国一冷徹の皇子と結婚した不運令嬢は、神木とともに魔術を極めて皇子を援護する
似たもの親子
こちらが強く拒否しないからいけないということは理解している。それを上回る身分の差がメアリに重くのしかかった。
「お気に入りの紅茶なの。どうぞ」
「有難う御座います。いただきます」
高級そうなカップを持ち、紅茶を味わう。全然味がしない。緊張が限界を超えていた。今すぐ転移魔法で帰宅したい。これも習っていなくて分からないけれども。
バン!
瞬間、メアリはカップを落としそうになった。両手で掴み、どうにか地面と仲良しになる危機を脱する。大きな音をした方向を見遣ると、リリィに似た女性が立っていた。おそらく母親だろう。
「リリィ。私に挨拶が無かったのですが?」
リリィが言われたのにどきりとする。怖い人だろうか。リリィがすぐさま立ち上がり、女性の元に走り寄った。
「ごめんなさいお母様。初めての妹に舞い上がってしまい、帰宅の報告が遅れてしまいました。ただいま戻りました」
「おかえりさない。それより、今なんと言ったのですか? 妹がどうとか……まさか貴方……」
メアリは二人の会話の後ろで縮こまっていた。いっそ本当に小さくなって消えてしまいたい。リリィの母がメアリを見つめた。目が合ってしまった。仕方なく、二人の前へ歩く。
「はじめまして、メアリ・ローリアスと申します」
「まあ! まあまあ!」
──あれ?
てっきり、勝手に屋敷にいることを叱られると思ったのに、先ほどのリリィと同じ反応をされた。驚いていたら抱きしめられた。リリィより情熱的である。
「ではこの子が?」
「そうです。可愛らしいでしょう?」
「ええ、ばっちりね! 私に新たな子どもが出来て嬉しいわ!」
親子そろってとんでもない思考の持ち主だった。人一人を違う家庭に移そうというテンションがこれでいいものだろうか。
そうだ。これはとても重要で、重大なことだ。身分の違いはあれど、拒否しても処分されはしないはず。相手がまともであれば。メアリは勇気を振り絞った。
「あああの、大変嬉しいお申し出なのですが、私には大切にしている両親がおりまして……!」
メアリの言葉が部屋に響く。二人の顔がまともに見られない。感情の高ぶりで涙まで滲んできた。情けない。リリィの母がメアリの頬に手を当てる。
「安心してください。貴方とご両親は家族のままですよ。私たちとは、そう、仮の家族とでも言いましょうか」
僅かな希望にメアリが顔を上げる。
「それはどういう?」
「私から説明させてちょうだい!」
リリィが右手を胸元に当て、左手を腰に当てて瞳を輝かせ言った。
「実は事情があって、今度のパーティーに私の妹が必要になったの。可愛らしい、素敵な妹が。そうしたら、メアリに出会えた。これは運命だと確信したわ」
運命かどうかは分からないが、とりあえず今の家族との縁を切らなくていいことは理解した。
「そうなのですか。それでしたら──」
「ありがとうメアリ! 私の可愛い妹!」
「どうせなら、一日だけじゃなくて、ずっとでもよくてよ?」
リリィの母にそう言われて苦笑いで返す。せっかくほっとしたばかりだというのに、それは非常に困る。
「そうと決まれば、パーティーのドレスを決めましょ。私の妹だから、色違いのお揃いもいいわ」
「わっ」
「ドレス自体はそれぞれのお顔の雰囲気に合わせて作って、パーツでお揃いにするのもおしゃれですわ」
「それもいい!」
「はわわ」
盛り上がる二人に挟まれ、結局帰宅を許されたのは夕方であった。
「お気に入りの紅茶なの。どうぞ」
「有難う御座います。いただきます」
高級そうなカップを持ち、紅茶を味わう。全然味がしない。緊張が限界を超えていた。今すぐ転移魔法で帰宅したい。これも習っていなくて分からないけれども。
バン!
瞬間、メアリはカップを落としそうになった。両手で掴み、どうにか地面と仲良しになる危機を脱する。大きな音をした方向を見遣ると、リリィに似た女性が立っていた。おそらく母親だろう。
「リリィ。私に挨拶が無かったのですが?」
リリィが言われたのにどきりとする。怖い人だろうか。リリィがすぐさま立ち上がり、女性の元に走り寄った。
「ごめんなさいお母様。初めての妹に舞い上がってしまい、帰宅の報告が遅れてしまいました。ただいま戻りました」
「おかえりさない。それより、今なんと言ったのですか? 妹がどうとか……まさか貴方……」
メアリは二人の会話の後ろで縮こまっていた。いっそ本当に小さくなって消えてしまいたい。リリィの母がメアリを見つめた。目が合ってしまった。仕方なく、二人の前へ歩く。
「はじめまして、メアリ・ローリアスと申します」
「まあ! まあまあ!」
──あれ?
てっきり、勝手に屋敷にいることを叱られると思ったのに、先ほどのリリィと同じ反応をされた。驚いていたら抱きしめられた。リリィより情熱的である。
「ではこの子が?」
「そうです。可愛らしいでしょう?」
「ええ、ばっちりね! 私に新たな子どもが出来て嬉しいわ!」
親子そろってとんでもない思考の持ち主だった。人一人を違う家庭に移そうというテンションがこれでいいものだろうか。
そうだ。これはとても重要で、重大なことだ。身分の違いはあれど、拒否しても処分されはしないはず。相手がまともであれば。メアリは勇気を振り絞った。
「あああの、大変嬉しいお申し出なのですが、私には大切にしている両親がおりまして……!」
メアリの言葉が部屋に響く。二人の顔がまともに見られない。感情の高ぶりで涙まで滲んできた。情けない。リリィの母がメアリの頬に手を当てる。
「安心してください。貴方とご両親は家族のままですよ。私たちとは、そう、仮の家族とでも言いましょうか」
僅かな希望にメアリが顔を上げる。
「それはどういう?」
「私から説明させてちょうだい!」
リリィが右手を胸元に当て、左手を腰に当てて瞳を輝かせ言った。
「実は事情があって、今度のパーティーに私の妹が必要になったの。可愛らしい、素敵な妹が。そうしたら、メアリに出会えた。これは運命だと確信したわ」
運命かどうかは分からないが、とりあえず今の家族との縁を切らなくていいことは理解した。
「そうなのですか。それでしたら──」
「ありがとうメアリ! 私の可愛い妹!」
「どうせなら、一日だけじゃなくて、ずっとでもよくてよ?」
リリィの母にそう言われて苦笑いで返す。せっかくほっとしたばかりだというのに、それは非常に困る。
「そうと決まれば、パーティーのドレスを決めましょ。私の妹だから、色違いのお揃いもいいわ」
「わっ」
「ドレス自体はそれぞれのお顔の雰囲気に合わせて作って、パーツでお揃いにするのもおしゃれですわ」
「それもいい!」
「はわわ」
盛り上がる二人に挟まれ、結局帰宅を許されたのは夕方であった。