国一冷徹の皇子と結婚した不運令嬢は、神木とともに魔術を極めて皇子を援護する
シャドーウルフ
「体調はいかがですか?」
仮眠を取ることなど初めてだったためロアに心配されてしまったが、元気なことをアピールしてどうにかやり過ごす。お守りの中身はまだ開発途中で誰にも伝えていない。なるべく知られずに運用していきたいのだ。
「ちょっと眠かっただけなので。心配かけてすみません」
「いえ、それならよかったです。おやすみなさいませ」
「おやすみなさい」
ようやく夜が来た。時折ロインの様子を確認したが、何も問題はなかった。今回は隣国との協定の更新に行くだけだ。今まであった他の遠征も何も起こらなかった。心配しなくてもいい。
メアリが葉に投影を施す。ロインたちは無事国境を越えたらしく、平原で火を焚き、寝る準備をしているところだった。見張りの兵士が立ち、その横にテントが見える。
「うんうん、順調ね」
「おかしいぞ」
「ロカロス」
いつの間にか戻ってきていたロカロスが投影された映像を睨む。一緒になって観察するが、どこも不自然なところはない。
「どこ?」
「声がする」
「声……?」
映像の見た目ばかり気にしていたが、ロカロスに言われ耳を澄ませる。確かに遠くから何か声がする。人間の声ではない。メアリが葉に手を翳した。
「拡張」
映像が先ほどより広範囲になる。拡張したことで使用される魔力が増えるが、半日温存していたのでまだ余力は十分ある。
「いた!」
まだ陣営から離れているが、奥に光る眼が見えた。
「暗くて分かりづらいけど、多分シャドーウルフだわ」
「うむ」
シャドーウルフは影のように黒く、闇に紛れて人を襲う魔物だ。メアリは驚いた。シャドーウルフはカリス国では辺境の山奥にしか生息していないはず。
「国境を越えたからかしら」
「いや、ここは見たところ魔物が餌にする小動物はいなさそうだ。少々不自然じゃ」
「そう……ロイン様たち、まだ気付いていない」
騎士団が付いていれば対応出来る程度のレベル。しかし、不意打ちをされたら、怪我人は出るだろう。
「メアリ、やってみるか?」
「……ええ」
葉を通して映像を見ることはすでに練習でも出来ていたが、それ以上のことは誰かに持ってもらわないといけないため実践したことはない。緊張した面持ちで、メアリが魔力を込めた。
「光」
すると、映像が一瞬眩しく光った。成功だ。光に驚いたロインたちが辺りを見渡すが、驚いたのは人間だけではない。一番早く反応したシャドーウルフが一目散に逃げていく。メアリはほっとしてその場にしゃがみ込んだ。
「せ、成功した……」
初めての試みなので上手くいくか不安だった。でも、役に立てた。ロインの妻として、カリス国の一人として。シャドーウルフについては改めて考えなくてはならないが、ひとまずの安全は確保出来ただろう。
「あ」
映像を見てメアリが声を上げる。成功はしたが、ロインたちを警戒させてしまった。休んでいた兵士たちも配置に付いている。しかし、また新たな魔物が現れるかもしれない。今回はこれくらいでちょうどいいかもしれない。
「次からはもっと目立たないように工夫しなくちゃ」
あくまで主役は第一皇子。メアリは影で手助けをしていたい。
その後しばらく観察していたが、シャドーウルフが戻ってくる気配は無く、夜明け前にメアリは就寝した。
約三時間の睡眠で朝が来た。昨日昼寝をしたが足りなかったらしく欠伸が出る。しかし、眠いからといって妃の勉強を疎かにするわけにもいかない。手助けをしたいと言っておきながら本末転倒だ。
妃はしっかり務める。そして手助けもする。この順序を間違えてはならない。
午前中の勉強を気力のみで耐え、この日はゆっくり過ごすことにした。明後日ロインたちが戻る予定なので、明日の夜も念のため野営の様子だけチェックする予定だ。
「働き者じゃのう」
「トレーニングしているだけよ」
「ロインの為だろう」
「それはそうだけど」
ロカロスの世界にいる間、魔力増量のためトレーニングに勤しむ。ここなら自由に体を動かせるので、ストレス発散にもなって一石二鳥だ。
「ロカロスはやらないの?」
「私は読書」
メアリに教わった本が面白いらしく、ソファとテーブルを出現させ、そこに本を何冊も積み上げている。メアリがいない間もいろいろな本を読み漁っているらしい。暇だ暇だと言っていたから、趣味が出来てよかった。
「今は何を読んでいるの?」
「野菜の育て方」
「昨日は戦術の本じゃなかった?」
「その前は絵本じゃ。どれも面白いぞ」
テーブルの上には確かに多種多様な本が載っている。楽しそうでなによりだ。
「よし。魔力集中」
一通りのトレーニングが終わったメアリが手のひらに魔力を集める。明らかに数か月前とは段違いの量が集まった。
「やった。ロカロス……って、何それ!」
「野菜じゃ」
野菜の育て方を読んでいたはずのロカロスの足元には、立派な人参畑が出来上がっていた。
「これが人参か。他にも作ってみよう」
