国一冷徹の皇子と結婚した不運令嬢は、神木とともに魔術を極めて皇子を援護する
実家に帰ろう
「ここがメアリの家か」
「お城に比べると狭いけれど、とても素敵な家よ」
「うん。手入れが行き届いていて良いところだ」
無事、葉がローリアス家に届いたことで、メアリとロカロスはメアリの実家にやってきていた。事を大げさにしたくないので、葉を通して実家に帰っていることはロインに話していない。
「ロカロス、ここに来られることはいちおう内緒にしてね」
「分かった。知られたらロインが五月蠅いんじゃな」
秘密と言ってもノウには報告している。ロアにも報告しようとしたが、ノウにあまり大げさにしなくていいと言われたので知っているのは彼だけだ。
「さて、お父様たちに挨拶しましょ」
今日来ることは伝えているが、何時になるかは未定だったので彼らはすでに到着していることを知らない。扉を叩こうとしたら、その前に開かれた。
「メアリ。おかえりなさい!」
「お母様!」
現れた母にぎゅうぎゅうに抱きしめられる。その温かさが堪らなくて、メアリも背中に腕を回した。
「ただいま戻りました」
「さあさあ、中へ入って。あら、こちらが精霊さんなのね。ようこそいらっしゃいました」
「うむ。お邪魔する」
母に案内されて客間に入ると、緊張した面持ちの父が座っていた。
「お父様、戻りました」
「ああ、おかえり。そちらの精霊様もようこそ」
父が立ち上がり頭を下げる。ロカロスもそれに倣った。
用意されていた茶菓子をつまみながら、ロカロスのことを説明する。二人はたいそう驚いていた。
「まあ、伝説の神木様なのですか」
「そうなのじゃ」
ロカロスが腰に手を当てて頷く。メアリが説明を続けた。
「だから、ロカロスがここまで根を張ってくれたら、その葉っぱが無くてもすぐここに移動できるようになるのよ。一度来たところなら根が張られるみたい」
「それは有難いことです。神木様、有難う御座います」
「うむ」
満足気に頷くロカロスをメアリが微笑ましく見守る。城ではロインからやや邪見に扱われており、こうして崇拝してもらえるのが嬉しいのだろう。そもそも神木なのだからこの光景が正しいのだが。メアリも親友という立ち位置のため、神様だと崇めることはない。
「王族に嫁いで遠くに行ってしまったから、またこうやって会えるとは思っていなかったわ。本当に有難い話ね」
「そうだな」
ローリアス家は事情により気軽に城を訪ねることができない。もしも事情が無かったとしても、何かの行事ごとでもなければ難しいだろう。今回のサプライズは想像以上に喜んでもらうことができた。
「これで寂しくないわ。メアリが嫁いでから、この家はずいぶん広くなってしまっていたから。ごめんなさい、嫁いだのはとても幸せなことなのにこんなことを言って」
「ううん。私も寂しいのは同じだから」
「ところで、不運は起きていないかい? お城で嫌な思いなどは?」
父がメアリに尋ねる。メアリは笑顔で首を振った。
「何も。ロイン様もお優しいの。毎日幸せよ」
「なんと、あのロイン様が……きっとメアリの誠実な心を分かってくれたのだろう。本当によかった」
そういえば、ローリアス家は不運貴族であった。父に聞かれるまですっかり忘れていた。それだけ城での生活が充実しているということだ。
「ずっと心配していたのだ。手紙では順調だと書かれていたが、直接聞くまでは不安が拭えなかった」
「大丈夫。ロイン様、みんなが思っているよりずっと優しいの。まあ、私以外にはちょっとクールだけれど」
「それだけ愛されているのね。メアリったら第一皇子を虜にするなんてさすがだわ」
「ちょっとお母様」
「わっはっは。たしかに、ロインはメアリに夢中じゃ」
ロカロスのとどめの一言で両親がわっと沸いた。奥に控えているメイドも瞳を輝かせている。これは次にロインと顔を合わせる時は注意が必要かもしれない。
「もう、ロカロスったら」
「そんな顔をして言っても、何も怖くないぞ」
「もう!」
「ふふふ」
今日は顔合わせだけのつもりが、結局自由時間いっぱいいてしまった。間もなく午後の講義が始まるため、メアリは大急ぎで帰る支度をした。
「ごめんなさい。もう行かなくちゃ」
「また来てね。いつでも大歓迎だから」
「はい」
ロカロスの世界の入り口に入ろうとしたところで母が手を振って言った。
「新しいお花も植えたから、咲く頃にお知らせするわ」
「新しいお花!? その時は是非教えてください!」
前のめりになったメアリの体が吸い込まれ、ロカロスの世界はローリアス家の庭から完全に消え去った。父と母が顔を見合わせる。
「本当に一瞬。神木様は素晴らしい能力をお持ちなのね」
「ああ。その神木様と知り合えるメアリの魔法も素晴らしい」
「ロイン様とも上手くやれているようだし、私たちも安心して見守れるわ」
