国一冷徹の皇子と結婚した不運令嬢は、神木とともに魔術を極めて皇子を援護する
婚姻の同意
これにはリリィも両手を挙げるしかなく、ロインと引き合わせた責任を取りたいと言い出した。ジュークの前でこれ以上のことは言えない。メアリは適当に誤魔化し、朝の支度をすると言って部屋に戻った。
待っていると、すぐにメイドが入ってくる。空気を読んでメアリ一人になるのを待っていてくれていたのかもしれない。
「メアリ様、昨日以上に可愛らしく仕上げますね」
「いえ、質素で! シンプルにお願いします!」
ロインとの婚約を知っているメイドが気合の入ったドレスを出してきたので、全力で遠慮した。不満そうな彼女に落ち着いたドレスを用意してもらい、髪の毛も整えた。そういえば、寝起きのままロインに対応してしまった。気にした様子はなかったので、人の恰好などどうでもいいのだろう。
「お支度整いました」
「有難う御座います」
満足気に頷くメイドだが、彼女も何故メアリが妹として存在しているのか知っているのだろうか。複雑な状況にも嫌な顔せず対応してくれて、一人こちらにいる身として有難く思う。
「メアリ様、お気持ちを強く持ってください。きっと良いことありますから」
「はい……」
スオン家のメイドということでリリィの婚約事情も知っているらしく、メアリの婚約について励まされてしまった。こうまで慰められていると、もうどうにでもなれと覚悟が出来た気がする。
「ほら、ロイン様お顔が素敵だし」
「そうですね」
王族相手に褒める最初が外見ということは、つまりそういうことなのだろう。内面で良いところが一つでもあればいいのに。
──いえ、お会いしたばかりなのに、噂ばかり信じるのはロイン様に失礼だわ。私が彼の良いところを自分で見つけよう。
まだ出会って一日、会話も二三言だけ。そこでメアリははたと気が付いた。
『いいな』
昨日の顔合わせで、ロインはメアリにそう言っていた。もしかしてあの言葉は、「今夜二人の婚約発表を行う。いいな」の略だったのではないか。今思えば、そうとしか考えられない。大事な部分を全て省かれた。詐欺である。しかし、あの時メアリは同意してしまった。あれで口約束ではあるが、契約が結ばれたのだ。
「なんということ……私、賛成してしまっていたわ……」
一人になった室内で絶望に襲われる。これでもう、覆されることはなくなった。あとはどれだけ平穏にロインの元で過ごすことが出来るか、それだけだ。
朝食後、皇子たちの見送りのため、メアリたちは屋敷の外にいた。帰りは馬車ごと転移魔法で帰るらしい。行きも魔法で来たらよかったのに。
「じゃあ、また来るよ。リリィ元気で、メアリちゃんも」
「はい」
「お待ちしています」
「また来る」
「はい。ロイン様もいつでも」
また来ると言いながら、ロインはメアリを睨んでいた。未だ好かれているのか嫌われているのかさっぱり分からない。きっと、ここのいる全員分からないだろう。
二人と従者が転移を終えた瞬間、わっとメアリの周りにスオン家他一同が集まった。
「ごめんなさい。私たちの認識が甘かったですわ」
「申し訳ない」
リリィの両親も真摯に謝罪してくれている。ここにいる人たちは皆優しく、メアリのことを第一に考えてくれた。メアリが首を振る。
「謝らないでください。引き受けたのは私、それに決定したのはロイン様。スオン家の方々が悪いとは思いません」
「メアリ!!」
リリィがメアリを抱きしめる。メアリも同じように返す。
「メアリのご両親のことは安心してください。結婚までは自由に帰っていいですし、結婚してもスオン家の親戚ということにして、いつでも会えるよう手配しますね」
「有難う御座います」
「もっと上手く行く方法があればまた提案しますわ」
リリィの母がローリアス家に資金援助をするとまで言い出したので、元々婚活中だったからメアリがいなくなることで不具合が起きることはないと説明しておいた。
「あら、婚活中でしたの? メアリなら許嫁の一人や二人いそうなものなのに」
「一人で十分です。いえ、私が我儘で年齢差が五歳以内でないと嫌だと言ってしまって、まだ決まっていなかったのです」
「そうなのね。ロイン様は二十一歳だから、ちょうどよかったわ」
メアリは十六歳。ちょうど五歳差、ぎりぎりオーケーの範囲だった。そこだけでも希望が通ったということでよしとしよう。といっても、世間話をする間柄になれるか全く分からないが。
「あ!」
「どうしたの!?」
急に大声を出したものだから、リリィを心配させてしまった。メアリが謝る。
「すみません。日取りが決まったとおっしゃっていたのに、結局具体的な日を聞きそびれたことを思い出しまして」
「そうでしたわ!」
衝撃的なことが多すぎて、大事なことを教えてもらわずに帰してしまった。
「いつかしら。お父様お母様、スオン家も準備が必要でしてよ」
「そうだな」
現在、メアリはスオン家ということになっている。花嫁側でも結婚に必要な準備がある。
「ローリアス家もスオン家の親戚として式に出席して頂きましょう。出席に必要な費用くらいは出させてくださいね」
「お気遣い有難う御座います」
