをしていても、小野田さんのことを考えていました」
不機嫌だった鈴華の瞳に悲しみが宿る。
「……え? ……ええっ? なんでそうなるのっ」
「だってそんなに動揺してるのって、渡辺先生と私がキスしたのがショックだったからですよね?」
鈴華の指摘を受けて、泉は心に秘めたかすかな想いの存在に気付く。渡辺と鈴華がキスをした事実に傷付いている自分がいた。
「でも……あのね、渡辺先生とは忘年会で初めて会ったの。あの一度きりで、連絡先も知らないしそれ以上会ってもなくて、だから好きとかそんなんじゃなくて、酔った私を介抱してくれた恩人と言うか……」
聞かれてもないことまで早口でペラペラと喋ってしまう。鈴華はさらに不機嫌に眉間のシワを深くした。
「私に言い訳しないでください。小野田さんの事情なんか私には関係ないですし」
「そ、そうよね。ごめんなさい」
「会ったのが一度だけとか、別に関係ないですよ。人を好きになるのに理由はいりません。その最初の一回で好きになっちゃうことだってあります」
泉に比べて鈴華はずいぶんと落ち着いている。年齢としては年下でも恋愛経験においては、鈴華の方が経験豊富なのだろう。
「最初は写真をバラせばいいって言っていた渡辺先生がどうして私にキスしたのか、理由がわかりますか?」
「えーっと……高橋さんが可愛いから?」
「喧嘩売ってます?」
褒め言葉で言ったつもりでも鈴華には不愉快だったらしい。気難しい猫を相手にしているみたいだった。
「小野田さんのためですよ。写真が教授達に見られると小野田さんも大学側から事情を聞かれるかもしれない。今は修論で大事な時期ですし、先生は小野田さんが追及される事態になるのを避けたかったんじゃないでしょうか。あくまでも私の解釈ですけど」
心の奥が痛い。痛くなって、心の傷口からじんわりと温かなものが込み上げてくる。
「先生は自分の保身のためじゃなくて小野田さんを守るために私の要求を受け入れたの。でも他の女を守るために恋人にしてもらっても嬉しくない。あの時の先生は私とキスをしていても、小野田さんのことを考えていました」
不機嫌だった鈴華の瞳に悲しみが宿る。