早河シリーズ完結編【魔術師】
プロローグ ~願い~
「わたしのおとうさん」


1ねん2くみ はやかわ まな

 わたしのおとうさんは、たんていです。おとうさんはわるい人をつかまえるおしごとをしています。
 いつもいえにいません。土よう日も、日よう日もおしごとをしています。

 おとうさんとは、ぜんぜんあそべません。でもおとうさんがいえにいるときは、しゅくだいをおしえてくれたりいっしょにテレビを見ています。

 おとうさんのおたんじょう日にお手がみとかたたたきけんをつくってあげました。おとうさんはよろこんでいました。

 おとうさんはみんなをまもるせいぎのヒーローなんだよとおかあさんがいっていました。
 おしごとであそんでもらえないけど、わたしは、おとうさんにおしごとをがんばってほしいです。

        *

 2017年、師走。寒い夜だった。なぎさが寝室を覗くと、娘の真愛《まな》は温かい布団にくるまって寝息を立てている。

熱々のホットコーヒーを注いだカップを持って彼女はリビングに戻る。ソファーに座る夫の早河仁は、真愛が書いた作文を眺めていた。

「恥ずかしいからパパには見せないでって真愛に言われたんだけどね」
『ああ。見なかったことにしておく』

作文用紙には赤のペンで花丸が書いてあった。担任教師からの最高評価の印だ。
早河は丁寧に作文用紙を折り畳んでテーブルに置いた。

「目、赤いよ」
『さすがにな……これはかなり効いた』

 潤む目元をティッシュで押さえて早河はコーヒーをすする。なぎさは涙ぐむ彼の隣に寄り添った。

「パパはお仕事ばっかりって、口では文句言ってても本当はあなたの仕事を応援しているのよ」
『“わるい人をつかまえるおしごと”……か』
「真愛にとってパパは世界一カッコいい正義のヒーローなのね」
『それは荷が重いなぁ……』

早河は苦笑いして、なぎさがネックレスチェーンを通して首から下げているゴールドの指輪に触れた。

『北海道は今頃は雪まみれか』
「ね。北海道に比べたら東京は全然寒くないよって莉央が言ってた。東京もたまに雪が降るけど、莉央は平気な顔して雪道を歩いていくの」

 ゴールドの指輪は親友の寺沢莉央の形見。もうすぐ莉央の命日の12月11日だ。

 リビングに飾られたクリスマスツリーのライトが点滅する。ライトは赤、青、黄色、緑、ピンクと次々に色を変えた。

棚の上のスノードームの中ではサンタクロースとスノーマンがキラキラした小さな雪の国に佇み、キスをする早河となぎさを見守る。

 今年もクリスマスがやって来る。
サンタさん。もしもあなたがプレゼントを運んできてくれるのなら、あなたにお願い事がひとつだけあります。

会いたい人がいます。

クリスマスも七夕も毎年、願いをかけている。
会いたくても会えない。
どんなに願っても夢の中でしか、あの人には会えない。

 だからもし願いが叶うなら
もう一度、あの人に会いたい。



プロローグ END
→第一章 小夜曲 に続く
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