国一冷徹の皇子と結婚した不運令嬢は、神木とともに魔術を極めて皇子を援護する
メアリの仕事
きっと確実に照れて言っているわけではないだろうが、ジュークの機転で和やかな見送りとなった。心の中では少し傷ついたが、表面上は笑顔を浮かべて遠くなる騎士団を見つめる。
「よし!」
自分も皇子の役に立たなくては。ロアに振り返る。
「ロアさん。私のお仕事はありますか?」
「あります!」
「やった!」
「まずはカリス国の歴史を学びます」
「や、ったあ……!」
結局、スオン家でしてきたことと同じことをやる羽目になってしまった。今日の授業は午前中の一時間のみ。あとは自由だと言われた。自由と言われても、ここに来て三日目。自分の荷物もほとんど無い。どうしたものか。
「そうだ、お庭」
まずは庭にある花々に挨拶をして、自分を知ってもらおう。時間もたっぷりあるので、地属性の魔力を増やす修行をしてもいい。そして、ゆくゆくはロインの手助けが出来れば。
退屈な授業を熱心に聞き、今日の役割を終える。ロアに庭へ行きたいことを伝えた。
「お庭の手入れでしたら、私どもがやりますのに」
「お水をあげたいだけなので。構いませんか?」
「それでしたら。お花がお好きなのですね」
「はい」
地属性とは関係無く、自然は元から好きだ。ローリアス家の庭はメアリが植えた花々で溢れている。嫁ぐ際、従者が引き継いでくれたが、仕事を増やしてしまい申し訳ないと思う。
「こちらです」
「わあ……!」
ロアに案内された庭は、想像以上に広大で、小さな森にいるようだった。思わず駆け出す。
「素晴らしいです。こんな素敵なお庭、初めて見ました」
「それはよかった」
近くで男性の声がした。上を向くと、気の選定をしている従者がいた。年の頃は七十程だろうか。
「上から失礼致します。庭師のセジンです。以後お見知りおきを」
「お邪魔しております。メアリです」
「はい。ご結婚おめでとう御座います」
「有難う御座います」
当然というか何というか、初対面の人にまで第一皇子の妻だと知られていてどうにもむず痒い。
「水やりをしても宜しいですか?」
「構いませんよ。助かります」
セジンの許可をもらい、近くにあるホースから水を出し、花に順にかけていく。
周りに人がいて話しかけにくいので、気持ちを水に乗せて花を見つめると、ささやかながら歓迎の声が返ってきた。嬉しくなって、水やりにも精が出る。
「ふう……!」
結局、庭にある花全てに水を上げることとなった。広さがあるため疲れたが、その分達成感もある。
「メアリ様、お疲れでしょうから、一旦休まれてはいかがでしょう」
「全然疲れてないです。でも、とりあえずお部屋に帰ります」
「承知しました」
メアリがセジンに手を振る。
「有難う御座いました。雨の日以外は来てもいいですか?」
「いいですよ。花も喜びます」
メアリが花たちに背を向けた時、後ろから小さな音が届いた。
『珍しい子どもじゃ』
「ん?」
辺りを見回すが、それらしき声の主はいない。
「どうかされましたか?」
「いいえ、気のせいだったみたい」
自室に帰り一人になっても、先ほどの声が気になった。ロアには気のせいだと言ったが、絶対に気のせいではなかった。では、花の声だろうか? それにしてははっきりとした言い方だった。花たちにも感情はあるが、単語を話す程度で、人間のような話し方をする植物に出会ったことはなかった。
もしかして、人間程の知能がある植物だろうか。それならば是非とも一度この目で見てみたい。
「もう一回行ってみよう」
やる気になり扉を開けると、そこにはメイドがいた。
「そろそろお昼で御座います」
「あ、有難う御座います」
考えるのに夢中で時間を全く気にしていなかった。普段よりやや急ぎ目に食べ終え、食器を下げてもらう。これでもう何も無いはずだ。
「ええと、どこか行く時は誰かを連れていなければならないのよね。お庭でもダメかしら。出来れば一人の方がいいのだけど」
試しに、廊下へ出てロアを呼ぶ。五秒でロアが来た。どこに待機していたのだろう。
「お呼びですか!」
「あの、またお庭に行きたいのですが、一人でもいいですか?」
「お一人で!? それは……ううん……」
「短い時間でも構いませんので、三十分とか」
「三十分、ですか。少々お待ちください!」
ロアが急いで去っていく。他のメイドに走るなとまた怒られていた。数分で早歩きのロアが戻ってきた。
「メイド長の許可下りました! 三十分で王宮の敷地内でしたら、お一人で歩かれて平気だそうです!」
「有難う御座います!」
結婚早々我儘を言ってしまったのに、わざわざ対応してくれたロアに感謝をする。会ったことのないメイド長にも心の中でお礼を言った。これで自由な時間が確保出来た。三十分でも有難いことだ。
「では、さっそくいいですか?」
「もちろん」
