国一冷徹の皇子と結婚した不運令嬢は、神木とともに魔術を極めて皇子を援護する
勝負
本当にどうしてこうなってしまったのか。上手く立ち回るも何もなく、メアリたちは現在鍛錬場に集まることとなった。
目の前にはロカロスと王都騎士団長のシアラが対峙している。ロインは後ろに設けられた王族席で殺気を放ちながら座っていた。
先ほど、恐る恐るロインにロカロスのことを報告したところ、「王都で一番の騎士と戦い、一撃でも食らわせば認める」と言われた。筋は通っているが、いきなり王都で一番の人間と戦うことになってしまい、メアリ側は絶望中だ。
そもそも、ロカロスはメアリの騎士になると言ったが、実際のところ強いのかも分からない。筋トレ中も途中で遊び出すので、いまいち実力が測れないでいる。
「怪我とかしなければいいのだけれど」
心配はそこだ。一番の実力者に負けるのは仕方がない、そこはもう諦めよう。しかし、それが原因で傷を負っては、メアリは自分自身を責めるだろう。
「ふん。やるだけ無駄だ」
自分から提案したというのに、ロインが今から行われる戦いに興味を示す様子はない。ロカロスの髪の毛が逆立つ。
「メアリ。まずはあの皇子を倒してよいか」
「国外追放になっちゃう……!」
「仕方がないのう」
──どうしよう。ロカロスがロイン様に攻撃しても追放、シアラ団長に負けても何か悪いことが起きそう。
どちらに転んでも良いことにはならなさそうだ。しかし、メアリが力を貸すことも許されない。せめてロカロスが怪我をしないようメアリは祈った。
「始めろ」
「はッ」
ロインの合図でシアラが構えを取る。ロカロスは仁王立ちしたままだ。
「来ないのか。もう降参か? ならば、こちらから行くぞ」
「どこからでも来い」
ロカロスがニヤニヤ笑って挑発する。シアラは剣を抜かず、ロカロスに突っ込んだ。勝負は一瞬だった。
「……は?」
「はい。勝負ありじゃ」
誰も何も分からなかった。シアラがロカロスに拳を振り下ろしたと思ったら、いつの間にかロカロスがシアラの剣を奪い、シアラに突き付けていた。
「ど、どういうことだ!」
シアラが声を荒げる。そもそも、彼は剣を抜いてすらいなかった。ロインも思わず立ち上がる。
「お前、何をした」
ロカロスが剣を放り、ロインへ言う。
「何もしておらぬ。皆が遅いだけじゃ」
メアリが横にいるロアと顔を合わせる。
「勝ったのかしら……」
「勝ったようですね」
「や、やった!」
シアラが剣を収め、立ち上がる。眉間に皺を寄せながらロカロスに右手を差し出した。
「参った。完敗だ」
「なんじゃこれは?」
ロカロスがシアラの右手にちょいちょいと人差し指で触れる。シアラが声を荒げた。
「握手を知らないのか貴様!」
「知らぬ。人間の友人はメアリしかおらぬ」
「そ、そうか。これが握手、友好の証だ」
「なるほど」
ロカロスの手を握り握手を実践してみせる。ロカロスが興味深く頷いた。
「ロイン様、許可を頂けますでしょうか」
メイド長がロインに判断を仰ぐ。ロインが歯軋りしながらロカロスを睨んだ。ロカロスの傍にいるメアリが恐ろしさで震える。
何故こんなにも敵意を露にしているのか理解出来ない。お飾りの妃ならば、もっと放っておけばいいものを。
「私が言ったことだ。撤回するつもりはない」
「承知致しました。有難う御座います」
つまりは、ロカロスがメアリの騎士として外出時に付き添うことを認めるということだ。ロカロスが両手を挙げる。
「わはは! やったぞ! 二人で外出じゃ! さっそく行くか?」
「それはまた今度で。ロイン様、お手数お掛けして申し訳ありません。許可頂き有難う御座います」
「ただ試合の結果による判断をしただけだ。思い上がるな」
「承知しております」
「相変わらずえらそうじゃのう」
ぼそっとロカロスが呟く。相手に聞こえる声ではないところは彼なりの気遣いだ。
「それでは失礼致します」
メアリ、ロカロス、ロアの三人が先に鍛錬場を後にする。
「あ、ロカロス殿。騎士団に入るつもりはないか?」
「精霊はしない」
「そうか。気が変わったらいつでも来てくれ」
シアラの勧誘を一蹴したロカロスは、ポンと小さく変身し、メアリの肩に乗って去っていった。
「……ノウ。つまらない試合だった。帰るぞ」
「はい」
ヨダリとシアラがそこに残される。お互い顔を見合わせて息を吐く。
「騎士団長、ご苦労様です。後片付けはしますから任務に戻ってください」
「恐縮です。こちらこそ、お役に立てず申し訳ありません」
「いいえ、ロイン様もこのくらいのことがあった方がいいんですよ」
「そうですか」
「そうです」
