国一冷徹の皇子と結婚した不運令嬢は、神木とともに魔術を極めて皇子を援護する
小さな贈り物
どうしたらいいのだろう。メアリは自力で解決することを放棄した。
そうだ、こんな時こそ数千年生きていると言われるロカロスに助言をと思ったら、ロカロスがどこにもいなかった。恐らく途中で飽きて帰ったのだろう。ツライ。
ノウがポンと手を叩く。
「失礼しました。いきなり申し上げても混乱しますよね。端的に言いますと、本来のロイン様はこのような感じで、普段の態度は殻を被っていると考えて頂ければ宜しいかと存じます」
「そ、それでは、あの、冷た、クールなロイン様は本意ではないと……?」
「はい」
メアリは一生分の雷をこの身に受けた気がした。つまり、国一冷徹だと噂されているこれが全て演技だったということになる。なんということだ。何故そのようなことをするのか。さっぱり理解出来ない。優しい第一皇子の方が国民の印象も良いだろうに。
「ノウ、それ以上言うなら即刻クビにする」
ロインの言葉に、ノウが苦笑いする。その言葉も、両手を顔に当てた状態では何も怖くない。
「では、私は一旦退散させて頂きます」
「あっ」
あっさりと帰られてしまった。結局二人きりになるのか。メアリがロインに振り向く。ちょっと震えられた。まだこれがロインなのか疑いたくなる。ロインの偽物だと言われた方が納得出来る。
「……幻滅した?」
くぐもった声がする。メアリが一歩近づいた。
「いいえ、驚きはしましたけど、幻滅はしていません。ロイン様はロイン様です」
「ほんとう?」
「はい」
ようやく、ロインの顔から手が離れる。まだ顔は赤く、瞳には涙が滲んでいた。幼児を見ている気分になった。
「嫌わないでくれ」
「ご心配なさらないでください」
「ありがとう」
このままでは泣き出しそうなので、妻としてどうにか励ましたい。思い出したメアリがずっと持っていた袋をロインに渡した。
「これは?」
「お守りです。手作りなので不格好ですが。もしご迷惑でなければ、遠征の時にお持ちになってくださると嬉しいです」
ロインが不思議そうな面持ちで袋を三百六十度観察するので、恥ずかしくて今度はメアリが赤面した。
「有難く受け取ろう」
「嬉しいです」
「うん」
「で、では、そろそろ失礼しますね!」
お互いいろいろと限界で、メアリは逃げるようにロインの部屋を出た。
脳内大パニックに陥りながらもどうにか廊下を走らずに自室へ避難成功したメアリは、そのままベッドにダイブした。
「新しい遊びか?」
「違う!」
ミニサイズで窓から入ってきたロカロスが呑気で羨ましい。メアリがじとりとロカロスを見遣る。
「顔が赤いぞ。ロインに何か言われたか?」
「言われたというかなんというか」
まだ顔が赤いことを理解して、ベッドに顔を押し込む。苦しい。ロカロスがそれを覗いてこようと頭の上を飛ぶので、メアリは足をバタバタさせた。
「楽しそうじゃ。先ほどのロインはおかしかったが、メアリにも移ったか」
いい加減苦しくなったので、仕方なく顔を少しだけ横に向ける。ロカロスがそのすぐ前に座った。距離が近すぎる。メアリは仰向けになった。
「ロカロスはいつロイン様の部屋から出たの?」
「いつ……? ロインが顔を隠して暴れ始めた頃だったか。面倒そうだから庭に出ていた」
相変わらず、ロカロスはロインのことが好きではないらしい。しかし、ロインの本当の姿を見たら、きっと考えも変わるだろう。仲良くしてくれとは言わないが、ケンカ腰ではなくなればいいと思う。
「あのね、とてもすごいことを知ってしまって」
そこまで言って、はたと気が付いた。ロインは今の今まで性格を偽って生きてきた。つまり、周りには知られたくないということだ。ここでロカロスにメアリから真実を伝えてもいいものか。
半分逃げ出す形で別れたので、また本人のところに戻って聞くのはハードルが高すぎる。
「なんじゃ。早く言ってくれ」
「ごめんなさい。ロイン様のことなんだけど、ちょっと確認してから報告するわね」
「ロインか。なら、いつだっていい」
ロカロスは自分に正直なため、すぐに納得してくれて助かった。もしダメだとしたら、ここで余計なことをして拗らせることになり、大変な未来になってしまう。なにせ、ロカロスは国の平穏を保つ象徴なのだから。
──まあ、でも、本人が神木として何かをしている感じはしないけれど。
「この後はどうする?」
「今日は帰る。メアリも疲れているようだし」
「気を遣ってくれてありがとう。また明日遊びましょ」
確かに、疲れていると言われたら疲れている。主に精神的に。しかし、メアリにはまだ一つ用事が残っている。ロアに見つからないよう廊下に出たところでロアが来た。さっそく失敗した。
「何かご用事でしょうか?」
