国一冷徹の皇子と結婚した不運令嬢は、神木とともに魔術を極めて皇子を援護する

超絶不運絶好調

 一人になり、深呼吸してから封を開ける。中には、いつもよりやや乱れた筆跡の文章が並んでいた。慌てて書いたのだろう、父の姿が目に浮かぶ。手紙にはこう書かれていた。

『愛しいメアリ

 娘が大変な時に、傍にいてやれなくてすまない。今回のことは恐れていた超絶不運によるものだろう。しかし、ロイン様は第一皇子という立場がある。滅多なことはされないだろう。冷たいことや怖いことを言われるかもしれないが、私たちも全力で手助けをする。スオン家の方も協力してくださるはずだ。
 辛いだろうが、平和な解決を目指していこう。

父、母より』

「お父様、お母様……」

 自分が強く言えず巻き込まれた災難なのに、父や母を困らせてしまい申し訳なくなる。丁寧に手紙を畳み、そっと引き出しに仕舞った。

 約束は今日だけの話だったが、明日からどうすればいいだろう。貴族たちが集まる場で大々的に発表されてしまったので、しばらく帰ることは難しい。ローリアス家はこことは地域も違うし辺境にあるから、そこまでは話が広まっていないことを祈るばかりだ。

「そうよね。ロイン様は冷たいと言っても王族の方。妻になる人間に暴力を振るうとか、そういうのは……ない、はず……」

 言っていて自信がなくなってきた。メアリは彼のことを何一つ知らない。両手を顔に当てて、部屋の中をぐるぐる回る。

「どうしましょう。彼のこと、本当に何も知らない。名前だって最近知ったんだもの。こんな婚約者じゃロイン様も恥ずかしく思われてしまう」

 いや、逆に考えて、役に立たない婚約者だと分かれば、ロインの方から婚約破棄してくるかもしれない。それなら好都合だ。

「そうね、それで行きましょ!」

 もうメアリにはこれしか残されていなかった。






「結婚式の日取りが決まった」
「へ?」

 翌日、たった半日で婚約破棄の目論見が崩れてしまった。王族相手に間抜けな声が出てしまうのも致し方がないところだ。

 昨夜そのまま王都に戻るには遅い時間だったため、皇子たちはスオン家に泊まった。移動魔法を使える魔術師も同行していると思っていたのだが、そうではなかったらしい。
そして朝が来たと思ったら、ロインがメアリの部屋を訪ねてきた。朝の挨拶をしようと思ったら、聞こえてきたのがこの第一声。

「あの、その、お早う御座います」
「おはよう」

 なんと返事をしたらいいものか分からなくて挨拶をしてしまった。普通に返される。なんだこれは。どうしたらいいのだ。

「お」
「お?」
「お、お姉様──ッ!!!」
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