部屋以外で一人になれるなんて、王宮に来て初めてのことだ。しかも、花々に囲まれた広大な庭で。メアリはわくわくが抑えられなかった。
「よし!」
自分も皇子の役に立たなくては。ロアに振り返る。
「ロアさん。私のお仕事はありますか?」
「あります!」
「やった!」
「まずはカリス国の歴史を学びます」
「や、ったあ……!」
結局、スオン家でしてきたことと同じことをやる羽目になってしまった。今日の授業は午前中の一時間のみ。あとは自由だと言われた。自由と言われても、ここに来て三日目。自分の荷物もほとんど無い。どうしたものか。
「そうだ、お庭」
まずは庭にある花々に挨拶をして、自分を知ってもらおう。時間もたっぷりあるので、地属性の魔力を増やす修行をしてもいい。そして、ゆくゆくはロインの手助けが出来れば。
退屈な授業を熱心に聞き、今日の役割を終える。ロアに庭へ行きたいことを伝えた。
「お庭の手入れでしたら、私どもがやりますのに」
「お水をあげたいだけなので。構いませんか?」
「それでしたら。お花がお好きなのですね」
「はい」
地属性とは関係無く、自然は元から好きだ。ローリアス家の庭はメアリが植えた花々で溢れている。嫁ぐ際、従者が引き継いでくれたが、仕事を増やしてしまい申し訳ないと思う。
「こちらです」
「わあ……!」
ロアに案内された庭は、想像以上に広大で、小さな森にいるようだった。思わず駆け出す。
「素晴らしいです。こんな素敵なお庭、初めて見ました」
「それはよかった」
近くで男性の声がした。上を向くと、気の選定をしている従者がいた。年の頃は七十程だろうか。
「上から失礼致します。庭師のセジンです。以後お見知りおきを」
「お邪魔しております。メアリです」
「はい。ご結婚おめでとう御座います」
「有難う御座います」
当然というか何というか、初対面の人にまで第一皇子の妻だと知られていてどうにもむず痒い。
「水やりをしても宜しいですか?」
「構いませんよ。助かります」
セジンの許可をもらい、近くにあるホースから水を出し、花に順にかけていく。
周りに人がいて話しかけにくいので、気持ちを水に乗せて花を見つめると、ささやかながら歓迎の声が返ってきた。嬉しくなって、水やりにも精が出る。
「ふう……!」
結局、庭にある花全てに水を上げることとなった。広さがあるため疲れたが、その分達成感もある。
「メアリ様、お疲れでしょうから、一旦休まれてはいかがでしょう」
「全然疲れてないです。でも、とりあえずお部屋に帰ります」
「承知しました」
メアリがセジンに手を振る。
「有難う御座いました。雨の日以外は来てもいいですか?」
「いいですよ。花も喜びます」
メアリが花たちに背を向けた時、後ろから小さな音が届いた。
『珍しい子どもじゃ』
「ん?」
辺りを見回すが、それらしき声の主はいない。
「どうかされましたか?」
「いいえ、気のせいだったみたい」
自室に帰り一人になっても、先ほどの声が気になった。ロアには気のせいだと言ったが、絶対に気のせいではなかった。では、花の声だろうか? それにしてははっきりとした言い方だった。花たちにも感情はあるが、単語を話す程度で、人間のような話し方をする植物に出会ったことはなかった。
もしかして、人間程の知能がある植物だろうか。それならば是非とも一度この目で見てみたい。
「もう一回行ってみよう」
やる気になり扉を開けると、そこにはメイドがいた。
「そろそろお昼で御座います」
「あ、有難う御座います」
考えるのに夢中で時間を全く気にしていなかった。普段よりやや急ぎ目に食べ終え、食器を下げてもらう。これでもう何も無いはずだ。
「ええと、どこか行く時は誰かを連れていなければならないのよね。お庭でもダメかしら。出来れば一人の方がいいのだけど」
試しに、廊下へ出てロアを呼ぶ。五秒でロアが来た。どこに待機していたのだろう。
「お呼びですか!」
「あの、またお庭に行きたいのですが、一人でもいいですか?」
「お一人で!? それは……ううん……」
「短い時間でも構いませんので、三十分とか」
「三十分、ですか。少々お待ちください!」
ロアが急いで去っていく。他のメイドに走るなとまた怒られていた。数分で早歩きのロアが戻ってきた。
「メイド長の許可下りました! 三十分で王宮の敷地内でしたら、お一人で歩かれて平気だそうです!」
「有難う御座います!」
結婚早々我儘を言ってしまったのに、わざわざ対応してくれたロアに感謝をする。会ったことのないメイド長にも心の中でお礼を言った。これで自由な時間が確保出来た。三十分でも有難いことだ。
「では、さっそくいいですか?」
「もちろん」
部屋以外で一人になれるなんて、王宮に来て初めてのことだ。しかも、花々に囲まれた広大な庭で。メアリはわくわくが抑えられなかった。