国一冷徹の皇子と結婚した不運令嬢は、神木とともに魔術を極めて皇子を援護する

王宮図書館

 ロカロスが手を振った瞬間、景色が元の庭に戻った。鮮やかな手品に驚かされる。いったいどういう仕組みなのだろう。あの世界はどこにあるのか。そもそも存在するのか。不思議なことばかりだった。

 今日のことを報告したいけれども、彼の安全を考えれば言わない方が賢明に思われる。ロインに秘密を作ることは申し訳ないが、こればかりは許してもらおう。
 数分もしないうちにロアが戻ってきた。

「お待たせしてしまいましたか?」
「いいえ、全然。とても楽しかったです。自由な時間をくださって有難う御座います」
「そんなことないです! 他にもしたいことがあったらおっしゃってくださいね。全力でメイド長に掛け合いますので」

 いつでも元気なロアに部屋まで見送られ、ふたたび一人となった。

 さて、暇だ。実に暇だ。妃として何も仕事をしないでいいのだろうか。外交の際は第一皇子の横に妃がいるというアピールのために必要なことは分かるが、普段何をすればいいのか全く分からなかった。

「掃除とかしようかしら」

 そう考えた直後、バレたらメイドに驚かれ、ロインに叱られる未来が見えてしまった。これは止めておこう。

「でも、何かしたい。出来れば、ロイン様のお役に立てること」

 今の自分でも出来ること。いや、時間は沢山あるのだ。新しいことに挑戦して、技術を身に着けるのもいいかもしれない。そこで、リリィとの会話を思い出した。

『でも、他のことにも生かせそうだわ』

「そうだ! この魔力をロイン様のお役に立てるよう鍛えるのよ!」

 メアリの行動は早かった。幸い、ここは王宮。王宮図書館という国中の本が集められた建物がある。ロアを呼び、王宮図書館に連れていってもらう。

「私は入り口におりますので、お部屋に持ち帰る御本が決まりましたらおっしゃってください」
「分かりました」

 図書館内でも一緒に行動すると思っていたので安心した。ロアを信用していないわけではないが、魔力のことをまだ伝えていないため、そうなるとまず説明が必要になる。
 大した魔力量でもないので、あまり大っぴらに宣伝したくはない。

 さて、どこから見たらいいものか。膨大な本棚を見上げる。壁一面と、目の前にも天井まで続く本棚が五列並んでいた。一番上は全く見えない。どうやって取るのだろう。おそらく端に置かれている脚立で取るのだと思われるが、高さを考えると少し怖い。

「とりあえず、見える範囲で探そう」

 左端から順番に見ていく。どうやら、ジャンルごと、その中で著者順に並んでいるようだった。これなら探しやすい。さっそく魔術について書かれている本棚に向かう。

 幼児向けの絵本から高等魔術が書かれているものまで幅広く置かれていた。さすがは王宮図書館。入門書と中級編を手に取り、メアリは次の本棚に移った。
 絵本コーナー。どれも可愛らしい表紙に鮮やかな色が塗られている。

「あった」

 そこから一冊取り出す。タイトルは「まぼろしのごしんぼくさま」。ロカロスについて書かれている絵本である。せっかく親友になれたので、彼のことをもっと知りたいと思った。
 神木についての絵本は幼少期に読んだことはあるが、記憶が曖昧な部分もあるので、次会うまでに補強しておきたい。

 この辺で戻ろうかと思ったが、部屋でなら一人でいていいしゆっくり時間が取れる。メアリは気になった本を片っ端から持ち帰ることにした。

「お待たせしました」
「おわああメアリ様! ロアが持ちます!」
「平気です」
「手が折れますので!」

 手は折れない。しかし、確かに調子に乗って取り過ぎたかもしれない。十冊以上抱えたメアリは顔半分まで本が積み上げられ、ロアの姿もほとんど見えない。

「では、半分お願いします」
「全部持ちますのに」

 いくら自分の部下と言えど、全部頼り切りになるのは悪い。きっちり半分持ってもらい、二人は部屋に戻った。

「メアリ様は読書家なのですね。私、普段一年に一冊も読みませんよ。昇級試験用の本を無理矢理読んだくらいで」
「いえ、せっかく時間があるので、勉強をしたいと思っただけです」
「はぁ~、見習いたいです。一か月前に受けた昇級試験の内容ももう全ッ然覚えてません……」

 部屋の机に本を置いてもらう。ロアはこの後掃除があると、げんなりした顔で去っていった。メアリが気合を入れて机に向かう。

「よし。読むぞ~」

 まずは魔術書入門編から。


 魔術とは、個が持つ魔力を使い、物体を動かしたり、自然に力を宿らせる術のことである。生まれた時から各人が持っているものであり、魔力の大きさは個人によって異なる。
 魔力には属性がある。火、水、風、地の四つで、そのうちの一つに属するが、稀に二つの属性を持つ者も存在する。


「なるほど……」

 魔力は持っているが魔術学校には通ったことはないので、入門書でも十分新鮮に感じる。メアリは夢中になって読みふけった。
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