早河シリーズ短編集【masquerade】
 チャペルからホテルの披露宴会場に舞台が移る。雛壇に夫と座る麻衣子を見つめる隼人と渡辺の眼差しはやはりどこか寂しそうで、二人にとって麻衣子がどれだけ大切な存在か窺い知れる。

『お前は泉ちゃんとどうするんだ? 同棲始めてけっこう経つよな』
『同棲してもうすぐ2年だな。まぁ先のことも考えてはいる』

渡辺は2年前から交際を始めた恋人の小野田泉と同棲中。隼人、渡辺、麻衣子の幼なじみ三人の人生はそれぞれの場所で動いている。

 新婦の友人代表スピーチでなぎさがマイクの前に立った。緊張の面持ちで始まったなぎさのスピーチは次第に涙声に変わり、彼女は麻衣子との思い出を語る。

 高校時代の麻衣子となぎさの思い出には言葉としては語られなくとも“彼女”の存在があることを、隼人と美月は感じ取っていた。

犯罪組織カオスのクイーン、寺沢莉央。7年前にこの世を去った莉央は、麻衣子となぎさの友人だ。
莉央の存在が見え隠れするスピーチで隼人はまた瞳を潤ませた。

(莉央も空の上から麻衣子の花嫁姿を見ているんだろうな)

 天国なんてものを信じてなかった。死んだ人間は目の前から消えて見えなくなる。それで終わりだと思っていた。

だけどそうじゃない。

寺沢莉央は今も麻衣子となぎさ、隼人と美月の心の中で生き続けていた。
忘れない限り、その人は心の中で生き続けている。永遠に。
< 265 / 272 >

この作品をシェア

pagetop