国一冷徹の皇子と結婚した不運令嬢は、神木とともに魔術を極めて皇子を援護する
結婚宣言
粛々と式が進む。先ほど「愛を誓いますか」という見届け人の言葉に平然と肯定したロインが恐ろしく感じるが、第一皇子としてはやはり一番に結婚しておかなければならないので、このくらいのことは想定内なのだろう。心臓が強すぎる。
いや、一番にしなければならないかは分からない。当初はジュークの方が先だった。とりあえず、体裁を整えるというものだろう。
「私はカルス国第一皇子として、この身が尽きるまで国を守り、メアリを守ると誓います」
ロインの宣言により、結婚宣言の儀は幕を閉じた。メアリは何故だから涙が溢れそうだった。後ろでジュークとリリィが並んで拍手をしている。
──お待ちしています。リリィお姉様。
儀式の間から出ると、今度は第一皇子妃として初めての公務が待っていた。国民へのお披露目だ。二人が結婚したことを国民が王宮の下で待っている。普段は開いていない大門が開き、王都の住民たちがそこに集まっているという。
「わ、私なんかがそこに立っても構わないものでしょうか……」
あまりの大役に、思わず近くにいた皇妃に助けを求めてしまった。今はお披露目の場に通じる部屋に、皇帝、皇妃、そしてロインの四人がいる。この部屋は王族しか入ることが出来ず、今回はロインの結婚のお披露目ということで、ジュークもいない。
「落ち着いて。貴方も今日から王族の一員。堂々とそこに立っていれば、何も問題ありません」
「……有難う御座います」
皇妃に優しい言葉をかけてもらえ、少しだけ勇気が出た。黙っていればいいというのも大きい。
「皆、前へ」
皇帝が見上げる程の窓を開ける。それだけで、歓声が聞こえてきた。自分は歓迎されている。それが分かり、緊張はどこかへ吹き飛んでいった。
「おめでとう御座います!」
「ロイン様!」
「メアリ妃!」
「お幸せに!」
四人が姿を見せると、割れんばかりの拍手。メアリは皇帝たちに合わせて手を振った。これが王都の人々か。田舎暮らしに慣れていたメアリはくらくらした。
上手くやっていかれるのか不安しかないが、やっていくしかない。選択肢はメアリには持たされていないのだ。
たった十分程のお披露目だったが、メアリにとっては丸一日にも感じられた。
お披露目会が終わり、深呼吸をして呼吸を整えるメアリを、皇妃は優しく見守ってくれた。
そして夜、メアリはピンチを迎えていた。夕食後にメアリの家族と別れたはいいが、そういえば今日は結婚初夜だったと初めて理解した。
十六歳のメアリには全く未知の世界だが、やはり夫婦になったのだから、同じベッドで寝たりするのだろうか。家族以外と同じ部屋でなんて考えたこともなかった。
──どうしようどうしよう。
しかし、メアリに拒否する理由も無い。そもそも、ロインも今は家族なのだ。初日から拒否してはどんなことを言われてしまうか分からない。メアリはベッドに入り、大人しくその時を待った。
「来ないわ……」
時計を見ると、二十二時半。まだ早いのかもしれない。ただ、メアリとしてはすでに就寝している時間だ。もう少し待ってみることにした。気付いたら朝だった。
「あ、朝」
しまった。寝てしまっていた。きょろきょろ自室を見回す。部屋に鍵は掛かっているが、ロインはメアリの部屋の鍵を所持していると聞いた。一緒に寝るつもりなら勝手に入って隣で寝ているはずだ。
「じゃあ、来なかったんだ」
よかった。もしロインが真横にいたら、ストレスで睡眠不足に陥ってしまう。
「ロイン様はいらっしゃらなかった?」
『な~い。な~いよ』
念のため、部屋に置いてある観葉植物に聞いてみたら、来てないと言われた。これで大丈夫だ。
コンコン。
ノックの音。扉を開けるとロアが立っていた。彼女を見ているとなんだか和む。
「お早う御座います! よく寝られましたか?」
「はい。お早う御座います」
ロアが着替えを手伝ってくれ、カーテンを開けてくれる。これは本当に運動不足になりそうだ。途中、ロアが何も無いところで躓いた。ロアを見ているとハラハラしてしまう。
「ロイン様はいらっしゃいますか?」
「いらっしゃいますよ。間もなく王都の見回りで騎士団と外へ行かれるそうです」
「そうなんですか」
皇子でも見回りの仕事があるのか。戦争が起きれば前線に出るのだろうか。急に心配になった。
「私、お見送りしたいです」
「承知しました。では、大門へ向かいましょう」
ロアとともに廊下を歩く。メイドたちがすれ違うたびお辞儀をしてくれる。まだ妃としての扱いには慣れない。
大門に着くと、数十人の騎士団とロイン、ジュークがいた。ノウがその横で馬の手入れをしている。
「ロイン様、ジューク様」
「わあ、見送りに来てくれたんですか」
ジュークがいち早く反応し、メアリの傍まで走ってきてくれる。
