国一冷徹の皇子と結婚した不運令嬢は、神木とともに魔術を極めて皇子を援護する
新米なんです
歓喜余ったロアが大粒の涙を撒き散らした。あまりにうおんうおん泣くものだから、メアリが慌ててハンカチを差し出す。ロアがそれを受け取り、メアリの優しさを感じさらに泣いた。メアリは部屋が洪水で沈むかと思った。
十分程してようやくロアが落ち着くと、仕事を思い出したらしく、メアリをクローゼットに案内した。ロアの瞳は涙で大きく腫れている。
「とんでもなくお待たせしました。お召し物はこちらにご用意しておりますので、お好きな物をおっしゃってください。今着替えられますか?」
「ええと、ではお願いします」
「承知しました」
着替える必要はないと思ったが、これからは皇子の妻として過ごすのだ。それなりの身なりでいることも立派な務め。煌びやかなドレスの中から、なるべく落ち着いた色合いのドレスを選んだ。
「あれ? ん?」
「ロアさん?」
「だ、大丈夫です!」
途中で怖くなる独り言を吐かれて不安になったが、無事ロアによる着替えが終了した。鏡を見せてもらうと、自分が別人になった気分だった。
ここまで着てきたドレスもスオン家に用意してもらったものなので、良い生地で作られていた。しかし、王族ともなると、刺繍の一針一針から違うのか、ドレスが光って見える。
「有難う御座います」
「いえ! そうだ、明日の婚礼用ドレスをお持ちしますね。メアリ様はあちらでお寛ぎください。ってああ、お茶をカップに移していませんでした! 申し訳ありません!」
「慌てないで、平気ですから」
カップに勢いよく注ぎそうなロアに注意を促す。やや注意力に欠けるメイドだが、元貧乏貴族としてはこのくらいの方が親しみやすくていい。緊張せずここにいられることに感謝した。
どうにか零さず淹れ終えたロアが小走りで去っていく。あの調子で廊下も走っていないといいのだが。と思った二秒後に、廊下から怒られる声が聞こえた。扉が閉まっているので何を言っているのかまでは分からないが、十中八九ロアだろう。
メアリより年上なのに、妹みたいで心配になってしまう。きっと彼女も慣れない仕事で焦っているはず。お互いに成長していかれたらいいと思う。
カップに手を付ける。少し冷えているが美味しかった。ついでに、皿に載っているお菓子も口に放る。今朝、朝食があまり喉を通らずお腹が空いていたのだ。
現在、メアリは窮地に陥っている。あの後ロアがドレスを持ってきてくれ、トルソーに着せてあるのだが、何故かドレスと一緒にロインも付いてきてしまったのだ。ロアは真っ青な顔で帰ってしまった。メイドにも嫌われているらしい。冷徹皇子恐るべし。
ということで、メアリの部屋でロインと二人きりという恐ろしい状況を過ごしている。
──どうしましょう。何か話題何か話題……王族で流行っている話題が何か分からない!
その間も、ロインは無言でじっとこちらを睨んでいる。というより、メアリの横にあるドレスを見ている、の方が正しいかもしれない。よし、これだ。
「ロイン様」
「なんだ」
すでに怖い。が、ここで怯んでは結婚なんてとうてい出来ない。
「素敵なドレスをご用意してくださり、有難う御座います。明日はどうぞ宜しくお願い致します」
「私は用意していない」
「ですが、ここにある全ては王族の方々のものですので」
「それならば、お前もか?」
最初、言われている意味が分からず首を傾げたが、メアリも王族のものか問われていることに気が付いた。
「はい。そうです」
「そうか。せいぜい楽しみにしているんだな」
頷いてみせると、ロインはそれだけ言って帰っていった。少し笑っていたかもしれない。笑顔も邪悪な雰囲気が漂っていた。怖い。
「楽しみにしていろって、何か嫌なことが待っているの……! どんなことを思っておっしゃっているのか全然分からない……」
ロインの感情の通訳でもいてくれたらいいのに。しかし、周りの反応を見る限り、言動通りなのかもしれない。そこで、メアリは気が付いた。
「そういえば、ロイン様のお相手はいらっしゃるのかしら。いきなり来た私が結婚して正妃になるなんて許してくださらないだろうけど、なるべく仲良くなるために挨拶しておかないと」
王族ともなれば、正妃以外に側妃の一人や二人いるだろう。カリス国は一夫一妻が基本だが、一夫多妻を禁止しているわけではない。メアリは意を決して部屋を出た。
「ど、どこがどうなっているのか」
出たはいいが、ここまでノウの後を付いてきただけなので、どこに何があるのかさっぱり分からない。このまま彷徨っては確実に迷子になる。迷っていたら、隣の部屋が開いた。ロインだった。
──ロイン様のお部屋、私の隣だったの!?
