国一冷徹の皇子と結婚した不運令嬢は、神木とともに魔術を極めて皇子を援護する

メアリの騎士

 存在自体は説明済なので、その詳細くらいは秘密にしても大丈夫だろう。
 ロカロスが動きやすくなるよう、メアリはさっそくロアを呼んでロカロスを紹介した。

「わわ! 私、王宮魔術師の精霊以外で初めて拝見しました! 強そうですね!」
「そうじゃろうそうじゃろう。もっと敬って構わんぞ」
「ははぁ~」

 大げさに頭を下げるロアが面白くて、ロカロスはずっと笑っていた。
 とりあえず、これでロカロスが窮屈な状態から解放された。メアリもロカロスのことを王宮の人間に見せることが出来て嬉しくなった。せっかくの親友をみんなに知らせたかった。

「うはは。これで、メアリと外に出られる」
「そうね。ただ、私は部屋から出る時は誰かが付いていないといけない決まりだから、二人で外出は難しそうだけど」
「なに! そうなのか? 面倒だな」

 確かに、言われてそのまま享受していたが、お互いに面倒かと聞かれたら否定しにくい。ロカロスが手を叩く。

「こうしよう! 私が外出時のメアリ専属の騎士になる。メアリは私が守る。先ほどのロアというメイドより私の方が強い。これなら二人きりで外に出られるだろう」
「な、騎士……!?」

 申し出は大変有難いが、そう上手く行くものだろうか。メアリは不安な面持ちで頷く。

「それは嬉しいわ。ただ、それも許可がいるんじゃないかと。多分、メイド長あたりに」

 メアリが三十分自由な時間が欲しいとお願いした時のことが思い出される。

「任せろ。私がメイド長も倒してやる」
「メイド長はそういう方じゃないから!」

 すぐ実行しようと息巻くロカロスに対し、メアリはメイド長というのはどういう立場なのかという説明に奮闘した。

 どうにか分かってもらえ、しかしメアリの騎士を諦めないロカロスに根負けし、ロアを再度呼び出す。

 当然ロアの一存では決められないため、予想通りメイド長の許可を仰ぐことになった。実際にロカロスを見てもらわないといけないので、今回はメアリとロカロスも一緒にメイド長の元へ行く。

「こちらです」

 メイド室の扉を開けると、二メートルはあろうかという中年女性が出迎えた。存在感が完全にダンジョン最上階のラスボスである。

「メイド長、メアリ様がいらっしゃいました」
「これを倒せばいいのだな?」
「違う!」

 構えを取るロカロスを必死に制止する。いくら強そうでも味方をいきなり攻撃してはダメだ。

「初めまして、メアリ様。メイド長のヨダリです。以後お見知りおきを」

「こちらこそ、宜しくお願いします。先日は我儘を聞いて頂き恐縮です。実は今回はその、私の外出時にロカロスが騎士として守るので、二人でも外出出来るよう許可を頂きに参りました」

「なるほど」

 ヨダリがロカロスを頭の先から足の先まで食い入るように見つめる。ロカロスは居心地が悪くなり、メアリの横にくっついた。

「なんだこの女は。俺をスープの出汁にでもしそうな顔だぞ」
「しぃッ失礼よ」

 騒ぎ出しそうなロカロスを宥めていると、ヨダリが姿勢を正した。

「分かりました」
「お、許可してくれるか」
「いえ、メアリ様の安全を守るためなので、私の一存では決められません」
「メイド長でもダメなのですか!」

 今まで全ての決定はヨダリによって決められてきたので、ロアが慌てた声を出す。ヨダリが頷いた。

「ですので、今回は第一皇子に決めて頂きます」
「ロイン様に!?」

 今度はメアリが驚く番だった。
 困った。メアリたちの我儘に付き合わせることになれば、それこそ暴言の嵐かもしれない。どうにか上手く収まる方法を考えなければ。

「ロア。第一皇子のお部屋に参りますよ。メアリ様方もどうぞご一緒にいらしてください」
「は、はい!」

 ロアが先頭に立ち、先ほど来た道を戻る。ロインの部屋まで着くと、メアリの緊張が最高潮となった。

「ロカロス、やっぱり止めておこうか」
「何を言うか。あの男の顔色ばかり見たって仕方がないだろう。メアリだって人間なのだから、主張したい時は主張していいのだぞ」

 今回の主張はどちらかと言えば自分ではなくロカロスなのだが、彼の気遣いが分かるのでメアリは黙って頷くことにした。

 ロアがノックをすると、ノウが出てきた。二人して舌打ちをする。

「ロイン様はいらっしゃいますかぁ?」
「なんだその態度。喧嘩なら買う」
「貴方に限っては常に大バーゲンセールなんで、いつでもどうぞ~」
「ロア、メイドとしての態度ではないわね」

 ヨダリが声をかけると、ロアが全身震え出した。

「あの!! これはその!! 発作が出たというか!! 解雇だけはご勘弁ください!!」

 ロアが涙を流してヨダリに乞う。後でフォローしておかなければ。メアリの苦労は尽きない。
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