「何も出来ませんが、何事もないことをお祈りしております」
「有難う御座います。ほら、兄さんも」
「……関係の無い貴方が祈る必要はない」
「あは、照れてる」
いや、一番にしなければならないかは分からない。当初はジュークの方が先だった。とりあえず、体裁を整えるというものだろう。
「私はカルス国第一皇子として、この身が尽きるまで国を守り、メアリを守ると誓います」
ロインの宣言により、結婚宣言の儀は幕を閉じた。メアリは何故だから涙が溢れそうだった。後ろでジュークとリリィが並んで拍手をしている。
──お待ちしています。リリィお姉様。
儀式の間から出ると、今度は第一皇子妃として初めての公務が待っていた。国民へのお披露目だ。二人が結婚したことを国民が王宮の下で待っている。普段は開いていない大門が開き、王都の住民たちがそこに集まっているという。
「わ、私なんかがそこに立っても構わないものでしょうか……」
あまりの大役に、思わず近くにいた皇妃に助けを求めてしまった。今はお披露目の場に通じる部屋に、皇帝、皇妃、そしてロインの四人がいる。この部屋は王族しか入ることが出来ず、今回はロインの結婚のお披露目ということで、ジュークもいない。
「落ち着いて。貴方も今日から王族の一員。堂々とそこに立っていれば、何も問題ありません」
「……有難う御座います」
皇妃に優しい言葉をかけてもらえ、少しだけ勇気が出た。黙っていればいいというのも大きい。
「皆、前へ」
皇帝が見上げる程の窓を開ける。それだけで、歓声が聞こえてきた。自分は歓迎されている。それが分かり、緊張はどこかへ吹き飛んでいった。
「おめでとう御座います!」
「ロイン様!」
「メアリ妃!」
「お幸せに!」
四人が姿を見せると、割れんばかりの拍手。メアリは皇帝たちに合わせて手を振った。これが王都の人々か。田舎暮らしに慣れていたメアリはくらくらした。
上手くやっていかれるのか不安しかないが、やっていくしかない。選択肢はメアリには持たされていないのだ。
たった十分程のお披露目だったが、メアリにとっては丸一日にも感じられた。
お披露目会が終わり、深呼吸をして呼吸を整えるメアリを、皇妃は優しく見守ってくれた。
そして夜、メアリはピンチを迎えていた。夕食後にメアリの家族と別れたはいいが、そういえば今日は結婚初夜だったと初めて理解した。
十六歳のメアリには全く未知の世界だが、やはり夫婦になったのだから、同じベッドで寝たりするのだろうか。家族以外と同じ部屋でなんて考えたこともなかった。
──どうしようどうしよう。
しかし、メアリに拒否する理由も無い。そもそも、ロインも今は家族なのだ。初日から拒否してはどんなことを言われてしまうか分からない。メアリはベッドに入り、大人しくその時を待った。
「来ないわ……」
時計を見ると、二十二時半。まだ早いのかもしれない。ただ、メアリとしてはすでに就寝している時間だ。もう少し待ってみることにした。気付いたら朝だった。
「あ、朝」
しまった。寝てしまっていた。きょろきょろ自室を見回す。部屋に鍵は掛かっているが、ロインはメアリの部屋の鍵を所持していると聞いた。一緒に寝るつもりなら勝手に入って隣で寝ているはずだ。
「じゃあ、来なかったんだ」
よかった。もしロインが真横にいたら、ストレスで睡眠不足に陥ってしまう。
「ロイン様はいらっしゃらなかった?」
『な~い。な~いよ』
念のため、部屋に置いてある観葉植物に聞いてみたら、来てないと言われた。これで大丈夫だ。
コンコン。
ノックの音。扉を開けるとロアが立っていた。彼女を見ているとなんだか和む。
「お早う御座います! よく寝られましたか?」
「はい。お早う御座います」
ロアが着替えを手伝ってくれ、カーテンを開けてくれる。これは本当に運動不足になりそうだ。途中、ロアが何も無いところで躓いた。ロアを見ているとハラハラしてしまう。
「ロイン様はいらっしゃいますか?」
「いらっしゃいますよ。間もなく王都の見回りで騎士団と外へ行かれるそうです」
「そうなんですか」
皇子でも見回りの仕事があるのか。戦争が起きれば前線に出るのだろうか。急に心配になった。
「私、お見送りしたいです」
「承知しました。では、大門へ向かいましょう」
ロアとともに廊下を歩く。メイドたちがすれ違うたびお辞儀をしてくれる。まだ妃としての扱いには慣れない。
大門に着くと、数十人の騎士団とロイン、ジュークがいた。ノウがその横で馬の手入れをしている。
「ロイン様、ジューク様」
「わあ、見送りに来てくれたんですか」
ジュークがいち早く反応し、メアリの傍まで走ってきてくれる。
「何も出来ませんが、何事もないことをお祈りしております」
「有難う御座います。ほら、兄さんも」
「……関係の無い貴方が祈る必要はない」
「あは、照れてる」