「食べ物を作るなら粗末にしてはダメよ。後でキッチンへおすそ分けに行きましょう」
「わかった」
仮眠を取ることなど初めてだったためロアに心配されてしまったが、元気なことをアピールしてどうにかやり過ごす。お守りの中身はまだ開発途中で誰にも伝えていない。なるべく知られずに運用していきたいのだ。
「ちょっと眠かっただけなので。心配かけてすみません」
「いえ、それならよかったです。おやすみなさいませ」
「おやすみなさい」
ようやく夜が来た。時折ロインの様子を確認したが、何も問題はなかった。今回は隣国との協定の更新に行くだけだ。今まであった他の遠征も何も起こらなかった。心配しなくてもいい。
メアリが葉に投影を施す。ロインたちは無事国境を越えたらしく、平原で火を焚き、寝る準備をしているところだった。見張りの兵士が立ち、その横にテントが見える。
「うんうん、順調ね」
「おかしいぞ」
「ロカロス」
いつの間にか戻ってきていたロカロスが投影された映像を睨む。一緒になって観察するが、どこも不自然なところはない。
「どこ?」
「声がする」
「声……?」
映像の見た目ばかり気にしていたが、ロカロスに言われ耳を澄ませる。確かに遠くから何か声がする。人間の声ではない。メアリが葉に手を翳した。
「拡張」
映像が先ほどより広範囲になる。拡張したことで使用される魔力が増えるが、半日温存していたのでまだ余力は十分ある。
「いた!」
まだ陣営から離れているが、奥に光る眼が見えた。
「暗くて分かりづらいけど、多分シャドーウルフだわ」
「うむ」
シャドーウルフは影のように黒く、闇に紛れて人を襲う魔物だ。メアリは驚いた。シャドーウルフはカリス国では辺境の山奥にしか生息していないはず。
「国境を越えたからかしら」
「いや、ここは見たところ魔物が餌にする小動物はいなさそうだ。少々不自然じゃ」
「そう……ロイン様たち、まだ気付いていない」
騎士団が付いていれば対応出来る程度のレベル。しかし、不意打ちをされたら、怪我人は出るだろう。
「メアリ、やってみるか?」
「……ええ」
葉を通して映像を見ることはすでに練習でも出来ていたが、それ以上のことは誰かに持ってもらわないといけないため実践したことはない。緊張した面持ちで、メアリが魔力を込めた。
「光」
すると、映像が一瞬眩しく光った。成功だ。光に驚いたロインたちが辺りを見渡すが、驚いたのは人間だけではない。一番早く反応したシャドーウルフが一目散に逃げていく。メアリはほっとしてその場にしゃがみ込んだ。
「せ、成功した……」
初めての試みなので上手くいくか不安だった。でも、役に立てた。ロインの妻として、カリス国の一人として。シャドーウルフについては改めて考えなくてはならないが、ひとまずの安全は確保出来ただろう。
「あ」
映像を見てメアリが声を上げる。成功はしたが、ロインたちを警戒させてしまった。休んでいた兵士たちも配置に付いている。しかし、また新たな魔物が現れるかもしれない。今回はこれくらいでちょうどいいかもしれない。
「次からはもっと目立たないように工夫しなくちゃ」
あくまで主役は第一皇子。メアリは影で手助けをしていたい。
その後しばらく観察していたが、シャドーウルフが戻ってくる気配は無く、夜明け前にメアリは就寝した。
約三時間の睡眠で朝が来た。昨日昼寝をしたが足りなかったらしく欠伸が出る。しかし、眠いからといって妃の勉強を疎かにするわけにもいかない。手助けをしたいと言っておきながら本末転倒だ。
妃はしっかり務める。そして手助けもする。この順序を間違えてはならない。
午前中の勉強を気力のみで耐え、この日はゆっくり過ごすことにした。明後日ロインたちが戻る予定なので、明日の夜も念のため野営の様子だけチェックする予定だ。
「働き者じゃのう」
「トレーニングしているだけよ」
「ロインの為だろう」
「それはそうだけど」
ロカロスの世界にいる間、魔力増量のためトレーニングに勤しむ。ここなら自由に体を動かせるので、ストレス発散にもなって一石二鳥だ。
「ロカロスはやらないの?」
「私は読書」
メアリに教わった本が面白いらしく、ソファとテーブルを出現させ、そこに本を何冊も積み上げている。メアリがいない間もいろいろな本を読み漁っているらしい。暇だ暇だと言っていたから、趣味が出来てよかった。
「今は何を読んでいるの?」
「野菜の育て方」
「昨日は戦術の本じゃなかった?」
「その前は絵本じゃ。どれも面白いぞ」
テーブルの上には確かに多種多様な本が載っている。楽しそうでなによりだ。
「よし。魔力集中」
一通りのトレーニングが終わったメアリが手のひらに魔力を集める。明らかに数か月前とは段違いの量が集まった。
「やった。ロカロス……って、何それ!」
「野菜じゃ」
野菜の育て方を読んでいたはずのロカロスの足元には、立派な人参畑が出来上がっていた。
「これが人参か。他にも作ってみよう」
「食べ物を作るなら粗末にしてはダメよ。後でキッチンへおすそ分けに行きましょう」
「わかった」