早河シリーズ完結編【魔術師】
ようやく香奈達から解放されて家に帰る途中、絢はスマホを取り出して自分のインスタグラムアカウントに接続した。
インスタグラムのタイムラインの一番上には〈@ka_naaan706〉のアカウントの投稿。香奈のアカウントだ。
香奈が投稿した写真は絢が撮影した夕焼けの線路での三人組の写真。写っているのは三人のみで、撮影者の絢の存在はそこにない。最初からいない扱いをされる。
投稿して1時間も経っていないのに、香奈の投稿にはすでに60件を越える〈いいね〉がついている。
絢は無心で香奈の投稿に〈いいね〉印のハートボタンを押した。本当にいいねと思っているのではない。
いいねを“しなければいけない”から、事務的に〈いいね〉を押しているだけだ。
歩美と瑞樹の投稿にもそれぞれ〈いいね〉を押した後、絢は画面をインスタグラムからツイッターに切り替えた。
ツイッターは140字以内の短文で言葉を綴るSNSアプリ。写真ではなく言葉を共有するツールだ。
2016年7月のツイッターの全世界ユーザー数は3億1,300万人。絢もインスタグラムの他にツイッターも利用している。
〈あや@自殺垢〉これが絢のツイッターのアカウントだ。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
いいねの数欲しいだけの投稿うざい
もう嫌。死にたい
あいつら電車に轢き殺されて死ねばいいのに
________
絢は今の気持ちをツイッターの文面に吐き出して、スマホをコートのポケットにしまった。
香奈達から嫌がらせを受け始めたのは秋頃。仲良くしていたつもりだった。
香奈も歩美も瑞樹も、高校に入学して初めてできた友達だった。教室移動も体育のグループも、昼休みも放課後も一緒にいた。
夏休みまでは今の瞬間を切り取る写真に絢も写っていた。それなのに今の絢の立場は“瞬間を切り取るための撮影者”。
夏休みのある日、絢は香奈達と原宿のパンケーキ店に入った。ティーン雑誌の人気モデルが広告塔を務めるその店のパンケーキは、“見た目も味も可愛いパンケーキ”がキャッチフレーズだった。
客層は絢達と同じ年頃の若い女の子が多く、皆がこぞって“可愛いパンケーキ”を写真に収めていた。
その夜、香奈がインスタグラムに載せたパンケーキの写真に絢は〈いいね〉を押さなかった。香奈はパンケーキの写真を撮るだけ撮って満足した後、太るからと理由付けしてパンケーキを一口も食べなかったのだ。
一緒にいた歩美や瑞樹もパンケーキの写真を撮ってから少し食べただけでパンケーキを残した。
SNSに載せてるためだけに購入された食べ残しのパンケーキは店に放置。これを見た店員がどう思うか、絢は店員の気持ちを考えると、香奈の投稿に〈いいね〉を押す気にはなれなかった。
絢が投稿にいいねを押さなかったことが原因で香奈は絢を無視するようになった。夏休みが明けて新学期が始まると、リーダー格の香奈に従う歩美と瑞樹も香奈を無視し始めた。
たかがSNSの投稿に〈いいね〉を押さなかっただけで、絢は香奈達の友達の輪から排除された。薄っぺらい友情だ。
絢はいいねと思わなかったから押さなかった。もしもSNSに〈よくないね〉ボタンがあれば迷わずそちらを押していた。
SNSは食べ物を粗末にしてまでやらなくてはいけないことではないからだ。
しかし香奈にとって〈いいね〉が貰えることは、食べ物よりも大事なものらしい。
インスタグラムのタイムラインの一番上には〈@ka_naaan706〉のアカウントの投稿。香奈のアカウントだ。
香奈が投稿した写真は絢が撮影した夕焼けの線路での三人組の写真。写っているのは三人のみで、撮影者の絢の存在はそこにない。最初からいない扱いをされる。
投稿して1時間も経っていないのに、香奈の投稿にはすでに60件を越える〈いいね〉がついている。
絢は無心で香奈の投稿に〈いいね〉印のハートボタンを押した。本当にいいねと思っているのではない。
いいねを“しなければいけない”から、事務的に〈いいね〉を押しているだけだ。
歩美と瑞樹の投稿にもそれぞれ〈いいね〉を押した後、絢は画面をインスタグラムからツイッターに切り替えた。
ツイッターは140字以内の短文で言葉を綴るSNSアプリ。写真ではなく言葉を共有するツールだ。
2016年7月のツイッターの全世界ユーザー数は3億1,300万人。絢もインスタグラムの他にツイッターも利用している。
〈あや@自殺垢〉これが絢のツイッターのアカウントだ。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
いいねの数欲しいだけの投稿うざい
もう嫌。死にたい
あいつら電車に轢き殺されて死ねばいいのに
________
絢は今の気持ちをツイッターの文面に吐き出して、スマホをコートのポケットにしまった。
香奈達から嫌がらせを受け始めたのは秋頃。仲良くしていたつもりだった。
香奈も歩美も瑞樹も、高校に入学して初めてできた友達だった。教室移動も体育のグループも、昼休みも放課後も一緒にいた。
夏休みまでは今の瞬間を切り取る写真に絢も写っていた。それなのに今の絢の立場は“瞬間を切り取るための撮影者”。
夏休みのある日、絢は香奈達と原宿のパンケーキ店に入った。ティーン雑誌の人気モデルが広告塔を務めるその店のパンケーキは、“見た目も味も可愛いパンケーキ”がキャッチフレーズだった。
客層は絢達と同じ年頃の若い女の子が多く、皆がこぞって“可愛いパンケーキ”を写真に収めていた。
その夜、香奈がインスタグラムに載せたパンケーキの写真に絢は〈いいね〉を押さなかった。香奈はパンケーキの写真を撮るだけ撮って満足した後、太るからと理由付けしてパンケーキを一口も食べなかったのだ。
一緒にいた歩美や瑞樹もパンケーキの写真を撮ってから少し食べただけでパンケーキを残した。
SNSに載せてるためだけに購入された食べ残しのパンケーキは店に放置。これを見た店員がどう思うか、絢は店員の気持ちを考えると、香奈の投稿に〈いいね〉を押す気にはなれなかった。
絢が投稿にいいねを押さなかったことが原因で香奈は絢を無視するようになった。夏休みが明けて新学期が始まると、リーダー格の香奈に従う歩美と瑞樹も香奈を無視し始めた。
たかがSNSの投稿に〈いいね〉を押さなかっただけで、絢は香奈達の友達の輪から排除された。薄っぺらい友情だ。
絢はいいねと思わなかったから押さなかった。もしもSNSに〈よくないね〉ボタンがあれば迷わずそちらを押していた。
SNSは食べ物を粗末にしてまでやらなくてはいけないことではないからだ。
しかし香奈にとって〈いいね〉が貰えることは、食べ物よりも大事なものらしい。