国一冷徹の皇子と結婚した不運令嬢は、神木とともに魔術を極めて皇子を援護する
王宮到着
『嵐』
「嵐?」
『嵐が来るよ』
花の言う通り、その日は大雨が降った。メアリがスオン家に知らせていたため、外出を取り止めたリリィの両親にとても感謝された。
「素敵な魔法ね」
「魔法という程では。魔力で感知しているだけなので、まだまだです」
「でも、他のことにも生かせそうだわ」
この力を何かに生かすなんて考えたことがなかった。生まれ持っただけの小さなもので、魔術学校にも通っていないため知識も無い。しかし、これからでも遅くないかもしれない。自分が何かの役に立てるなら、どんなに良いことか。
「あと二週間ね。気持ちの整理はついた?」
「はい。大丈夫です。どこに行ったって、自分を忘れず頑張ります」
「ふふ、素敵」
残り二週間みっちり勉強を続け、結婚式まであと一日となった。
今日、メアリは一足早く王宮入りをする。明日の準備を控えているためだ。ちなみに、この一か月ロインが訪ねてくることはなかた。この調子で夫婦となれるのか不安だ。しかし、なるようになるしかない。
「メアリ様、お待たせ致しました。ノウと申します。それでは参りましょう」
以前、婚約お披露目の際、皇子たちに付いてきた魔術師が転移魔法でやってきた。第一皇子の婚約者を一人で迎えに来るということは、彼らに近しい、信頼のおける従者なのだろう。
「宜しくお願い致します」
ノウの横に立つ。リリィがこちらに手を振った。他にも、リリィの両親、メアリの両親、スオン家の従者、沢山の人が見送りに来てくれた。
「いってらっしゃい。明日を楽しみにしているわ」
「お姉様、いってきます」
挨拶を終えたのを確認したノウがが、空中に陣を描く。瞬く間に二人の姿は消えた。
──うわッッ。
移動空間に驚いていたら、すでにそこは王宮内部だった。外にいたのに今は室内。転移魔法で移動するのは初めてで、思わずきょろきょろしてしまう。
「緊張されていますか?」
ノウに緊張と捉えられてしまった。魔法が珍しくてきょろきょろしたなんて言えず、曖昧な返事をした。
「メアリ様ならきっとあの方の支えになることが出来ます。ご安心ください」
「お気遣い有難う御座います」
冷徹皇子の支えになれるかは分からないが、ノウが優しそうでほっとした。ノウは細身の長身で、皇子二人よりさらに大きい。威圧感が無いのは穏やかな表情だからだろう。
「お部屋にご案内します」
ノウがメアリの歩幅に合わせてゆっくり歩いてくれたので、メアリは存分に王宮内部を観察しながら部屋まで行くことが出来た。途中でメイドとすれ違い、お辞儀をされる。一緒になって頭を下げてしまったが、後で自分は妃になるのだったと思い出した。
「こちらで御座います」
これまた豪奢な扉が開けられる。もしかしなくとも、ここがメアリの部屋らしい。ローリアス家の自分の部屋の三倍はありそうだ。ここで一人なんて落ち着かなくて寝られないかもしれない。
「お気に召しませんか? それでしたら、装飾をメアリ様のお好みに合わせて変更させて頂きますが」
「いいえ! 素晴らしくて驚いていたのです」
「それはよかった」
放心していたのを不満に思っていると勘違いされてしまい、思い切り首を振って否定する。こんなに歓迎してもらっておきながら文句を言うなど、メアリにはあり得ないことだ。
恐る恐る中に入る。靴の裏に付いている汚れで床を汚してしまうのではないかと心配になる。ノウに言われ近くの椅子に座ると、ノックが聞こえた。
「どうぞ」
扉が開き、メイドが一人入ってくる。
「失礼致します。本日より、メアリ様付きとしてお世話になります。ロアと申します」
深々お辞儀をされる。メアリは立ち上がってロアを出迎えた。
「メアリです。宜しくお願いします」
「それでは、私は失礼します」
ロアと入れ違いにノウが去っていく。
チィッ!
──え?
ノウとロアがすれ違う瞬間、そんな音が聞こえてきた。舌打ちのような、何かが破裂したような。ノウはすでに扉を開けているところで、結局何だったのか分からずじまいだった。
──気のせいかな?