ローリアス家にまた穏やかな日常が戻った。
「お城に比べると狭いけれど、とても素敵な家よ」
「うん。手入れが行き届いていて良いところだ」
無事、葉がローリアス家に届いたことで、メアリとロカロスはメアリの実家にやってきていた。事を大げさにしたくないので、葉を通して実家に帰っていることはロインに話していない。
「ロカロス、ここに来られることはいちおう内緒にしてね」
「分かった。知られたらロインが五月蠅いんじゃな」
秘密と言ってもノウには報告している。ロアにも報告しようとしたが、ノウにあまり大げさにしなくていいと言われたので知っているのは彼だけだ。
「さて、お父様たちに挨拶しましょ」
今日来ることは伝えているが、何時になるかは未定だったので彼らはすでに到着していることを知らない。扉を叩こうとしたら、その前に開かれた。
「メアリ。おかえりなさい!」
「お母様!」
現れた母にぎゅうぎゅうに抱きしめられる。その温かさが堪らなくて、メアリも背中に腕を回した。
「ただいま戻りました」
「さあさあ、中へ入って。あら、こちらが精霊さんなのね。ようこそいらっしゃいました」
「うむ。お邪魔する」
母に案内されて客間に入ると、緊張した面持ちの父が座っていた。
「お父様、戻りました」
「ああ、おかえり。そちらの精霊様もようこそ」
父が立ち上がり頭を下げる。ロカロスもそれに倣った。
用意されていた茶菓子をつまみながら、ロカロスのことを説明する。二人はたいそう驚いていた。
「まあ、伝説の神木様なのですか」
「そうなのじゃ」
ロカロスが腰に手を当てて頷く。メアリが説明を続けた。
「だから、ロカロスがここまで根を張ってくれたら、その葉っぱが無くてもすぐここに移動できるようになるのよ。一度来たところなら根が張られるみたい」
「それは有難いことです。神木様、有難う御座います」
「うむ」
満足気に頷くロカロスをメアリが微笑ましく見守る。城ではロインからやや邪見に扱われており、こうして崇拝してもらえるのが嬉しいのだろう。そもそも神木なのだからこの光景が正しいのだが。メアリも親友という立ち位置のため、神様だと崇めることはない。
「王族に嫁いで遠くに行ってしまったから、またこうやって会えるとは思っていなかったわ。本当に有難い話ね」
「そうだな」
ローリアス家は事情により気軽に城を訪ねることができない。もしも事情が無かったとしても、何かの行事ごとでもなければ難しいだろう。今回のサプライズは想像以上に喜んでもらうことができた。
「これで寂しくないわ。メアリが嫁いでから、この家はずいぶん広くなってしまっていたから。ごめんなさい、嫁いだのはとても幸せなことなのにこんなことを言って」
「ううん。私も寂しいのは同じだから」
「ところで、不運は起きていないかい? お城で嫌な思いなどは?」
父がメアリに尋ねる。メアリは笑顔で首を振った。
「何も。ロイン様もお優しいの。毎日幸せよ」
「なんと、あのロイン様が……きっとメアリの誠実な心を分かってくれたのだろう。本当によかった」
そういえば、ローリアス家は不運貴族であった。父に聞かれるまですっかり忘れていた。それだけ城での生活が充実しているということだ。
「ずっと心配していたのだ。手紙では順調だと書かれていたが、直接聞くまでは不安が拭えなかった」
「大丈夫。ロイン様、みんなが思っているよりずっと優しいの。まあ、私以外にはちょっとクールだけれど」
「それだけ愛されているのね。メアリったら第一皇子を虜にするなんてさすがだわ」
「ちょっとお母様」
「わっはっは。たしかに、ロインはメアリに夢中じゃ」
ロカロスのとどめの一言で両親がわっと沸いた。奥に控えているメイドも瞳を輝かせている。これは次にロインと顔を合わせる時は注意が必要かもしれない。
「もう、ロカロスったら」
「そんな顔をして言っても、何も怖くないぞ」
「もう!」
「ふふふ」
今日は顔合わせだけのつもりが、結局自由時間いっぱいいてしまった。間もなく午後の講義が始まるため、メアリは大急ぎで帰る支度をした。
「ごめんなさい。もう行かなくちゃ」
「また来てね。いつでも大歓迎だから」
「はい」
ロカロスの世界の入り口に入ろうとしたところで母が手を振って言った。
「新しいお花も植えたから、咲く頃にお知らせするわ」
「新しいお花!? その時は是非教えてください!」
前のめりになったメアリの体が吸い込まれ、ロカロスの世界はローリアス家の庭から完全に消え去った。父と母が顔を見合わせる。
「本当に一瞬。神木様は素晴らしい能力をお持ちなのね」
「ああ。その神木様と知り合えるメアリの魔法も素晴らしい」
「ロイン様とも上手くやれているようだし、私たちも安心して見守れるわ」
ローリアス家にまた穏やかな日常が戻った。