「あの、ノウさんのところに」
「ノウ……のところですか。かしこまりました……」
そうだ、こんな時こそ数千年生きていると言われるロカロスに助言をと思ったら、ロカロスがどこにもいなかった。恐らく途中で飽きて帰ったのだろう。ツライ。
ノウがポンと手を叩く。
「失礼しました。いきなり申し上げても混乱しますよね。端的に言いますと、本来のロイン様はこのような感じで、普段の態度は殻を被っていると考えて頂ければ宜しいかと存じます」
「そ、それでは、あの、冷た、クールなロイン様は本意ではないと……?」
「はい」
メアリは一生分の雷をこの身に受けた気がした。つまり、国一冷徹だと噂されているこれが全て演技だったということになる。なんということだ。何故そのようなことをするのか。さっぱり理解出来ない。優しい第一皇子の方が国民の印象も良いだろうに。
「ノウ、それ以上言うなら即刻クビにする」
ロインの言葉に、ノウが苦笑いする。その言葉も、両手を顔に当てた状態では何も怖くない。
「では、私は一旦退散させて頂きます」
「あっ」
あっさりと帰られてしまった。結局二人きりになるのか。メアリがロインに振り向く。ちょっと震えられた。まだこれがロインなのか疑いたくなる。ロインの偽物だと言われた方が納得出来る。
「……幻滅した?」
くぐもった声がする。メアリが一歩近づいた。
「いいえ、驚きはしましたけど、幻滅はしていません。ロイン様はロイン様です」
「ほんとう?」
「はい」
ようやく、ロインの顔から手が離れる。まだ顔は赤く、瞳には涙が滲んでいた。幼児を見ている気分になった。
「嫌わないでくれ」
「ご心配なさらないでください」
「ありがとう」
このままでは泣き出しそうなので、妻としてどうにか励ましたい。思い出したメアリがずっと持っていた袋をロインに渡した。
「これは?」
「お守りです。手作りなので不格好ですが。もしご迷惑でなければ、遠征の時にお持ちになってくださると嬉しいです」
ロインが不思議そうな面持ちで袋を三百六十度観察するので、恥ずかしくて今度はメアリが赤面した。
「有難く受け取ろう」
「嬉しいです」
「うん」
「で、では、そろそろ失礼しますね!」
お互いいろいろと限界で、メアリは逃げるようにロインの部屋を出た。
脳内大パニックに陥りながらもどうにか廊下を走らずに自室へ避難成功したメアリは、そのままベッドにダイブした。
「新しい遊びか?」
「違う!」
ミニサイズで窓から入ってきたロカロスが呑気で羨ましい。メアリがじとりとロカロスを見遣る。
「顔が赤いぞ。ロインに何か言われたか?」
「言われたというかなんというか」
まだ顔が赤いことを理解して、ベッドに顔を押し込む。苦しい。ロカロスがそれを覗いてこようと頭の上を飛ぶので、メアリは足をバタバタさせた。
「楽しそうじゃ。先ほどのロインはおかしかったが、メアリにも移ったか」
いい加減苦しくなったので、仕方なく顔を少しだけ横に向ける。ロカロスがそのすぐ前に座った。距離が近すぎる。メアリは仰向けになった。
「ロカロスはいつロイン様の部屋から出たの?」
「いつ……? ロインが顔を隠して暴れ始めた頃だったか。面倒そうだから庭に出ていた」
相変わらず、ロカロスはロインのことが好きではないらしい。しかし、ロインの本当の姿を見たら、きっと考えも変わるだろう。仲良くしてくれとは言わないが、ケンカ腰ではなくなればいいと思う。
「あのね、とてもすごいことを知ってしまって」
そこまで言って、はたと気が付いた。ロインは今の今まで性格を偽って生きてきた。つまり、周りには知られたくないということだ。ここでロカロスにメアリから真実を伝えてもいいものか。
半分逃げ出す形で別れたので、また本人のところに戻って聞くのはハードルが高すぎる。
「なんじゃ。早く言ってくれ」
「ごめんなさい。ロイン様のことなんだけど、ちょっと確認してから報告するわね」
「ロインか。なら、いつだっていい」
ロカロスは自分に正直なため、すぐに納得してくれて助かった。もしダメだとしたら、ここで余計なことをして拗らせることになり、大変な未来になってしまう。なにせ、ロカロスは国の平穏を保つ象徴なのだから。
──まあ、でも、本人が神木として何かをしている感じはしないけれど。
「この後はどうする?」
「今日は帰る。メアリも疲れているようだし」
「気を遣ってくれてありがとう。また明日遊びましょ」
確かに、疲れていると言われたら疲れている。主に精神的に。しかし、メアリにはまだ一つ用事が残っている。ロアに見つからないよう廊下に出たところでロアが来た。さっそく失敗した。
「何かご用事でしょうか?」
「あの、ノウさんのところに」
「ノウ……のところですか。かしこまりました……」