早河シリーズ短編集【masquerade】
 挙式の時間が迫り、招待客がホテル内のチャペルに集まる。白で統一されたクラシカルなチャペルには木目調の椅子が並んでいた。

 祭壇から向かって左側の新婦側の椅子に木村夫妻と渡辺亮が揃って着席する。麻衣子が幼稚園の頃から家族同然の付き合いをしてきた隼人と渡辺は、必然的に新婦の親族が並ぶ席の真後ろに座る事態になってしまった。

なぎさと真愛も隼人達の数列後ろに着席している。

『麻衣子もついに結婚か……』

 渡辺はしんみりとしていた。麻衣子に長年の片想いをしていた渡辺としては、複雑な胸中だろう。

『寂しいだろ?』
『隼人だって寂しいくせに』
『娘を嫁に出す父親はこういう気分なのかもな』
『お前は麻衣子の親父かっ。でも麻衣子の父さんも泣いてたな』

 麻衣子の結婚が決まった直後に隼人と渡辺は酒を持参して加藤家を訪問した。幼い頃から面倒を見てきてくれた麻衣子の父と、男三人で飲み明かした夜。

麻衣子が隼人に片想いしていたことも、渡辺が麻衣子に片想いしていたことも、麻衣子の父は知っている。

 ──“お前たち皆、幸せになれよ”──

そう呟いた麻衣子の父は酔った赤い顔で泣いていた。

 隼人の膝の上に座る斗真が顔を後ろに向けた。後方にいる真愛の存在が気になっているようだ。

『こいつ、真愛ちゃんが気になってるな』
「斗真は年上の女の子と遊んだのは初めてだからね。仲良くなれて良かった」

 オルガン演奏の始まりと共に新婦が入場する。純白のウェディングドレスに身を包む麻衣子が父親とバージンロードを歩いてきた。

結婚証明書のサインの時間に美月は隼人の顔を盗み見る。
渡辺は麻衣子の花嫁姿を見た瞬間に泣き出していたが、隼人の瞳に涙は見えない。しかし唇をきつく結んで麻衣子を見つめる隼人の表情は、必死で泣くのを堪えている顔だった。

(泣きたいなら亮くんみたいに泣けばいいのに、隼人も素直じゃないなぁ)

 泣くのを我慢している隼人の手に触れる。隼人は無言で美月の手を握り返して、そこに斗真の小さな手が重なった。

誓いのキスでついに隼人の涙腺も崩壊、麻衣子の幼なじみの二人の男は、他の出席者の誰よりも泣いていた。
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