国一冷徹の皇子と結婚した不運令嬢は、神木とともに魔術を極めて皇子を援護する
バレた!
まだ一時間以上時間が残っている。メアリとロカロスは床に寝転がり、のんびりだらだら過ごした。こんなこと、王宮では絶対に出来ない。自室でも出来ない。なんという解放感。このままこの空間で過ごしていたいと思ってしまう程だ。
──いけない。堕落というものだわ。もっと上品でいないと。
でも、もう少しだけ。メアリは時間いっぱいゴロゴロを楽しんだ。
「そろそろじゃ」
「あら」
ポン、とロカロスが小さくなる。ロカロスも付いてくるらしい。ロカロスはロカロスで、メアリの世界が気に入ったらしい。それはそうだ。友人の一人もおらず、誰もいない世界で過ごすか、自然を通して外の世界を見つめているかの二択だったのだ。今の生活は驚く程に新鮮だろう。
「メアリ、あと百年は生きておくれ」
「ううん、難しいけど頑張るわ」
せめてあと八十年なら生きられるかもしれないが、そう言うとロカロス悲しむと思い言葉を濁らせる。
「さあ、行くぞ」
ロカロスがメアリの葉に入り、メアリの視界がぶれる。現実に帰ってきた。せっかくなので、ロアが来るまで水撒きもした。花たちが揺れて礼を言っていた。
「メアリ様、そろそろロイン様がご帰宅です」
「有難う御座います。向かいますね」
今日はまだ陽が高い。早い帰宅に急いで準備をして大門で待つ。ロカロスには大人しくしてもらうようお願いした。
「おかえりなさいませ」
メアリを先頭に、従者たちが頭を下げる。そこをロインが不愛想に、ジュークが手を振って通り過ぎていった。何も言われなかったが、何も言われなかったので怒ってはいないのだろう。それならば一安心だ。
部屋に戻り、ロカロスを解放する。ロカロスの方が怒っていた。
「なんじゃあの男は。メアリが出迎えたというのに無視したぞ!」
頭から沸騰しそうなロカロスをメアリが宥める。
「まあまあ、ロイン様は普段から寡黙な方だから」
「それと挨拶をしないのとは違う! 挨拶も出来ない若造がカリス国の第一皇子とは情けない」
ロカロスは何百年も前からこの国を見守ってきた伝説の神木。未来の皇帝について思うところがあるのも頷ける。しかし、メアリから皇子に文句を言うことは出来ない。
「私は嫁いできた身だから」
「だが、言うだけなら言ってもいいだろう?」
「誰かいるのか」
ノックもせず誰かが入ってきた。そんな人間は一人しかいない。ロインだ。
扉の前で固まるロイン、部屋の中にメアリ、そのすぐ横にロカロス。大ピンチである。
「そいつは誰だ!」
剣を抜くロインに、さすがは反応が早いと感心している場合ではない。失敗した。ロインの部屋の横で大声を出すべきではなかった。メアリがロインに駆け寄る。
「違うのです! ロイン様、この人は人間ではなく精霊で御座います!」
「は? 精霊……?」
訝し気な目でロインが二人を交互に見遣る。それはそうだろう。魔力を持つ者は時に精霊を操るが、高度な上、そもそもメアリが魔力持ちだということを話していなかった。仕方なく、魔力について報告する。
「魔力持ちで、あいつがメアリの精霊だと? 信じられない」
説明してもまだ疑うロインに、黙っていたロカロスが小さくなってみせた。
ポンッ。
「なッ!」
「これでどうじゃ。お前も信じるしかあるまい」
ロインは驚いた。
魔力持ちは珍しくない。むしろ、魔力がゼロの人間の方が珍しいと言えよう。しかし、精霊を従えているなんて上級魔術師くらいだ。
「メアリは魔術師なのか?」
「いえ、偶然お庭で知り合って、友人になっただけです。従えているなんて、そんな」
「精霊と、友人に……?」
余計訳が分からなくなった。ロインが頭を抱え、よろよろと扉を開ける。
「とりあえず、分かった。精霊なら仕方ない。大声は控えるように」
「はい。ご迷惑お掛けして申し訳ありませんでした」
混乱が上回ったのか、特に怒られずに終わった。隣でやっぱりロカロスの方が怒っていた。
「なんじゃあの態度! 私が大人しくしていたからって偉そうに」
「あそこで言い返さないでいてくれてありがとう」
「そうすると、またメアリが嫌なこと言われるだろう」
精霊がいるというだけであそこまで驚かれるとは、ロカロスが神木だという事実は伝えなくて正解だった。
「しかし、私に一瞬でも剣を向けるとは無礼な。呪うか」
「呪わないで!」
神木の呪いともなれば、相当恐ろしいに違いない。いくら冷たくされても大事な夫だ。メアリは全力で止めた。
「まあ、メアリが言うなら致し方なし。それに一つ良いことがある」
「なに?」
「ロインに知られたから、王宮内でも私は姿を現していいということじゃ。メアリも堂々と私の世界に入りに行くと言えるのではないか?」
「た、確かに!」
