早河シリーズ短編集【masquerade】
2月7日(Sun)
昼食の最中に加納が小さなあくびをした。有紗はドリアを食べる手を止めてスプーンを置く。
「眠そうですね。寝ていないんですか?」
『あー……悪い。大学の課題や他にも遅くまで調べものしてて。進級前だから色々面倒な課題があってさ。有紗の話がつまらないとかじゃない。ちゃんと話は聞いてるから』
「わかってますよー。でも大学の勉強って大変なんですね」
加納は眠気覚ましに目薬を差している。彼は私立大の3年生、バイオテクノロジーや生物工学を学んでいるらしい。
有紗にはさっぱりな分野だが、大学の偏差値を考えても頭が良いことは間違いない。
加納のフルネームは加納伊織。“いおり”と言う名前が女みたいで本人は気に入ってはいないと言ったが、有紗は響きが綺麗な名前だと思った。
「カフェのバイトもあるし無理しないで寝れる時に寝てくださいよ」
『有紗と会うのは無理してない。お前に会うためなら学校もバイトも頑張れる』
「真顔で恥ずかしいこと言わないでっ」
加納は時折、こちらがくすぐったくなる甘い言葉を吐く。彼は平気な顔で有紗が照れる発言をするのだ。本人は無自覚だから質が悪い。
『これからどうする? 有紗が行きたいって言ってた渋谷の店行く?』
渋谷にオープンしたばかりの商業施設にも確かに行きたい。しかしオープンしたてで混雑が予想できる場所に、こんなに眠そうな顔の加納を連れていくのは申し訳ない。
他に、移動しなくていい加納が休める場所を考えていた彼女は閃《ひらめ》いた。
「あそこはオープンしたばかりで混んでいると思いますし、行くのはまた今度でいいです。あの、加納さんって独り暮らしでしたよね」
『ああ……』
加納の地元は群馬県、上京して都内の大学に通う彼は、大学近くのマンションで独り暮らしをしている。
「これから加納さんの家に行っちゃダメですか?」
『いいけど……俺の家に来たいのか?』
「え、えっと……男の人の部屋ってどんな風なのか気になって。嫌なら嫌でいいんですけど……」
有紗としては勉強とバイトで多忙を極める加納を少しでも休ませてあげたかった。多忙の中で有紗との時間を割いてくれる彼の優しさが嬉しかった。
この前の電話で話した渋谷にオープンした店の話も加納は覚えてくれていた。
(なんで私が加納さんの体調のこと心配してるんだろ。でも無理して欲しくない)
昼食の最中に加納が小さなあくびをした。有紗はドリアを食べる手を止めてスプーンを置く。
「眠そうですね。寝ていないんですか?」
『あー……悪い。大学の課題や他にも遅くまで調べものしてて。進級前だから色々面倒な課題があってさ。有紗の話がつまらないとかじゃない。ちゃんと話は聞いてるから』
「わかってますよー。でも大学の勉強って大変なんですね」
加納は眠気覚ましに目薬を差している。彼は私立大の3年生、バイオテクノロジーや生物工学を学んでいるらしい。
有紗にはさっぱりな分野だが、大学の偏差値を考えても頭が良いことは間違いない。
加納のフルネームは加納伊織。“いおり”と言う名前が女みたいで本人は気に入ってはいないと言ったが、有紗は響きが綺麗な名前だと思った。
「カフェのバイトもあるし無理しないで寝れる時に寝てくださいよ」
『有紗と会うのは無理してない。お前に会うためなら学校もバイトも頑張れる』
「真顔で恥ずかしいこと言わないでっ」
加納は時折、こちらがくすぐったくなる甘い言葉を吐く。彼は平気な顔で有紗が照れる発言をするのだ。本人は無自覚だから質が悪い。
『これからどうする? 有紗が行きたいって言ってた渋谷の店行く?』
渋谷にオープンしたばかりの商業施設にも確かに行きたい。しかしオープンしたてで混雑が予想できる場所に、こんなに眠そうな顔の加納を連れていくのは申し訳ない。
他に、移動しなくていい加納が休める場所を考えていた彼女は閃《ひらめ》いた。
「あそこはオープンしたばかりで混んでいると思いますし、行くのはまた今度でいいです。あの、加納さんって独り暮らしでしたよね」
『ああ……』
加納の地元は群馬県、上京して都内の大学に通う彼は、大学近くのマンションで独り暮らしをしている。
「これから加納さんの家に行っちゃダメですか?」
『いいけど……俺の家に来たいのか?』
「え、えっと……男の人の部屋ってどんな風なのか気になって。嫌なら嫌でいいんですけど……」
有紗としては勉強とバイトで多忙を極める加納を少しでも休ませてあげたかった。多忙の中で有紗との時間を割いてくれる彼の優しさが嬉しかった。
この前の電話で話した渋谷にオープンした店の話も加納は覚えてくれていた。
(なんで私が加納さんの体調のこと心配してるんだろ。でも無理して欲しくない)