早河シリーズ短編集【masquerade】
「そっか! UN-SWAYEDと一ノ瀬さんは同じ所属事務所でしたね」
『うん。でもアイツらが事務所入る前から俺はアイツらのこと知ってたんだ。ボーカルのKAITOとギターのYUUMAとは幼なじみ。なぎさちゃんが雑誌で対談したUN-SWAYEDのプロデューサーで元emperorギタリストの葉山行成さんにギターは教わったんだ。YUUMAと一緒にね』

 日本音楽史上伝説のロックバンドとして語り継がれるemperor《エンペラー》の元ギタリストと、現在ミリオンヒットを飛ばしている人気ロックバンドのギタリスト……蓮の華麗なる交遊関係に圧倒される。

 なぎさは葉山行成とは取材で面識があるが、ロックバンドのギタリストをしていたのが不思議なほど物腰の穏やかな紳士だった。

『いやー、でも蓮さんが歌手デビューしていたら今頃は歌手の一ノ瀬蓮とUN-SWAYEDが君臨して音楽業界てんやわんやでそれはそれで楽しいかも』

矢野の言葉に蓮も玲夏も微笑した。蓮はギターを抱え直す。

『確かにね。やっぱり歌は好きだな。だけどアイツらと俺は戦う土俵が違うからいいんだ』
「蓮は彼らの夢を邪魔したくないのよね」

 蓮は照れ隠しの舌打ちをした。玲夏には蓮が歌手の道を選ばなかったことや俳優の一本道を突き進む理由がわかっているのだ。

『まぁ……な。今週末の武道館ライブにも玲夏と一緒に顔出しするから。なぎさちゃんもライブ行くんだろ?』
「はい。ファンクラブ先行で外れちゃったんですけど、吉岡社長からチケットが送られてきて、しかもアリーナ席のチケットが四枚あってびっくりしました」
『葉山さんとの対談の縁もあったし、元々なぎさちゃんはライブに招待する気だったみたいだよ』

 25日のライブに早河は仕事で行けないが、代わりに早河の仕事をサポートするメンバーのひとりである稲本香澄と高木涼馬が同行することになった。あとひとりは友人の加藤麻衣子だ。

先月に負傷を負った香澄は今は退院して自宅療養中。ファンクラブの二次先行でもチケットを逃していた香澄はライブに誘われると狂喜乱舞して泣いていた。

『じゃ、続きまだまだ行くよー』

 蓮のカウントダウンでまた次の曲のイントロがギターから奏でられる。次の曲は伝説のロックバンドemperorのクリスマスソングだ。

大切な友人達と過ごす心温まる12月の夜だった。
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