国一冷徹の皇子と結婚した不運令嬢は、神木とともに魔術を極めて皇子を援護する
ロインの秘密
遠征で役に立ちたいとなると、遠隔操作出来る何かを身に付けなければならない。まだ魔力を増幅させたばかりの知識不足では方法までなかなか思いつかないのだ。ロカロスも一緒になってうんうん唸る。
「ロインはカリス国を出ることはあるのか?」
「外交でたまにあるみたい。普段は演習か、モンスター討伐とか」
「国境を遠く離れるのは無理だが、国内か国境付近ならば、どこにいても私を通して見ることは出来るぞ。それに、何か媒体になるものを持たせれば、それを介してメアリの魔術を具現化出来る」
「そうなの!?」
思った以上にロカロスが有能で言葉を失う。それならば、魔術を研究したら、今のメアリでも十分成果を発揮出来そうだ。
メアリが興奮した面持ちで紙とペンを取り出す。
「ありがとう。さっそくそれに合う魔術を考えるわ。私たち二人いれば、きっとロイン様のお役に立てる」
「私は別にあやつのことなど」
「どの本がいいかしら~」
「まあ、メアリが喜んでくれるならいいか」
ロカロスは親友の笑顔で妥協することにした。
「よし……これで行きましょ」
時間いっぱい使って、使えそうな魔術を完成させる。ただ、まだ計画しただけなので、実践してみなければどれだけ有効か分からない。
「ロイン様にお渡ししよう」
魔力を込めたロカロスの葉を両手で大切に持つ。あとはこれをロインが持ってくれたらいいのだが。
「そこが一番の問題かしら」
ロカロスの世界から自室に戻り、葉を小さな布袋の中にいれながら悩む。さながらお守りのような何かが出来上がったが、これをロインが持って外出してくれるかは、普段の態度を見る限り厳しいかもしれない。
「こっそり入れるのは失礼よね。とりあえずロイン様にお伺いして、いらないと言われたらノウさんに持ってもらおう」
ノウならロインの傍にたいていいるので、魔術の効果的に問題無い。メアリは立ち上がり、ロインの部屋を訪ねることにした。
いざ、ロインの部屋を前にすると緊張が走る。訪ねただけで文句を言われたらどうしよう。妻だから平気か、はたまたこれもロインからしたら失礼か。しかし、遠征時にいきなり渡しても、受け取ってはくれないだろう。
「……よし」
コンコン。
控え目にノックをする。返事は無い。今は自室にいるはずだから、小さすぎて聞こえなかったのかもしれない。もう一度、今度は通常通りの強さでノックする。
ドカドカッッ!
瞬間、中から大きな物が落ちる音がした。音からして、大き目の家具か、もしくは人か。ロインに何かあったら大変だ。メアリが廊下から呼びかける。
「どうしました!? お体の具合でも悪いのですか?」
「大丈夫だ。落ちただけで」
「落ちた!? お怪我があっては大変です。失礼ですが、中に入らせて頂きます!」
「いや、待て! 準備が!」
ロインが心配で、止める言葉を遮って中に入る。
部屋では地面に落ちた大きな箱と脚立、その横に尻もちをつくロインがいた。高いところにあった箱を取ろうとして落ちたのだろうか。箱から飛び出した写真が何枚か散らばっている。
「ロイン様!」
「あ!」
「え?」
写真を隠そうとする、普段では考えられないロインの慌てた行動に、メアリの目線もそちらに向く。メアリの写真が落ちていた。
ロインが顔を真っ赤にさせて、メアリの前に立つ。写真はロインの後ろにあり、今は見えない。
あの写真たちはなんだったのか。メアリの姿に見えたが、あのような写真を撮られたことがないので幻かもしれない。もしくはメアリにそっくりな別人か。悩んでいると、ロインの顔が今度は青白くなった。今にも倒れてしまいそうだ。
「見たのか」
「あの、ええと、お写真でしょうか」
「そうだ」
「ええと……申し訳ありません、少しだけ」
正直に答えると、ロインはため息を吐きながら倒れ込む。怪我をしないよう、背中や腕に手をかけると、また真っ赤な顔で拒否をされた。先ほどから顔の色がくるくる変わって体調に異変をきたしそうだ。
「勝手に入ってしまい、申し訳ありませんでした」
深々頭を下げる。写真は自分のように思えたが違うだろうし、ロインも全く怪我が無かったので、結果だけ見ればただただメアリが先走った形になった。その思いを込めてみたが、ロインからは何の反応も返ってこない。
恐る恐る顔を上げる。どれだけロインが怒っているのか不安に思っていたら、ロインは両手で顔を隠して震えていた。
「何故!?」
震えたいのはこちらの方なのに、何が彼をこんな風にさせたのか。
──どうしましょう。お慰めした方がいいのかしら……。
「バレてしまったのですね」
ふいに後ろから声が聞こえた。振り返ると、ノウが立っていた。
「ノウさん! あの、ロイン様が震え出して」
「ご安心ください。体調が悪くなったのではありません。精神的な方です」
「精神的な!?」
全然安心出来ず、メアリがロインに近寄る。ロインがさらに震え出した。
「それ以上近付かないで!」
「えっ」
ここにいない誰かが叫んだのかと思った。しかし、声はロインだ。ロインがロインらしからぬ話し方で叫んだ。どういうことだ。先ほどから意外なことだらけで頭が追い付かない。
「ご安心ください。頭が狂ったわけではありません。こちらが本来のロイン様で御座います」
「こちらが……!」
ノウが衝撃の事実を淡々と発表する。メアリの頭が処理を拒否した。
全く訳が分からない。本来のというからには、いつもの彼は偽ということだ。何故そんなことをするのかさっぱり分からない。