支援を全て断っても、スオン家として納得出来ないだろう。式に関わる費用については出してもらうことにした。これでローリアス家の負担も無い。安心して臨むことが出来る。
待っていると、すぐにメイドが入ってくる。空気を読んでメアリ一人になるのを待っていてくれていたのかもしれない。
「メアリ様、昨日以上に可愛らしく仕上げますね」
「いえ、質素で! シンプルにお願いします!」
ロインとの婚約を知っているメイドが気合の入ったドレスを出してきたので、全力で遠慮した。不満そうな彼女に落ち着いたドレスを用意してもらい、髪の毛も整えた。そういえば、寝起きのままロインに対応してしまった。気にした様子はなかったので、人の恰好などどうでもいいのだろう。
「お支度整いました」
「有難う御座います」
満足気に頷くメイドだが、彼女も何故メアリが妹として存在しているのか知っているのだろうか。複雑な状況にも嫌な顔せず対応してくれて、一人こちらにいる身として有難く思う。
「メアリ様、お気持ちを強く持ってください。きっと良いことありますから」
「はい……」
スオン家のメイドということでリリィの婚約事情も知っているらしく、メアリの婚約について励まされてしまった。こうまで慰められていると、もうどうにでもなれと覚悟が出来た気がする。
「ほら、ロイン様お顔が素敵だし」
「そうですね」
王族相手に褒める最初が外見ということは、つまりそういうことなのだろう。内面で良いところが一つでもあればいいのに。
──いえ、お会いしたばかりなのに、噂ばかり信じるのはロイン様に失礼だわ。私が彼の良いところを自分で見つけよう。
まだ出会って一日、会話も二三言だけ。そこでメアリははたと気が付いた。
『いいな』
昨日の顔合わせで、ロインはメアリにそう言っていた。もしかしてあの言葉は、「今夜二人の婚約発表を行う。いいな」の略だったのではないか。今思えば、そうとしか考えられない。大事な部分を全て省かれた。詐欺である。しかし、あの時メアリは同意してしまった。あれで口約束ではあるが、契約が結ばれたのだ。
「なんということ……私、賛成してしまっていたわ……」
一人になった室内で絶望に襲われる。これでもう、覆されることはなくなった。あとはどれだけ平穏にロインの元で過ごすことが出来るか、それだけだ。
朝食後、皇子たちの見送りのため、メアリたちは屋敷の外にいた。帰りは馬車ごと転移魔法で帰るらしい。行きも魔法で来たらよかったのに。
「じゃあ、また来るよ。リリィ元気で、メアリちゃんも」
「はい」
「お待ちしています」
「また来る」
「はい。ロイン様もいつでも」
また来ると言いながら、ロインはメアリを睨んでいた。未だ好かれているのか嫌われているのかさっぱり分からない。きっと、ここのいる全員分からないだろう。
二人と従者が転移を終えた瞬間、わっとメアリの周りにスオン家他一同が集まった。
「ごめんなさい。私たちの認識が甘かったですわ」
「申し訳ない」
リリィの両親も真摯に謝罪してくれている。ここにいる人たちは皆優しく、メアリのことを第一に考えてくれた。メアリが首を振る。
「謝らないでください。引き受けたのは私、それに決定したのはロイン様。スオン家の方々が悪いとは思いません」
「メアリ!!」
リリィがメアリを抱きしめる。メアリも同じように返す。
「メアリのご両親のことは安心してください。結婚までは自由に帰っていいですし、結婚してもスオン家の親戚ということにして、いつでも会えるよう手配しますね」
「有難う御座います」
「もっと上手く行く方法があればまた提案しますわ」
リリィの母がローリアス家に資金援助をするとまで言い出したので、元々婚活中だったからメアリがいなくなることで不具合が起きることはないと説明しておいた。
「あら、婚活中でしたの? メアリなら許嫁の一人や二人いそうなものなのに」
「一人で十分です。いえ、私が我儘で年齢差が五歳以内でないと嫌だと言ってしまって、まだ決まっていなかったのです」
「そうなのね。ロイン様は二十一歳だから、ちょうどよかったわ」
メアリは十六歳。ちょうど五歳差、ぎりぎりオーケーの範囲だった。そこだけでも希望が通ったということでよしとしよう。といっても、世間話をする間柄になれるか全く分からないが。
「あ!」
「どうしたの!?」
急に大声を出したものだから、リリィを心配させてしまった。メアリが謝る。
「すみません。日取りが決まったとおっしゃっていたのに、結局具体的な日を聞きそびれたことを思い出しまして」
「そうでしたわ!」
衝撃的なことが多すぎて、大事なことを教えてもらわずに帰してしまった。
「いつかしら。お父様お母様、スオン家も準備が必要でしてよ」
「そうだな」
現在、メアリはスオン家ということになっている。花嫁側でも結婚に必要な準備がある。
「ローリアス家もスオン家の親戚として式に出席して頂きましょう。出席に必要な費用くらいは出させてくださいね」
「お気遣い有難う御座います」
支援を全て断っても、スオン家として納得出来ないだろう。式に関わる費用については出してもらうことにした。これでローリアス家の負担も無い。安心して臨むことが出来る。