ヨダリにそう言ってもらえるとそうな気がしてくる。それくらい彼女は頼もしい。シアラが会釈して戻っていく。
「さて、私もさっさと仕事の続きをしますか」
目の前にはロカロスと王都騎士団長のシアラが対峙している。ロインは後ろに設けられた王族席で殺気を放ちながら座っていた。
先ほど、恐る恐るロインにロカロスのことを報告したところ、「王都で一番の騎士と戦い、一撃でも食らわせば認める」と言われた。筋は通っているが、いきなり王都で一番の人間と戦うことになってしまい、メアリ側は絶望中だ。
そもそも、ロカロスはメアリの騎士になると言ったが、実際のところ強いのかも分からない。筋トレ中も途中で遊び出すので、いまいち実力が測れないでいる。
「怪我とかしなければいいのだけれど」
心配はそこだ。一番の実力者に負けるのは仕方がない、そこはもう諦めよう。しかし、それが原因で傷を負っては、メアリは自分自身を責めるだろう。
「ふん。やるだけ無駄だ」
自分から提案したというのに、ロインが今から行われる戦いに興味を示す様子はない。ロカロスの髪の毛が逆立つ。
「メアリ。まずはあの皇子を倒してよいか」
「国外追放になっちゃう……!」
「仕方がないのう」
──どうしよう。ロカロスがロイン様に攻撃しても追放、シアラ団長に負けても何か悪いことが起きそう。
どちらに転んでも良いことにはならなさそうだ。しかし、メアリが力を貸すことも許されない。せめてロカロスが怪我をしないようメアリは祈った。
「始めろ」
「はッ」
ロインの合図でシアラが構えを取る。ロカロスは仁王立ちしたままだ。
「来ないのか。もう降参か? ならば、こちらから行くぞ」
「どこからでも来い」
ロカロスがニヤニヤ笑って挑発する。シアラは剣を抜かず、ロカロスに突っ込んだ。勝負は一瞬だった。
「……は?」
「はい。勝負ありじゃ」
誰も何も分からなかった。シアラがロカロスに拳を振り下ろしたと思ったら、いつの間にかロカロスがシアラの剣を奪い、シアラに突き付けていた。
「ど、どういうことだ!」
シアラが声を荒げる。そもそも、彼は剣を抜いてすらいなかった。ロインも思わず立ち上がる。
「お前、何をした」
ロカロスが剣を放り、ロインへ言う。
「何もしておらぬ。皆が遅いだけじゃ」
メアリが横にいるロアと顔を合わせる。
「勝ったのかしら……」
「勝ったようですね」
「や、やった!」
シアラが剣を収め、立ち上がる。眉間に皺を寄せながらロカロスに右手を差し出した。
「参った。完敗だ」
「なんじゃこれは?」
ロカロスがシアラの右手にちょいちょいと人差し指で触れる。シアラが声を荒げた。
「握手を知らないのか貴様!」
「知らぬ。人間の友人はメアリしかおらぬ」
「そ、そうか。これが握手、友好の証だ」
「なるほど」
ロカロスの手を握り握手を実践してみせる。ロカロスが興味深く頷いた。
「ロイン様、許可を頂けますでしょうか」
メイド長がロインに判断を仰ぐ。ロインが歯軋りしながらロカロスを睨んだ。ロカロスの傍にいるメアリが恐ろしさで震える。
何故こんなにも敵意を露にしているのか理解出来ない。お飾りの妃ならば、もっと放っておけばいいものを。
「私が言ったことだ。撤回するつもりはない」
「承知致しました。有難う御座います」
つまりは、ロカロスがメアリの騎士として外出時に付き添うことを認めるということだ。ロカロスが両手を挙げる。
「わはは! やったぞ! 二人で外出じゃ! さっそく行くか?」
「それはまた今度で。ロイン様、お手数お掛けして申し訳ありません。許可頂き有難う御座います」
「ただ試合の結果による判断をしただけだ。思い上がるな」
「承知しております」
「相変わらずえらそうじゃのう」
ぼそっとロカロスが呟く。相手に聞こえる声ではないところは彼なりの気遣いだ。
「それでは失礼致します」
メアリ、ロカロス、ロアの三人が先に鍛錬場を後にする。
「あ、ロカロス殿。騎士団に入るつもりはないか?」
「精霊はしない」
「そうか。気が変わったらいつでも来てくれ」
シアラの勧誘を一蹴したロカロスは、ポンと小さく変身し、メアリの肩に乗って去っていった。
「……ノウ。つまらない試合だった。帰るぞ」
「はい」
ヨダリとシアラがそこに残される。お互い顔を見合わせて息を吐く。
「騎士団長、ご苦労様です。後片付けはしますから任務に戻ってください」
「恐縮です。こちらこそ、お役に立てず申し訳ありません」
「いいえ、ロイン様もこのくらいのことがあった方がいいんですよ」
「そうですか」
「そうです」
ヨダリにそう言ってもらえるとそうな気がしてくる。それくらい彼女は頼もしい。シアラが会釈して戻っていく。
「さて、私もさっさと仕事の続きをしますか」