じっと見つめ過ぎたのか、ロインが両手を隠したまま顔を背けた。
「かわいい」
「可愛くない!」
どういうことだろう。
「ロインはカリス国を出ることはあるのか?」
「外交でたまにあるみたい。普段は演習か、モンスター討伐とか」
「国境を遠く離れるのは無理だが、国内か国境付近ならば、どこにいても私を通して見ることは出来るぞ。それに、何か媒体になるものを持たせれば、それを介してメアリの魔術を具現化出来る」
「そうなの!?」
思った以上にロカロスが有能で言葉を失う。それならば、魔術を研究したら、今のメアリでも十分成果を発揮出来そうだ。
メアリが興奮した面持ちで紙とペンを取り出す。
「ありがとう。さっそくそれに合う魔術を考えるわ。私たち二人いれば、きっとロイン様のお役に立てる」
「私は別にあやつのことなど」
「どの本がいいかしら~」
「まあ、メアリが喜んでくれるならいいか」
ロカロスは親友の笑顔で妥協することにした。
「よし……これで行きましょ」
時間いっぱい使って、使えそうな魔術を完成させる。ただ、まだ計画しただけなので、実践してみなければどれだけ有効か分からない。
「ロイン様にお渡ししよう」
魔力を込めたロカロスの葉を両手で大切に持つ。あとはこれをロインが持ってくれたらいいのだが。
「そこが一番の問題かしら」
ロカロスの世界から自室に戻り、葉を小さな布袋の中にいれながら悩む。さながらお守りのような何かが出来上がったが、これをロインが持って外出してくれるかは、普段の態度を見る限り厳しいかもしれない。
「こっそり入れるのは失礼よね。とりあえずロイン様にお伺いして、いらないと言われたらノウさんに持ってもらおう」
ノウならロインの傍にたいていいるので、魔術の効果的に問題無い。メアリは立ち上がり、ロインの部屋を訪ねることにした。
いざ、ロインの部屋を前にすると緊張が走る。訪ねただけで文句を言われたらどうしよう。妻だから平気か、はたまたこれもロインからしたら失礼か。しかし、遠征時にいきなり渡しても、受け取ってはくれないだろう。
「……よし」
コンコン。
控え目にノックをする。返事は無い。今は自室にいるはずだから、小さすぎて聞こえなかったのかもしれない。もう一度、今度は通常通りの強さでノックする。
ドカドカッッ!
瞬間、中から大きな物が落ちる音がした。音からして、大き目の家具か、もしくは人か。ロインに何かあったら大変だ。メアリが廊下から呼びかける。
「どうしました!? お体の具合でも悪いのですか?」
「大丈夫だ。落ちただけで」
「落ちた!? お怪我があっては大変です。失礼ですが、中に入らせて頂きます!」
「いや、待て! 準備が!」
ロインが心配で、止める言葉を遮って中に入る。
部屋では地面に落ちた大きな箱と脚立、その横に尻もちをつくロインがいた。高いところにあった箱を取ろうとして落ちたのだろうか。箱から飛び出した写真が何枚か散らばっている。
「ロイン様!」
「あ!」
「え?」
写真を隠そうとする、普段では考えられないロインの慌てた行動に、メアリの目線もそちらに向く。メアリの写真が落ちていた。
ロインが顔を真っ赤にさせて、メアリの前に立つ。写真はロインの後ろにあり、今は見えない。
あの写真たちはなんだったのか。メアリの姿に見えたが、あのような写真を撮られたことがないので幻かもしれない。もしくはメアリにそっくりな別人か。悩んでいると、ロインの顔が今度は青白くなった。今にも倒れてしまいそうだ。
「見たのか」
「あの、ええと、お写真でしょうか」
「そうだ」
「ええと……申し訳ありません、少しだけ」
正直に答えると、ロインはため息を吐きながら倒れ込む。怪我をしないよう、背中や腕に手をかけると、また真っ赤な顔で拒否をされた。先ほどから顔の色がくるくる変わって体調に異変をきたしそうだ。
「勝手に入ってしまい、申し訳ありませんでした」
深々頭を下げる。写真は自分のように思えたが違うだろうし、ロインも全く怪我が無かったので、結果だけ見ればただただメアリが先走った形になった。その思いを込めてみたが、ロインからは何の反応も返ってこない。
恐る恐る顔を上げる。どれだけロインが怒っているのか不安に思っていたら、ロインは両手で顔を隠して震えていた。
「何故!?」
震えたいのはこちらの方なのに、何が彼をこんな風にさせたのか。
──どうしましょう。お慰めした方がいいのかしら……。
「バレてしまったのですね」
ふいに後ろから声が聞こえた。振り返ると、ノウが立っていた。
「ノウさん! あの、ロイン様が震え出して」
「ご安心ください。体調が悪くなったのではありません。精神的な方です」
「精神的な!?」
全然安心出来ず、メアリがロインに近寄る。ロインがさらに震え出した。
「それ以上近付かないで!」
「えっ」
ここにいない誰かが叫んだのかと思った。しかし、声はロインだ。ロインがロインらしからぬ話し方で叫んだ。どういうことだ。先ほどから意外なことだらけで頭が追い付かない。
「ご安心ください。頭が狂ったわけではありません。こちらが本来のロイン様で御座います」
「こちらが……!」
ノウが衝撃の事実を淡々と発表する。メアリの頭が処理を拒否した。
全く訳が分からない。本来のというからには、いつもの彼は偽ということだ。何故そんなことをするのかさっぱり分からない。
じっと見つめ過ぎたのか、ロインが両手を隠したまま顔を背けた。
「かわいい」
「可愛くない!」
どういうことだろう。