国一冷徹の皇子と結婚した不運令嬢は、神木とともに魔術を極めて皇子を援護する

幻の姿

「さっそく外に行くか? 私と一緒ならばいいのだろう?」
「いえ……今日の修行がまだだからそれをするわ」

 ロカロスの強さを見せられたメアリがやる気を見せる。ロカロスも、メアリがいなくては一人で外に出ても仕方がないので、修行に付き合うことにした。

 今は筋トレは半分程度にして、残りを魔力増幅・魔術獲得の修行に当てている。
 さらに、ロカロスの存在が明らかとなったため、ロアに堂々とロカロスの世界の中で過ごしていることも伝えられている。自身の世界を作り出せる精霊など一握りしかいないのだが、精霊に関して詳しくないロアは「珍しい精霊ですね」とすんなり送り出してくれた。

「よし、魔術を見せてくれ」

 ロカロスに催促され、メアリが頷く。右手を何も無い床に向け、魔力を集中された。瞬間、上腕二頭筋がムキっと膨れた。筋トレ効果である。

「創造!」

 メアリが唱える。何も無かった場所から小さな芽が出たかと思えば、それはみるみる成長した。

 バキバキィ!

 大きな音とともに樹齢百年はあろうかという大木になったそれは、メアリの魔力に呼応して、左右に揺れている。

「おおお、これはすごい」
「えへへ」

 初日に比べるとたいした変化である。ロカロスも興味深そうに大木を観察する。

「完全に本物だ。立派なものだな」
「まだ大きく出来るよ」
「なら限界までやってみてくれ」
「分かったわ」

 ここは果ての無い世界。どこまで大きくしようと広げようと誰が困るわけでもない。メアリは魔力を全開にした。

 ビキッバキィッ!

 今度は左右に枝が伸び、先はやがて見えなくなった。ゼロの空間に大木が一本、奇妙な光景だ。

「どう?」
「いいぞ。私に似ている気もする」
「そういえば、ロカロスの本当の姿を見たことがないわ」
「そうじゃったか」

 ここで初めて、メアリはロカロスの人の姿しか見たことがないことに気が付いた。

「しまった。親友なのに」
「そうか。なら、見せよう」
「いいの?」
「うむ。木を少し小さくしてもらえるか」
「分かったわ」

 メアリがロカロスの言う通り大木を最初の大きさまで戻す。ロカロスがその横に立ち、光り出した。

「わあ……」

 人の形がぐにゃりと溶け始め、それは見事な黄金の大木、幻の神木へと変化(へんげ)した。メアリが感嘆の声を上げる。
 確かに、メアリが想像した木に形は似ている。しかし、大きさも神々しさも比べ物にならない。

『どうじゃ』
「素敵。この世のものとは思えないわ」
『確かに、本来の私は存在していて存在しておらん。姿を見せることは出来るが、そこにはいないのじゃ』
「難しいのね。だから幻? 人の姿なら存在しているの?」
『まあ、触ることは出来る。あとはこの空間なら、今の姿でも触れるぞ』

 その言葉に吸い寄せられ、メアリが神木の傍に近寄る。

「触ってもいい?」
『わはは、いいぞ』
「ありがとう」

 触れたら壊れるシャボン玉のように思え、メアリはそっと優しく神木に触れる。思ったより柔らかく、そして温かかった。

「木じゃないみたい」
『まあ、木であって木ではない。概念と言ったらいいか。私にも厳密には分からない』
「そうなの」

 そう言うと、神木がしゅるしゅると縮み、ロカロスの姿に戻った。やはり、見慣れたこちらの方がメアリには落ち着く。

「考えてみたら、私すごい精霊と親友なのね」
「マブダチじゃ。存分に崇めてくれて構わないぞ」
「ふふ。ロカロスが恥ずかしくないように、もっともっと強くなるわ」
「さすがメアリ。ロインもこのような素晴らしい妻がおるのに、今思い出してもムカムカする」
「どうどう」

 ロカロスがメアリのことを心配してくれているのは有難いが、はっきり言ってメアリはあまりロインについて悩まなくなっていた。嫁いでしまったものは仕方がない。冷たくされるのだって、最初から分かっていた。

 それに、嫁いだおかげで良いこともあった。超絶不運は人生で一度しか起きない。万が一今回の結婚が超絶不運によるものではなかったとしても、姓が変わっているので超絶不運は起きない。つまり、どちらにせよ、不運から解放されたことになる。

 両親になかなか会えないのは寂しいが、ここに来たおかげでロカロスと出会うことが出来た。従者にも恵まれている。思った以上に良い暮らしが出来ている。

 そういう意味ではロインに感謝している。だから、これからは陰ながらロインの役に立ちたいと思う。ロカロスに言うと、眉を下げて笑われた。

「健気じゃの」
「ううん。私がしたいからするだけよ」
「そうか」

 メアリが腕を組み、考え込む。

「よし、魔力も大分付いてきたから、今度はこれをどう生かすかね」
「何かアイデアはあるのか?」
「んん……王宮内では危険は無いとして、遠征でお支えしたいのだけれど」
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