驚いて固まってしまう。ロインはメアリを怪訝そうに見つめた。
「廊下に出て何をしている」
「ロイン様、お時間が迫っていますので。メアリ様、ロアを呼んで参りますので、少々お待ちください」
十分程してようやくロアが落ち着くと、仕事を思い出したらしく、メアリをクローゼットに案内した。ロアの瞳は涙で大きく腫れている。
「とんでもなくお待たせしました。お召し物はこちらにご用意しておりますので、お好きな物をおっしゃってください。今着替えられますか?」
「ええと、ではお願いします」
「承知しました」
着替える必要はないと思ったが、これからは皇子の妻として過ごすのだ。それなりの身なりでいることも立派な務め。煌びやかなドレスの中から、なるべく落ち着いた色合いのドレスを選んだ。
「あれ? ん?」
「ロアさん?」
「だ、大丈夫です!」
途中で怖くなる独り言を吐かれて不安になったが、無事ロアによる着替えが終了した。鏡を見せてもらうと、自分が別人になった気分だった。
ここまで着てきたドレスもスオン家に用意してもらったものなので、良い生地で作られていた。しかし、王族ともなると、刺繍の一針一針から違うのか、ドレスが光って見える。
「有難う御座います」
「いえ! そうだ、明日の婚礼用ドレスをお持ちしますね。メアリ様はあちらでお寛ぎください。ってああ、お茶をカップに移していませんでした! 申し訳ありません!」
「慌てないで、平気ですから」
カップに勢いよく注ぎそうなロアに注意を促す。やや注意力に欠けるメイドだが、元貧乏貴族としてはこのくらいの方が親しみやすくていい。緊張せずここにいられることに感謝した。
どうにか零さず淹れ終えたロアが小走りで去っていく。あの調子で廊下も走っていないといいのだが。と思った二秒後に、廊下から怒られる声が聞こえた。扉が閉まっているので何を言っているのかまでは分からないが、十中八九ロアだろう。
メアリより年上なのに、妹みたいで心配になってしまう。きっと彼女も慣れない仕事で焦っているはず。お互いに成長していかれたらいいと思う。
カップに手を付ける。少し冷えているが美味しかった。ついでに、皿に載っているお菓子も口に放る。今朝、朝食があまり喉を通らずお腹が空いていたのだ。
現在、メアリは窮地に陥っている。あの後ロアがドレスを持ってきてくれ、トルソーに着せてあるのだが、何故かドレスと一緒にロインも付いてきてしまったのだ。ロアは真っ青な顔で帰ってしまった。メイドにも嫌われているらしい。冷徹皇子恐るべし。
ということで、メアリの部屋でロインと二人きりという恐ろしい状況を過ごしている。
──どうしましょう。何か話題何か話題……王族で流行っている話題が何か分からない!
その間も、ロインは無言でじっとこちらを睨んでいる。というより、メアリの横にあるドレスを見ている、の方が正しいかもしれない。よし、これだ。
「ロイン様」
「なんだ」
すでに怖い。が、ここで怯んでは結婚なんてとうてい出来ない。
「素敵なドレスをご用意してくださり、有難う御座います。明日はどうぞ宜しくお願い致します」
「私は用意していない」
「ですが、ここにある全ては王族の方々のものですので」
「それならば、お前もか?」
最初、言われている意味が分からず首を傾げたが、メアリも王族のものか問われていることに気が付いた。
「はい。そうです」
「そうか。せいぜい楽しみにしているんだな」
頷いてみせると、ロインはそれだけ言って帰っていった。少し笑っていたかもしれない。笑顔も邪悪な雰囲気が漂っていた。怖い。
「楽しみにしていろって、何か嫌なことが待っているの……! どんなことを思っておっしゃっているのか全然分からない……」
ロインの感情の通訳でもいてくれたらいいのに。しかし、周りの反応を見る限り、言動通りなのかもしれない。そこで、メアリは気が付いた。
「そういえば、ロイン様のお相手はいらっしゃるのかしら。いきなり来た私が結婚して正妃になるなんて許してくださらないだろうけど、なるべく仲良くなるために挨拶しておかないと」
王族ともなれば、正妃以外に側妃の一人や二人いるだろう。カリス国は一夫一妻が基本だが、一夫多妻を禁止しているわけではない。メアリは意を決して部屋を出た。
「ど、どこがどうなっているのか」
出たはいいが、ここまでノウの後を付いてきただけなので、どこに何があるのかさっぱり分からない。このまま彷徨っては確実に迷子になる。迷っていたら、隣の部屋が開いた。ロインだった。
──ロイン様のお部屋、私の隣だったの!?
驚いて固まってしまう。ロインはメアリを怪訝そうに見つめた。
「廊下に出て何をしている」
「ロイン様、お時間が迫っていますので。メアリ様、ロアを呼んで参りますので、少々お待ちください」