ロアの方もにこにこした笑顔で立っている。つられて笑ったら、ロアの顔が崩れた。
「うぷッ……あの!」
「ど、どうしました!?」
具合でも悪いのだろうか。ロアに駆け寄ると、思い切り否定された。
「申し訳ありません。何でもないのです。ないのです、が、真面目な顔を維持するのが苦手でして~……!」
「あら、そうでしたの」
先ほどとは違いへらへら笑うロアにメアリは安心した。
「よかったです。体調が悪いのかと思いました」
「いえいえ! 本当に平気です! 実は、一生懸命昇級試験を受けてメアリ様付きに合格したので、いろいろ付け焼刃な部分が……申し訳ありません……クビ、ですか?」
「とんでもない。これから末永く宜しくお願いします」
「おわぁああなんというお言葉! 嬉しゅう御座います!」
「嵐?」
『嵐が来るよ』
花の言う通り、その日は大雨が降った。メアリがスオン家に知らせていたため、外出を取り止めたリリィの両親にとても感謝された。
「素敵な魔法ね」
「魔法という程では。魔力で感知しているだけなので、まだまだです」
「でも、他のことにも生かせそうだわ」
この力を何かに生かすなんて考えたことがなかった。生まれ持っただけの小さなもので、魔術学校にも通っていないため知識も無い。しかし、これからでも遅くないかもしれない。自分が何かの役に立てるなら、どんなに良いことか。
「あと二週間ね。気持ちの整理はついた?」
「はい。大丈夫です。どこに行ったって、自分を忘れず頑張ります」
「ふふ、素敵」
残り二週間みっちり勉強を続け、結婚式まであと一日となった。
今日、メアリは一足早く王宮入りをする。明日の準備を控えているためだ。ちなみに、この一か月ロインが訪ねてくることはなかた。この調子で夫婦となれるのか不安だ。しかし、なるようになるしかない。
「メアリ様、お待たせ致しました。ノウと申します。それでは参りましょう」
以前、婚約お披露目の際、皇子たちに付いてきた魔術師が転移魔法でやってきた。第一皇子の婚約者を一人で迎えに来るということは、彼らに近しい、信頼のおける従者なのだろう。
「宜しくお願い致します」
ノウの横に立つ。リリィがこちらに手を振った。他にも、リリィの両親、メアリの両親、スオン家の従者、沢山の人が見送りに来てくれた。
「いってらっしゃい。明日を楽しみにしているわ」
「お姉様、いってきます」
挨拶を終えたのを確認したノウがが、空中に陣を描く。瞬く間に二人の姿は消えた。
──うわッッ。
移動空間に驚いていたら、すでにそこは王宮内部だった。外にいたのに今は室内。転移魔法で移動するのは初めてで、思わずきょろきょろしてしまう。
「緊張されていますか?」
ノウに緊張と捉えられてしまった。魔法が珍しくてきょろきょろしたなんて言えず、曖昧な返事をした。
「メアリ様ならきっとあの方の支えになることが出来ます。ご安心ください」
「お気遣い有難う御座います」
冷徹皇子の支えになれるかは分からないが、ノウが優しそうでほっとした。ノウは細身の長身で、皇子二人よりさらに大きい。威圧感が無いのは穏やかな表情だからだろう。
「お部屋にご案内します」
ノウがメアリの歩幅に合わせてゆっくり歩いてくれたので、メアリは存分に王宮内部を観察しながら部屋まで行くことが出来た。途中でメイドとすれ違い、お辞儀をされる。一緒になって頭を下げてしまったが、後で自分は妃になるのだったと思い出した。
「こちらで御座います」
これまた豪奢な扉が開けられる。もしかしなくとも、ここがメアリの部屋らしい。ローリアス家の自分の部屋の三倍はありそうだ。ここで一人なんて落ち着かなくて寝られないかもしれない。
「お気に召しませんか? それでしたら、装飾をメアリ様のお好みに合わせて変更させて頂きますが」
「いいえ! 素晴らしくて驚いていたのです」
「それはよかった」
放心していたのを不満に思っていると勘違いされてしまい、思い切り首を振って否定する。こんなに歓迎してもらっておきながら文句を言うなど、メアリにはあり得ないことだ。
恐る恐る中に入る。靴の裏に付いている汚れで床を汚してしまうのではないかと心配になる。ノウに言われ近くの椅子に座ると、ノックが聞こえた。
「どうぞ」
扉が開き、メイドが一人入ってくる。
「失礼致します。本日より、メアリ様付きとしてお世話になります。ロアと申します」
深々お辞儀をされる。メアリは立ち上がってロアを出迎えた。
「メアリです。宜しくお願いします」
「それでは、私は失礼します」
ロアと入れ違いにノウが去っていく。
チィッ!
──え?
ノウとロアがすれ違う瞬間、そんな音が聞こえてきた。舌打ちのような、何かが破裂したような。ノウはすでに扉を開けているところで、結局何だったのか分からずじまいだった。
──気のせいかな?
ロアの方もにこにこした笑顔で立っている。つられて笑ったら、ロアの顔が崩れた。
「うぷッ……あの!」
「ど、どうしました!?」
具合でも悪いのだろうか。ロアに駆け寄ると、思い切り否定された。
「申し訳ありません。何でもないのです。ないのです、が、真面目な顔を維持するのが苦手でして~……!」
「あら、そうでしたの」
先ほどとは違いへらへら笑うロアにメアリは安心した。
「よかったです。体調が悪いのかと思いました」
「いえいえ! 本当に平気です! 実は、一生懸命昇級試験を受けてメアリ様付きに合格したので、いろいろ付け焼刃な部分が……申し訳ありません……クビ、ですか?」
「とんでもない。これから末永く宜しくお願いします」
「おわぁああなんというお言葉! 嬉しゅう御座います!」