今までは秘密であったから、後ろめたい気持ちがなかったとは言えなかった。これからは気軽に遊びにいかれることになる。
「ただ、世界の中のことは秘密じゃ」
「分かったわ」
──いけない。堕落というものだわ。もっと上品でいないと。
でも、もう少しだけ。メアリは時間いっぱいゴロゴロを楽しんだ。
「そろそろじゃ」
「あら」
ポン、とロカロスが小さくなる。ロカロスも付いてくるらしい。ロカロスはロカロスで、メアリの世界が気に入ったらしい。それはそうだ。友人の一人もおらず、誰もいない世界で過ごすか、自然を通して外の世界を見つめているかの二択だったのだ。今の生活は驚く程に新鮮だろう。
「メアリ、あと百年は生きておくれ」
「ううん、難しいけど頑張るわ」
せめてあと八十年なら生きられるかもしれないが、そう言うとロカロス悲しむと思い言葉を濁らせる。
「さあ、行くぞ」
ロカロスがメアリの葉に入り、メアリの視界がぶれる。現実に帰ってきた。せっかくなので、ロアが来るまで水撒きもした。花たちが揺れて礼を言っていた。
「メアリ様、そろそろロイン様がご帰宅です」
「有難う御座います。向かいますね」
今日はまだ陽が高い。早い帰宅に急いで準備をして大門で待つ。ロカロスには大人しくしてもらうようお願いした。
「おかえりなさいませ」
メアリを先頭に、従者たちが頭を下げる。そこをロインが不愛想に、ジュークが手を振って通り過ぎていった。何も言われなかったが、何も言われなかったので怒ってはいないのだろう。それならば一安心だ。
部屋に戻り、ロカロスを解放する。ロカロスの方が怒っていた。
「なんじゃあの男は。メアリが出迎えたというのに無視したぞ!」
頭から沸騰しそうなロカロスをメアリが宥める。
「まあまあ、ロイン様は普段から寡黙な方だから」
「それと挨拶をしないのとは違う! 挨拶も出来ない若造がカリス国の第一皇子とは情けない」
ロカロスは何百年も前からこの国を見守ってきた伝説の神木。未来の皇帝について思うところがあるのも頷ける。しかし、メアリから皇子に文句を言うことは出来ない。
「私は嫁いできた身だから」
「だが、言うだけなら言ってもいいだろう?」
「誰かいるのか」
ノックもせず誰かが入ってきた。そんな人間は一人しかいない。ロインだ。
扉の前で固まるロイン、部屋の中にメアリ、そのすぐ横にロカロス。大ピンチである。
「そいつは誰だ!」
剣を抜くロインに、さすがは反応が早いと感心している場合ではない。失敗した。ロインの部屋の横で大声を出すべきではなかった。メアリがロインに駆け寄る。
「違うのです! ロイン様、この人は人間ではなく精霊で御座います!」
「は? 精霊……?」
訝し気な目でロインが二人を交互に見遣る。それはそうだろう。魔力を持つ者は時に精霊を操るが、高度な上、そもそもメアリが魔力持ちだということを話していなかった。仕方なく、魔力について報告する。
「魔力持ちで、あいつがメアリの精霊だと? 信じられない」
説明してもまだ疑うロインに、黙っていたロカロスが小さくなってみせた。
ポンッ。
「なッ!」
「これでどうじゃ。お前も信じるしかあるまい」
ロインは驚いた。
魔力持ちは珍しくない。むしろ、魔力がゼロの人間の方が珍しいと言えよう。しかし、精霊を従えているなんて上級魔術師くらいだ。
「メアリは魔術師なのか?」
「いえ、偶然お庭で知り合って、友人になっただけです。従えているなんて、そんな」
「精霊と、友人に……?」
余計訳が分からなくなった。ロインが頭を抱え、よろよろと扉を開ける。
「とりあえず、分かった。精霊なら仕方ない。大声は控えるように」
「はい。ご迷惑お掛けして申し訳ありませんでした」
混乱が上回ったのか、特に怒られずに終わった。隣でやっぱりロカロスの方が怒っていた。
「なんじゃあの態度! 私が大人しくしていたからって偉そうに」
「あそこで言い返さないでいてくれてありがとう」
「そうすると、またメアリが嫌なこと言われるだろう」
精霊がいるというだけであそこまで驚かれるとは、ロカロスが神木だという事実は伝えなくて正解だった。
「しかし、私に一瞬でも剣を向けるとは無礼な。呪うか」
「呪わないで!」
神木の呪いともなれば、相当恐ろしいに違いない。いくら冷たくされても大事な夫だ。メアリは全力で止めた。
「まあ、メアリが言うなら致し方なし。それに一つ良いことがある」
「なに?」
「ロインに知られたから、王宮内でも私は姿を現していいということじゃ。メアリも堂々と私の世界に入りに行くと言えるのではないか?」
「た、確かに!」
今までは秘密であったから、後ろめたい気持ちがなかったとは言えなかった。これからは気軽に遊びにいかれることになる。
「ただ、世界の中のことは秘密じゃ」
「分かったわ」