国一冷徹の皇子と結婚した不運令嬢は、神木とともに魔術を極めて皇子を援護する
契約
「筋トレ!?」
「うん、そう。筋力トレーニング」
メアリからそんな言葉が出るとは思わず、ロカロスがメアリの両肩を掴む。
「どうした。騎士団にでも入るのか? カリス国の兵士は足りておる。わざわざメアリがすることもあるまい」
体をがくがくに揺らされたメアリは一冊の本を取り出した。それをロカロスに渡す。
「魔術書入門編? 絵本ではなさそうだが」
「魔力を使った術について書かれている本よ。魔力を増やすにはいくつか方法があって、筋トレも有効と書かれていたの。他は学校に行ったり山奥に修行に行ったりしないといけなくて、私には難しいでしょ? だからとりあえず筋トレかなって」
「筋肉ムキムキになるのか……? 愛らしい顔をしているのに」
ロカロスが長いため息を吐く。どうやら賛成ではないらしい。しかし、メアリとて顔が変わる程にムキムキを目指しているわけではない。
「心配しないで。服から見える部分はほどほどにしておくから」
「見えない部分はほどほどではないのだな」
「バキバキにはしないから」
「う~~~~~ん……そんなに魔力を付けたいのか。私の魔力を上げようか?」
ロカロスが右手のひらを上に向け、そこに炎が舞う。とんでもない提案をされてしまった。メアリが慌てて両手を振る。
「そんな、他人に魔力を渡すなんて大変なことよ。気持ちだけ受け取っておくわね、ありがとう。それに私、自分の力で強くなりたいの」
「そうか。なら、私と契約を結ぼう。どこにいても、国を越えても私と繋がる契約じゃ。私がメアリの手助けをする。それなら良いだろう」
「知り合ったばかりの私とでいいの?」
「私がいいと言っているからいいのじゃ」
大きく頷かれる。二百年振りの親友はかなりの価値があるらしい。
「それなら、宜しくお願いします」
ドレスを持ち、丁寧にお辞儀をする。ロカロスが豪快に笑った。
「わっはっは。面白いことが起きそうだ。私こそ宜しく頼むぞ」
ロカロスが右手をメアリの額に当てる。じんわりと熱くなる。額に薄っすら紋様が光り、すぐにそれは消えた。
「これで契約が結ばれたの?」
額に触るが、何も変わったことはなく実感が湧かない。
「そうじゃ。これで国を出ても自由に実体化出来る」
「それはよかった。暇じゃなくなるわね」
「そうなのじゃ!」
今までよほど退屈だったらしいロカロスが飛んで喜ぶ。メアリも役に立てて嬉しくなった。
「よし、筋トレしましょ!」
もう一冊本を取り出す。そちらには「筋トレ入門」と書かれていた。
「私は何をすればいい?」
「一緒にする?」
「する」
ロカロスが即答した。今さら筋トレをしなくても立派な体躯をしているが、メアリが筋トレしているのを見るだけなのは暇だと判断したらしい。メアリが本を開く。
「まずは、負荷をかけすぎるのもよくないから、初心者は楽な体勢から徐々に回数を増やして……週に三回から……なるほど、全開でやりましょう」
「何故じゃ!? 徐々にと書いてあるだろう」
「でも、魔力増やしたいし」
「遠回りが一番の近道じゃ! 本の通りにするぞ」
「分かったわ」
残念そうなメアリを見て、ロカロスは自分がしっかりしなければと思った。メアリ一人だったら一週間で体を壊してしまう。
「腹筋からやる」
「はい、先生!」
ロカロスが何も無いところからマットを出現させた。そこに二人で寝転がる。
「膝を立たせて」
「はい」
「後頭部に両手を当てて支える」
「はい」
「お腹を見るように上半身を少しだけ起こす」
「はい」
本を読むロカロスの言うことを聞き、上半身を起こしてみる。すでに辛い。五秒でメアリは後悔した。しかし、ここで諦めたら三日坊主どころではない。横のロカロスを見遣る。すでに飽きたらしい彼は片手で逆立ちをしていた。
「高度テクニック!」
「いやぁ、腹筋はすでにあるから、負荷をちょっとかけようと思ってな」
「ちょっとどころじゃないよね」
服を着ている状態でも体格が良いことは薄々気付いていたが、これほどまでとは。五秒で後悔した自分が情けない。どうにか三十秒耐えて、メアリが倒れ込む。
「限、界……」
「わはは、最初はそれでいいみたいだぞ」
「よかった。世界で一番筋力が無いと思っちゃった」
メアリが立ち上がる。こんなことで疲れていては始まらない。
「次は?」
「全開はダメだぞ」
「全開じゃないわ。三十分はやる」
「そうか。付き合おう」
思った以上に本気だったことを理解したロカロスが先生役となり、本の内容を中心に筋トレを進めていった。途中で水分補給も忘れない。
「このジュース、どこから持ってきたの?」
「私の樹液を加工したものじゃ」
「すごい。美味しい」
「食べ物も作れる」
特製ジュースのおかげで三十分をどうにか乗り切った。今日のノルマクリアである。
汗をかいたメアリにロカロスが濡れタオル渡した。何でも有りな世界がすごすぎて言葉も出ない。
「ありがとう。明日もよろしくね」
「週に三回だから、次は明後日じゃ」
「そうでした」
「うん、そう。筋力トレーニング」
メアリからそんな言葉が出るとは思わず、ロカロスがメアリの両肩を掴む。
「どうした。騎士団にでも入るのか? カリス国の兵士は足りておる。わざわざメアリがすることもあるまい」
体をがくがくに揺らされたメアリは一冊の本を取り出した。それをロカロスに渡す。
「魔術書入門編? 絵本ではなさそうだが」
「魔力を使った術について書かれている本よ。魔力を増やすにはいくつか方法があって、筋トレも有効と書かれていたの。他は学校に行ったり山奥に修行に行ったりしないといけなくて、私には難しいでしょ? だからとりあえず筋トレかなって」
「筋肉ムキムキになるのか……? 愛らしい顔をしているのに」
ロカロスが長いため息を吐く。どうやら賛成ではないらしい。しかし、メアリとて顔が変わる程にムキムキを目指しているわけではない。
「心配しないで。服から見える部分はほどほどにしておくから」
「見えない部分はほどほどではないのだな」
「バキバキにはしないから」
「う~~~~~ん……そんなに魔力を付けたいのか。私の魔力を上げようか?」
ロカロスが右手のひらを上に向け、そこに炎が舞う。とんでもない提案をされてしまった。メアリが慌てて両手を振る。
「そんな、他人に魔力を渡すなんて大変なことよ。気持ちだけ受け取っておくわね、ありがとう。それに私、自分の力で強くなりたいの」
「そうか。なら、私と契約を結ぼう。どこにいても、国を越えても私と繋がる契約じゃ。私がメアリの手助けをする。それなら良いだろう」
「知り合ったばかりの私とでいいの?」
「私がいいと言っているからいいのじゃ」
大きく頷かれる。二百年振りの親友はかなりの価値があるらしい。
「それなら、宜しくお願いします」
ドレスを持ち、丁寧にお辞儀をする。ロカロスが豪快に笑った。
「わっはっは。面白いことが起きそうだ。私こそ宜しく頼むぞ」
ロカロスが右手をメアリの額に当てる。じんわりと熱くなる。額に薄っすら紋様が光り、すぐにそれは消えた。
「これで契約が結ばれたの?」
額に触るが、何も変わったことはなく実感が湧かない。
「そうじゃ。これで国を出ても自由に実体化出来る」
「それはよかった。暇じゃなくなるわね」
「そうなのじゃ!」
今までよほど退屈だったらしいロカロスが飛んで喜ぶ。メアリも役に立てて嬉しくなった。
「よし、筋トレしましょ!」
もう一冊本を取り出す。そちらには「筋トレ入門」と書かれていた。
「私は何をすればいい?」
「一緒にする?」
「する」
ロカロスが即答した。今さら筋トレをしなくても立派な体躯をしているが、メアリが筋トレしているのを見るだけなのは暇だと判断したらしい。メアリが本を開く。
「まずは、負荷をかけすぎるのもよくないから、初心者は楽な体勢から徐々に回数を増やして……週に三回から……なるほど、全開でやりましょう」
「何故じゃ!? 徐々にと書いてあるだろう」
「でも、魔力増やしたいし」
「遠回りが一番の近道じゃ! 本の通りにするぞ」
「分かったわ」
残念そうなメアリを見て、ロカロスは自分がしっかりしなければと思った。メアリ一人だったら一週間で体を壊してしまう。
「腹筋からやる」
「はい、先生!」
ロカロスが何も無いところからマットを出現させた。そこに二人で寝転がる。
「膝を立たせて」
「はい」
「後頭部に両手を当てて支える」
「はい」
「お腹を見るように上半身を少しだけ起こす」
「はい」
本を読むロカロスの言うことを聞き、上半身を起こしてみる。すでに辛い。五秒でメアリは後悔した。しかし、ここで諦めたら三日坊主どころではない。横のロカロスを見遣る。すでに飽きたらしい彼は片手で逆立ちをしていた。
「高度テクニック!」
「いやぁ、腹筋はすでにあるから、負荷をちょっとかけようと思ってな」
「ちょっとどころじゃないよね」
服を着ている状態でも体格が良いことは薄々気付いていたが、これほどまでとは。五秒で後悔した自分が情けない。どうにか三十秒耐えて、メアリが倒れ込む。
「限、界……」
「わはは、最初はそれでいいみたいだぞ」
「よかった。世界で一番筋力が無いと思っちゃった」
メアリが立ち上がる。こんなことで疲れていては始まらない。
「次は?」
「全開はダメだぞ」
「全開じゃないわ。三十分はやる」
「そうか。付き合おう」
思った以上に本気だったことを理解したロカロスが先生役となり、本の内容を中心に筋トレを進めていった。途中で水分補給も忘れない。
「このジュース、どこから持ってきたの?」
「私の樹液を加工したものじゃ」
「すごい。美味しい」
「食べ物も作れる」
特製ジュースのおかげで三十分をどうにか乗り切った。今日のノルマクリアである。
汗をかいたメアリにロカロスが濡れタオル渡した。何でも有りな世界がすごすぎて言葉も出ない。
「ありがとう。明日もよろしくね」
「週に三回だから、次は明後日じゃ」
「そうでした」